書道家であり、墨絵アーティストでもある蓮水。
その活動は大書パフォーマンスから舞台公演の題字、店舗や邸宅の壁絵までと多岐に渡り、アートとデザインを行き来する。水墨画にネイルアート樹脂をコラージュする前代未聞の画風に至るまでのルーツや彼女が新たに取り組んでいる「言霊アート」について聞いた。
「幼少期は書道教室と絵画教室に通っていました。絵は触れる程度で終わってしまったんですが、書道はずっと続けました。書道、習字はお手本があって、いかにきれいに書くかというところでは正解がある、白黒はっきりしている世界が当時の私にはしっくり来たんです。」
大学では物理学を専攻し、「答えのある世界」、なんでも数式で表すことができる理にかなった世界に惹かれたという。そんな大学生活の中、書道家・武田双雲に師事することになる。武田双雲は芸術としての書に取り組んできた、いわゆる書道パフォーマンスの先駆けと言われ、国民的人気を誇る書道家だ。
「大学を卒業して一度は就職したんですが、なかなか世間一般の仕事では満足できなくて。進む道を迷っていたときに先生のアシスタントをやらせていただきました。イベントや子供教室のお手伝いをさせていただいていました。この頃は自分も何かできないかな、と模索していたときだったんですね。」
師事したのち、書道アーティストとして独立という順風満帆なコースではなかった。
「地に足を着けて書道家として食べていける人は一握りだと感じていました。武田先生のような人間性が素晴らしい先生と間近で関わらせていただいて、作品が素晴らしいことはもちろんですが、それと同じくらいタレント性がないと厳しいな、と。そこにすごく自信がなかったです。」
手に職を、と思った蓮水さんは、手先の自信を武器にネイルサロンに勤務したのち、ネイルアーティストとして独立した。その独立は、書道家への道に踏み出すための一歩だった。時間的余裕を作り、書道家としての活動を始めていく。
「私は特に香紙切(こうしぎれ)など、平安時代の仮名の古筆が大好きで。
仮名文字を書くときは墨を磨って書くんですね。書道は大体墨汁を使うので墨を磨ることがほとんどないのですが、仮名文字を書くときの墨の濃淡の美しさに魅力を感じて、その濃淡を使って幅を広げて表現をしたいなと思ったところから水墨画にたどり着いたんです。それまでは書道しかやっていなかったのですが、初めて水墨画の師匠に弟子入りしました。」
墨の濃淡だけで表現する面白さに気付き、水墨画にのめり込んでいった蓮水さん。それまで抱いていた書道家の夢は少しずつ形を変えていき、やがてネイルアート樹脂を駆使した画風が誕生する。
「書道は、『道』というくらいなのである意味修業のように自分と向き合っていく作業なんですよね。始めはお手本があるものを書くのは自分に合っていると思っていたんですが、だんだんと違和感を感じて、もっと墨の濃淡を使って色々な表現していきたいという気持ちに変化していったんです。自分のアート作品を作って世の中に発信していきたいと思ったときに、今までやってきたこと、文字を絵として捉えて水墨画で表現すること、さらには白黒の世界だけじゃなく、キラキラしたものを加えたいと思ったんです。ネイリストの経験から、指先がキラキラしていることで気持ちが上向きになるなど、キラキラしたものが嫌いという人はほとんどいないと思うんですよ。私には小さい娘がいるんですが、女の子だけじゃなくて男の子でも小さい子ってキラキラしたものに反応するんですよね。それが人間の心理だと思っていて、やはり人間は美しいものやきれいなものに幸せを感じるんです。水墨画の白黒の世界も好きなんですが、そこに樹脂の輝きや艶感を取り入れて、可愛さや美しさを加えたいと思いました。平面の作品に樹脂をコラージュすることで立体になっていく視覚的な面白さもあります。」
水墨画や書は和室の床の間に飾られることを前提としている。そこで、洋の空間のインテリアとして溶け込む作品を作りたかったという。
そこで縦ではなく横長のパネルを用いたりするなど、和に洋の要素を取り入れ、トータル的に空間に合うものを作っていった。空間に合わせて作る、ややデザイン寄りの制作方法も蓮水さんならではだ。
「そこは私の中で一つ課題でもあるのですが、ネイリストをずっとやってきた感覚で言うと、自分がやりたいデザインをお客様に押し付けるのではなくてお客様が求めているものにどう応えていくかが大事だったので、アートに置き換えても同じで、見ている人が幸せになるものや家に飾って美しいものを作りたいというのがあって。空間やクライアントの希望に合わせて作ることを好むと内から出てくるものを作れないというもどかしさもあって葛藤していました。」