「目標などは立てずに、今、目の前にあることや環境を大切にしながら自分にできることを精いっぱいやらせていただいています」
こう語る神之浦さんは、大手航空会社の客室乗務員として多忙を極めていた時期がある。
「客室乗務員になる夢が叶ったのですが、仕事をする中で自分を見失ってしまったんです。
毎回初めてお会いする方たちとチームを組んでフライトに臨むのですが、そうする中で周りに合わせようとするあまり、本当の自分が何なのかわからなくなってしまって。」
そうして人生をリセットすべく退職し、輸入雑貨を扱うお店「ジーザスユミー」を始めたのが2014年のこと。
「そのときどきでいいなと思ったものを買い付けてお店に置いています。」という輸入雑貨ジーザスユミーは神之浦さん選りすぐりのアイテムが並んでいる。
現在はご自身の絵の展示なども行っているが、もともと画家として活動していなかった神之浦さんは偶然の重なりで絵を描くようになった。まず、神之浦さんの師匠である、村田旭氏との出会いだ。
「当時、私のお店の近くにアトリエを構えている画家さんがいらっしゃって。それが村田先生でした。私のお店が輸入雑貨を扱っているので、絵のモチーフになりそうなものがあると聞いたみたいで、探しにいらっしゃったんです。それをきっかけに美術モデルをさせていただくなど一緒にお仕事をさせていただけるようになりました。」
村田旭氏は福島県・郡山市を拠点にする水彩・パステルの混合技法及び油彩を用いた絵で知られる画家だ。
神之浦さんは「JESUS PASTEL🄬(ジーザスパステル)」と名付けられたオリジナルのパステルを制作・販売しているが、実はこのパステル制作も彼女が自分で絵を描くに至る大きなきっかけとなっている。
「先生は基本、暗い部分は透明水彩で、明るく光が当たっている部分はパステルを乗せて表現するという混合技法で描かれているのですが、こういった技法に最適なパステルがほしいということで私に”作ってみたらどう?”とお話を振ってくださいました。そんなお話をしている矢先、ホルベインさんのパステル制作のワークショップを私のお店で開くことになりました。ホルベインの東京営業所の所長さんにジーザスユミーにお越しいただき、私も生徒さんと一緒にパステル制作の基礎をマスターしました。
そのあとも不思議なご縁で、父の紹介から化粧品メーカーに勤めている方とお話をさせていただく機会がありました。化粧品とパステルの顔料が似ていることから、”こんな質感のパステルを作りたい”と相談をしたら、どんな顔料をブレンドしたら良いかのアドバイスをくださり、試作の為に顔料も譲ってくださいました。そこから自分で組み合わせて納得のいくものになるよう調合して、オリジナルパステルの提供をはじめました。」
美術モデルやパステル制作など、どちらかというと作家を支える役割を担っていた神之浦さん。
自身でも絵を描くようになったのは、村田氏との出会いから2年後のことだ。
「見ているだけですごく幸せになれるので、私は描かずに、素敵な絵を見ているだけでいいと思っていました。
でも自分が作ったパステルをみなさんに使用していただくようになって、このパステルが本当に良いものなのかを検証したくなりました。自信を持ってご使用いただくためにも、自分でも絵を描いてみたくなったんです。」
絵を描くツールがあり、先生がいる。
絵を描かない理由が見つからない環境の中でごく自然な流れで絵を描き始めた。
「絵を得意とも苦手とも思ってなかったですね。
ただ本当に美しいものや自分がいいと思った感覚に従っていって、偶然にも魅力的な画風で描く作家さんに出会ったということもあって、絵に対する抵抗がまったくなかったんですよね。
実際に絵を生業にしている人の絵というものを見るのは初めてで、最初から感動してその世界に引き込まれていきました。先生の絵画教室を私のお店で開催しているので、先生が教えている姿や描いている姿を見ながら覚えていきました。」