Interview注目の作家

大平美保
絵画に込める「小さな生き物達が幸せに生きる世界」
小さな生き物が生きる姿を豊かに表現
キャンバスに息づく虫や草花、カラフルな魚たち。大平美保さんの創り出す世界には、暖かな生命と光が共存する。   「デジタルイラストや油絵も好きですが、最近使うのはもっぱらアクリル絵の具。乾きが早いのでどんどん描き足していけるし、仕上がりも早いんです。 絵のイメージは、描く前にだいたい決めていますね。 デザインのヒントを得ようとしなくても、パッと思いついたり、子どもの頃の記憶がアイデアに反映されたり。」   幼少期から絵を描くのが好きだった大平さんは、田んぼや雑木林のある田舎でのびのびと育った。   「子どもの頃は近所の林で虫取りをしたり、小川で魚をすくったりしていました。私の作品は、あの頃に見たものや感じたものが原点。 小さな生き物たちをちょっと擬人化させて、幸せに生きている姿を想像しながら作品を描いています」   普通に幸せに暮らして行くには、環境が重要だと大平さんは言う。   「虫はきれいな空気や土壌、そこに生えている植物がない世界では生きていけません。 魚は水質、水草、海藻などが重要。 人間だって、空気が悪い環境に居ては幸せになれませんからね。 ちゃんとした環境があるからこそ、当たり前の幸せがある。 そういったところまで、緻密に表現できていけたらいいなと思います」   そう語る大平さんは、作品に描く「光」にもこだわっている。 グラデーションで描く太陽の光や月の光、生き物が放つ命の光…。 まぶしい光に、思わず目を細めてしまいそうな作品もある。   代表作の「愛と光」は、神秘的な光に包まれたてんとう虫が、愛する者の方へ飛び出そうとしている姿を描いたもの。 群青色から青、緑、黄色へと移りゆく自然な色使いは、息を呑むほど美しい。 豊かな感性と表現力、そして作品への熱い思いがあるからこそ、描かれた光は輝きを放つのだろう。
個展を通じて作品を評価される喜びを知る
美術大学に在学中から、銀座や神田の画廊で「3人展」や「2人展」に参加していた大平さん。 卒業して数年後、今につながる転機が訪れる。   「結婚し、夫の仕事の都合で中国へ渡ることになったんです。 知り合いの居ない異国の地では何もすることがなくて、ただ毎日絵を描いていました。   そんな中、同じビルに住んでいる知人が画廊をオープンしたんです。 そこで『絵を展示してみないか?』と、お声かけいただきました。 しかも個展!思いがけないお誘いでしたが、もちろん快諾しました。 画廊に自分の絵が飾られていくさまは、本当に夢みたいでしたね」   喜びは、それだけに終わらなかった。   「私が個展をやらせていただいたのは、中国の厦門(アモイ)という街。 経済特区に指定されていて、さまざまな国の外国人がたくさん住んでいるところでした。 そんな場所でたくさんの人に作品を見てもらえて、お褒めの言葉もたくさんいただいて…。 本当に大きな自信になりました」   ひたすら絵を描くだけの日々から、作品が日の目を見た瞬間だった。 期間終了後も、大平さんの絵は常設コーナーへ飾られることに。   「この経験をきっかけに、自分の絵を売ろうと思いましたね。 それからは国内外で、多数の展示会に作品を出しています」   好きな画家は?と尋ねると、日本画家の奥村土牛を挙げた。   「彼の作品では『枇杷と少女』が特に好きです。 のちに私が描いた『希望の光』という絵に、その影響がどことなく現れていると感じます。   影響を受けたといえば、80年代に出会ったブランクーシーの彫刻作品。 中国に居た時に立体作品が急に作りたくなって、夢中で彫刻を作っていた時期がありました。 あまりに大きい作品は中国に置いてきてしまいましたが、日本での展示もまたできたらいいなと思います。 今は手元にない作品とも、いずれ再会できるかもしれませんね」
小さな生き物が生きる姿を豊かに表現
日本に帰国してからは「絵が少し売れて、生活費の足しにできれば」という感覚で、ゆるく活動していたという大平さん。   「活動の拠点はもっぱら自宅で、一日に4〜5時間程度でしょうか? 今は創作活動が生活の一部ですね。 ネットフリックスで映画を観たり、料理をしたり、夫婦でお出かけをしたり…そういった時間も大事にしています」   一方で「SBIアートオークションに出品できる作品を生み出したい」という真剣な目標もある。   「SBIアートオークションは、世界中50カ国以上から登録顧客が集まる、公開型のオークション。 中国の個展で経験したように、海外の人からも作品を見てもらえて、さらに自分の絵を購入してもらえるのはこの上なく嬉しいことですからね。 現在進行形でニューヨークにも展示出品してますが、これからどんどん作品を世に出していきたいと思っています。   とはいえ、制作には『産みの苦しみ』がつきもの。思い通りにいかないこともあるし、後から大幅な塗り直しが必要になることもしょっちゅうです。 特に難しいのが光の部分。 ある作品は全体を描き終えたと思いきや、光のふちが急に暗くなったように感じてしまって…。 気の遠くなるほど無数の模様でしたが、何度も何度も塗り直しました」   納得できるまで追究する姿勢が現れているのか、彼女の作品は完成度が高く、光の存在感が際立っている。   「苦悩を経て完成した作品に足を止めてくれる人がいて『可愛い』『癒やされる』と言ってもらえると、心から救われる思いですね。 これからは日本でのリアルな展示会はもちろん、もっと個展もやっていきたい。 新たな作品も、どんどん生み出していこうと思っています。 私の絵を観た人が、ちょっとほっこり幸せな気分になってくれたら幸いです」   そんな彼女の作品に触れ、生命や自然、光の暖かさをぜひ肌で感じて欲しい。