Interview注目の作家

水彩画
Mikio Kobayashi
幼い頃から絵を描くことに親しみ、その素質を信じて環境を選び続けてきたMikio Kobayashi氏。安定した職を離れ、デザインの現場で経験を積み、独立後も表現を追求してきた。現在は水彩画を中心に、柔らかく温かみのある作品で人の記憶や感情を描き出している。日常の中にあるかけがえのない瞬間を丁寧にすくい取り、国内外へとその価値を広げている。
絵を描き始めたきっかけを教えてください

中学生の頃、美術の授業で油絵を教わったことがきっかけです。その面白さに惹かれ、中学3年生から趣味として油絵を描き始め、さまざまな対象を模写していました。たとえば、新聞の折り込みに掲載されていたルノワールやドガの作品を模写したり、数か月かけてモナリザを描いたこともあります。

絵やデザインに関わる仕事に就きたいと思っていましたが、高校卒業後は大手通信機器メーカーの総務部門で、人事・就業関連の仕事を始めました。しかし将来への違和感から転職を決意しました。当時、デザインは未経験でしたが、版下作成作業から始め、写真植字作業や似顔絵制作、デザインまでさまざまなスキルを身に着けていきました。その後独立し、デザイン会社を設立しました。

「 2匹の犬」 作:Mikio Kobayashi
絵画制作を続けてきた理由を教えてください

就職後も絵を描きたいという思いは消えず、趣味として制作を続けてきました。安定した環境に身を置きながらも、自分の本当に進みたい道を見失いたくないという気持ちがありました。

結果として、絵を描く素質を信じ、それを活かせる環境へと少しずつ歩みを進めてきたのだと思います。仕事と並行しながらも表現を続けてきた経験が、現在の制作につながっています。

水彩画を始めたきっかけを教えてください

デザイン会社設立後も油絵は続けていましたが、結婚を機に一度距離を置きました。何しろ、油絵は匂いや汚れが伴うため、生活環境との両立が難しかったためです。その後、水彩画のテレビ番組を見たことがきっかけで、汚れも匂いも気にならない美しい水彩画に魅力を感じ、2019年から本格的に水彩画を制作を始めました。

作品づくりで大切にしていることを教えてください

色の使い方には特にこだわっています。基本的にはコバルトブルーヒュー、イエローオーカー、ローズマダーの3色を混ぜながら描いています。

人物画には、バーミリオンヒューやオペラといった少し明るめの色を、風景画には、パーマネントグリーンといった鮮やかな色を足すこともあります。色を制限しているつもりはないのですが、この3色で描いた時にしっくりきました。それ以来、基本3色で描いていますが、そのおかげで柔らかく落ち着いたトーンを表現できていると思います。

「冷た〜い」 作:Mikio Kobayashi
印象に残っている作品について教えてください

特に印象に残っている作品は、二十数年前の娘たちを描いた作品です。結婚式の準備でプロフィールムービー用に幼少期の写真を探したことがきっかけで、懐かしい写真が出てきました。

近所の寺院で撮った写真や、スキー場で雪を食べている写真、入園式に滑り台で遊んでいる写真、ニジマス掴み取りしている写真など本当にいろんな写真があって、当時が蘇るようでした。娘たちは今は結婚して家を出ていることもあって、しみじみと昔を振り返りながら、そういった写真をもとに絵を仕上げました。我ながら良い出来栄えだと思っています。

「描いた肖像画のまとめ」
絵を描く上でのモチベーションや、意識していることはありますか?

特別なモチベーションや意識していることはあまりなく、純粋に「描いていて楽しい」という気持ちが原動力になっています。思い描いた構想がうまく形になったときはもちろん嬉しいですし、うまくいかないこともありますが、そうした試行錯誤も含めて制作そのものを楽しんでいます。

また、これを絵にしたら綺麗なのではないか、というイメージから着色を重ね、実際に想像通りに仕上がったときの喜びは格別です。基本的に、絵を描いていて辛いと感じることはほとんどありません。

SNSのフォロワーが減ってしまうと少し落ち込むこともありますが、それ以上に、作品を見てくださる方が安らぎや癒しを感じてくださっていたら嬉しいなと思いながら制作しています。

今後の展望について教えてください。

依頼を受けて描いた作品を、依頼主の方に「素晴らしい」「とても気に入った」と喜んでいただけるのは、描き手としてとても嬉しい瞬間です。また、ドイツのワインラベルに作品が採用された経験もあり、自分の作品がさまざまな形で広がっていくことに喜びを感じています。

今後は人物画に加えて風景画にも力を入れていきたいと考えています。風景画にはまだ苦手意識がありますが、構図や画角、色使いなどを意識しながら、描く回数を重ねていくことで、少しずつ表現の幅を広げていけたらと思っています。

絵を描くことへの純粋な楽しさを原動力に、表現を追求し続けてきた。限られた色彩から生まれる柔らかな世界観は、見る人に安らぎと温もりをもたらしている。国内外で評価を広げながらも、その姿勢は一貫して「描くことそのものを楽しむ」ことにある。今後は風景画にも挑戦し、さらなる表現の広がりが期待される。

インタビュー: 2024/03/18