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Interview: 尾崎尚子

手描き京友禅インテリアによる伝統工芸の伝承

 
 

江戸時代より絵画的なアプローチで着物や帯を染め上げてきた伝統工芸、「手描き京友禅」。
優美で華やかな京友禅の技法をタペストリーや暖簾に取り入れ、飾って楽しむことができる京友禅作品を制作している尾崎さん。
京友禅との出会いや、京友禅をインテリア作品に取り入れることとなった経緯について語ってもらった。

 
 

タペストリー 煩-HAN- 新匠工芸展入選作品
心のうちから突き上げてくるエネルギーの爆発をイメージした作品


 
 
「京友禅との出会いは、卒業展です。他校が展示していた京友禅の着物を見て感動しました。着物自体は母も着物を着ていたので馴染みはあったのですが、
改めて京友禅となると普通の生活をしているとなかなか知る機会がありませんでした。
専門学校生の作品を目にしたときに、その細かく繊細な技術に圧倒されました。
(私も短大だったので)同じ2年間でこれだけの技術を身に着けることができるのだと。
美術大学に通う中で何がやりたいのかはっきり選択できなかったのですが、卒業展で見たときに初めて、『やりたいことはこれだ!』とわかりました。それでその専門学校に入りなおすまでの2年間、お金を貯めるために仕事をしました。」

 
 
 
京友禅は仕上げまで糸目糊置、地入れ、色挿し、蒸しなど、20ほどの工程があり、
京都では各工程をそれぞれの職人が担当する専業分業で行われている。
尾崎さんはかつて20工程の中の「色挿し」の職人として京都で仕事をしていた。
結婚を機に京都を離れたことが「飾る京友禅」を制作するきっかけとなった。
 
 
 
染め帯 源氏物語より「浮舟」
二人の男性の間で揺れ動く姫を水仙の花に、二人の男性を雪持ち松と紫の菊に見立てて描いてみました


 
 
「京都にいれば分業が成り立つんですが京都を離れてしまうと仕事がまわらないんですね。
制作の工程をとりまとめる悉皆屋さんが京都市内を順番にまわっていきます。地染めができたところから蒸し屋さんに持っていく、色挿しなら色挿しの職人のところに持っていくので、京都を出てしまうと仕事としては成立しないんです。
幸い専門学校で全工程をできるように勉強したものですから、京都を離れても制作することが可能でした。ただ、着物となると13メートル分の場所が必要です。その場所がないので着物ではないもので何か作ることはできないかと思いました。」

 
 
 
染め帯 糸目糊置き作業


 
 
京都を離れる際に引退の選択肢はなかったという。「他の方が絵を描かれているのと同じで、好きだから続けたいと思いました」と語る尾崎さんの作品は日本ならではの花鳥風月から幾何学柄などデザイン寄りの大胆なモチーフまで、幅広い表現で楽しませてくれる。
その中でもここ10年ほど取り組んでいるテーマが『源氏物語』だ。
 
 
「源治香(源氏物語を主題にした組香)に惹かれたことがきっかけで『源氏物語』を読むようになりました。源治香は縦と横の線だけで表現された近代的なデザインなのに室町時代に作られたものだということで面白いと思ったんですよね。それで私も54帖それぞれの帖をイメージした作品を作ろうと決意して最近ようやく54まで行きました。ここからまた手直ししていきます。」
 
 
ライフワークだと語る『源氏物語』をテーマとした作品は、54帖仕上げるのに10年ほどかかったという。大作のタペストリーは幾何学が多く、暖簾やスカーフなどの実用的なものは具象的なものが多く、いわゆる作品的なものは抽象的なものを取り入れている。どういうイメージで捉えるかで具象なのか抽象なのかが変わってくるという。例えば、生霊になって他人を苦しめた六条御息所をイメージしたタペストリーでは気持が外に出ていくイメージで描いている。
 
 
 
タペストリー 源氏物語より「夕顔」
-とある屋敷で源氏と過ごす夕顔の君がもののけに襲われ命を落とす-
白い夕顔の花に絡みつく鱗模様の鬘帯。斜めに走る黄色の線は稲光を表現。


 
 
手描き京友禅は原寸大で下書きするため、大きなものは大きな紙に下書きをする。
大作になると仕上がりに1か月かかるというが、すべての工程の中で最も時間がかかるのは図案だ。図案ができると、工程通りに進めていく。すべて手作業の伝統技術を使って表現する尾崎さんは職人とも呼べるが、自身の中では職人というより作家に近いと思っているという。
 
 
「同じものを確実に同じように作り続けるのが職人だと思うんですよね。私はどうしてもそれができなくて、ちょっと変えたくなっちゃうんですよね。もちろん同じものも作れますが
変えたい衝動を抑えながら作っています。作家というとすごく立派なんですが、ひとつのものにこだわりたいという思いがあります。」

 
 
伝統工芸は後継者不足などの理由により危機に瀕していると言われている。京友禅も例に漏れず、着物の生産量が減っている分だけ存続が危ぶまれている。
 
 
「特に着物というものは普通の生活の中で着る機会が少なくなって、新しい物を買い求められるのはごくわずかな一部の方になっていますので生産が落ちてきています。技術、技法はやっぱりこれから先々も残っていってほしいと思います。」
 
 
 
暖簾 「秋韻」
晩秋の蔦紅葉とムラサキシキブを描いている


 
 
後世に残していくためには京友禅の技法の存在を周知することが必須となる。そんな課題を抱え、尾崎さんはインテリアを始め、スカーフといった身に着ける小物など、身近なものに京友禅を取り入れることで知ってもらい、伝承していく。
 
 
「まったく着物に関心のない方でもインテリアとして飾っていただければという思いがあります。染め額であったりタペストリーであったり、暖簾もいわゆる古いおうちでないと飾れないものではないですし、マンションの間仕切りや壁掛けとして暖簾を飾っていただくこともできます。」
 
 
「伝統工芸が失われない未来を。」そんな思いを胸に制作活動を続ける尾崎さん。
技術伝承への貢献は作家に限られたことではない。
伝統工芸作品を身近に置くことで広めていくことができる。
日本橋Art.jpを通じて尾崎さんの作品に触れてみてほしい。
 
 
尾崎尚子にとって”アート”とは?


 
「 生活の一部です。 」
 
 
 
 
▽手描き京友禅の作業を動画でご覧いただけます
 

 
 
 

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