―画家の道に進まれたきっかけを教えてください。
「私は昭和 34 年生まれなのですが、生まれたころには白黒テレビがあってよく観ていました。幼稚園のころから、テレビで観たものの絵を夢中で描いていて、それが絵と関わるスタートになりました。とにかく描くのが好きで、絵を描くことはずっと続けていました。高校の時に進路選択をする際、色々な選択肢がありましたが、自分の好きな分野・得意な分野について考えたら、やはり絵を描くことだと思いました。それで芸術大学への進学を目標に掲げ、最終的には愛知県立芸術大学に進学し、油絵を学ぶことになりました」
―大学を卒業後はすぐに画家として活動されたのでしょうか?
「大学卒業後、美術の教員を務めながら、画家としての活動を行っています。大学の周りの人間を見ても、いきなり画家として絵だけ売って生活するのは難しい状況でした。油絵を共に学んだ友人は私と同じく、教員などをしながら画家を続けている人間が多いですね。大学卒業の頃は現代美術が盛んな時期でしたので、インスタレーションの作品などを手掛けていましたね。結婚や子育てなどで一時活動を休止したことはありましたが、子どもも大きくなり作品制作を再開しました。
その後、自分の目を撮影してそれを描き、作品化する『『瞳景』という新たなアイデアを考えつきました。その作品をもとに現代美術の画廊で複数回にわたって展覧会の開催を実現できました。京都市美術館主催の展覧会で京展賞をいただいたり、平等院表参道美術作品公募展で優秀賞をいただいたりして、大きな手ごたえを感じていました」
瞳景-UMI 2012京展賞受賞作品
―最大の特徴である「瞳景」は、どういった流れでスタートしたのでしょうか。
「昔からカメラが好きで、自分でも扱っていたので、それを活かした作品を描けないかと考えました。デジタルカメラが出始めた時は高価で画素数が低いものばかりでしたが、どんどん手頃な価格かつ画素数の高いカメラも出てきて、1cm ほどの距離で目の中を撮れるようになったことが大きく影響しました。
それから、目というのは指紋と同じく一生変わらないもので、僕という人間を判別するための一つの要素です。ですから、目を自画像として描いたら面白いのではないかと考えたのです。ただ、目を撮影するとどうしても見ている風景も写ってしまうので、いっそのことその風景も描いたら面白いかなと思いました。目に映る景色と自分の虹彩の模様が重なって同時に写っているのがすごく趣深かったんですよね。
また、風景を見ている時に、騒音や匂い、あるいは温度といった五感で感じたものが頭に溜まっているものの、それは自分自身でしかアウトプットできない。すなわち、自らの死後はそうしたものがこの世から一切消えてなくなってしまうことになります。そういった諸行無常というか日本的な儚さを描いてみるのもいいのではと思ったのです。
現代的な作品を描きたいという意思と、それを実現するためのカメラの発達も重なって、瞳景はスタートしました」
―斬新なアイデアですが、当時の周りの反応はいかがだったのでしょうか。
「アナログで自分の目を何百枚と撮った中でのベストショットを描いているのですが、そういった部分が伝わらないことも多くて…。賞をいただけてはいたのですが、さほど周囲には認められていなかったと感じます。当時は今のように SNS も発達しておらず、アピールの仕方も下手だったのかもしれませんね」
瞳景-浄土 平等院表参道美術作品公募展優秀賞2014
―今後広げていきたい分野などはありますか?
「昨年からは静物の作品を展開しています。実は学生の頃に蝶を集めていたことなどもあって、自然に対する興味・関心が高いことに加え、陰影法などを現代的に表現したいなと考えているんです。この『落光』シリ-ズの作品も『瞳景』シリ-ズの作品と並行して制作していこうと考えています」
―描画に対する並々ならぬエネルギーはどこから湧き出てくるのでしょうか。
「この道に足を踏み入れた以上は全力を投じたいのです。頭にはアイデアが浮かんできますから、あとは時間や場所の制約との戦い。アウトプットしきれていないものばかりですから、少しでも多く形にしていきたいですね。作品は撮影した画像をパソコン上でトリミングするなどしたものをもとに描いているのですが、その途中でアイデアがぽんぽん出てくるものですから、あれも描きたい、これも描きたいという感じになってしまうんです。ライフワークとして物理的に描くことができなくなる状態になるまでは描き続けるのではないでしょうか」
―自らが描きたい作品とは別に、外部から頼まれた作品を描くこともありますか?
「友人の会社の会議室に飾る絵を描いてほしいとか、玄関の絵を描いてほしいというリクエストはもらいます。友人の玄関に飾る絵については、『永遠の幸福』という花言葉を持つ福寿草や、魔除けの意味があるカゴメ模様を組み合わせたものを描くなど、リクエストに応じて対応させてもらっています。こうして考えると、自分の描きたいもの、人から頼まれるもの、そのすべてをしっかりと描き切りたいですし、死ぬまで描き続けるんでしょうね」
―直近の展覧会について教えてください。
「5月にWeb個展を予定しています。主に『落光』シリ-ズの作品を展示します。また、出身地の茨木市主催で現代美術展が毎年開かれていまして、6 月にある今年の現代美術展では、特集作家として選ばれて発表させていただけるので、そこに向けて『瞳景』の新しい作品を描こうとしています。横幅5mくらいの大きな海を見ている目の作品を描き上げようと考えていますよ」
瞳景-孤独なカミキリ