Interview: 向麻衣子

表現活動の自由

アート表現を行う作家の目的や意図はそれぞれである。
世の中にある問題を顕在化することを目的にしている作家もいれば、己の中にある美意識を解放させることを目的としている作家もいる。
あるいは、これといった目的を持たない中で描き続ける作家もいる。
アート作品の発表にはコンセプトを求められることが多いが、コンセプトを持たずに自己表現のツールとして創作活動を行う作家が多いのもまた事実である。
向さんは圧倒的な後者だ。
何故描くのか ― 答えは、描きたいからである。
それ以上でも、それ以下でもない。
 
 


2017年~2018年の作品


 
 
「中学生や高校生の筆箱に入っているようなボールペンで描いています。
昔から絵を描くのが好きなので、落書きの延長です。基礎とか絵具の知識とか美術の歴史などの基礎がない人です。ただただ描くのが楽しくて、最初はもっと細かい絵を描いていました。瞑想的な感覚ですかね。仕上げるのが楽しくて。ただ単に塗りつぶせる感じが好きだったと思うんですよ。花を描くことが多いですが、始まりはこれを描こうとかじゃなくて、円から始まって花びら付け足して、仕上がったときにできた!という楽しさと、どう仕上がるかわからないワクワク感。仕上げた絵をお友達に見せたりとか。楽しいという感覚だけで、特にこれといったメッセージはないんですよね。」

 
 
感覚的に紡がれる緻密なペン画は、フリーハンドで描かれているというので驚く。中心から描き始めたり、お花が天に向かって育っていくように、下から描き始めることもあったり、使用する色も含め、すべてがノープランで進んでいく。感覚的なものに理由はないが、気分が絵を左右することはないのだろうかと質問をぶつけてみた。
 
「う~ん、フラットなんですよね。描きたいときに描いているので。描きたくなるときはどんなときって聞かれますが、今日おもしろいテレビやるから観ようかな、という感覚です。YouTubeを観る時間を楽しみにしている方たちがいらっしゃるように、私は絵を描いている時間が楽しみなんですよね。」
 
 
もしも締切があったら、辛くても嫌でも中断することはできない。自身の感覚を守るために、”縛り”がないままでいたいと考える。そんな理由から、これまで絵とは”プライベートなお付き合い”にとどめてきたが、知識や技術はいつでも身に着けることは可能であるということから、後悔はしていないと言う。
 
 
「ひとつの作品を描いているときは仕上げたい気持ち。そのモチベーションを保ったまま次に行きます。」
 
 

2017年~2018年の作品


 
 
 

“ 今、この瞬間のペン画 „

 
意図しないまま描かれ、向さんの感覚が真空パックされたかのような見事な作品の数々。
「今」という瞬間を逃すと、全く違う作品に仕上がるのだろうと想像する。
「とにかく今だけに集中できる楽しさがあります」と語る向さん。
この「今」というキーワードこそが向さんの作家活動の要になっているのだろう。
なぜペン画なのか、その所以も「今」というキーワードに内包される。
 
 
「ペンの良さは気軽にできるところなんです。例えば、水彩画を描くとなれば、水、筆、絵具を出して色を混ぜて、色がなくなったら色を作らないといけない。私にとっては集中力が途切れやすいというか、準備までの間に熱が冷めちゃいそうで。一方でペンなら描きたい気持ちをそのまますぐに実行に移せます。」
 
 
今と思ったら今なのだ。そういう視点で作品を眺めると絵そのものがメッセージなのだと気付く。
 
 


2004年~2005年の作品


 
 

2004年~2005年の作品


 
 
 

“ ペン画を始めて17年の転換期 „

 
2004年からペン画を始めた向さんだが、これまで内に向いていたものが外へと向かい始めている。
 
 
「日本橋Art.jpさんでの掲載を始め、人に観てもらえる機会ができたのが大きいですね。やっぱりコンセプトや思い、今後どうなりたいかを考えることが必要だと感じ始めてはいます。作品タイトルも全然付けていなかったのですが、作品を発表するに当たってタイトルの必要性が出てきて、適当に付けています。花を描いているから『花1』とか・・・。」
 
 
同じようにペンを握って描く諸先輩からの刺激もあり、今、新境地へと歩み出している。
 
 
「マツダケンさんという、ペンを使ってかっこいい絵を描く方がいまして。動物に植物が生えていたりとか繊細な絵が好きです。他にも、ボールペンを使っている方では、磯野キャビアさんの絵が好きです。写真みたいにリアルなんです。これを観たら自分のやっていることがちっぽけに見えました。私も、『すごいな素敵だな』と思ってもらえる絵を描きたいと思い始めました。あ!素敵!って自分でも思えて、人にも思ってもらえる。そんな絵が描けたらいいなと思っています。ちょっとした変化の時期です。」
 
 
実際に、これまで想像や妄想で描いていた絵を、対象物を見ながら描くなど、新たな挑戦はすでに始まっている。
 
 


2021年作品


 
 

2021年作品


 
 
これからも「今」を逃さず、感覚を画用紙に落とし込んでいくことは変わらないが、外に向き始めることにより、どのような作品が誕生するのかが楽しみである。
 
 
「気軽に気楽に描きたいなという人が増えたら楽しそうだなと思いました。色々な方のインタビューを読むと、ひるむんですよね。すごいなこんなに考えてて・・って思うのですが、私みたいな人もいる、と。それでいいんだよ、そういう人もいるよって。」
 
 
外に向き始めた向さん。
「メッセージなく描いている作家の代表になりたい」と、限りなく自由な表現活動の中のひとつの目的も見出した。
 
ここから第一歩だ。
 
 
 
 
向麻衣子にとって“ アート ”とは?


 
「 日常的なもの 」
 
 
 
 

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