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Interview: ギャラリー上田 上田崇一郎

ギャラリー上田 上田崇一郎
大学卒業後広告代理店へ入社。
広告のディレクション、キャスティングなどを経てギャラリー上田へ入社。幼少から培った美術品を見る目を活かし、質の高い作品はもちろん「古美術、現代美術問わず質の高い作品と人々をつなぐ架け橋になりたい」という、創業者である祖父の想いを受け継ぎ、新たなギャラリー上田を目指している。
売れる売れないではなく、
心が動かされるものを中心にしていましたね。

ギャラリー上田はどのようなギャラリーですか?

まだ高度経済成長期で銀座に画廊がまだ少ない1966年、祖父が彩壷堂というギャラリーを設立し後に東京セントラル美術館も設立しました。その後1978年にギャラリー上田を設立し今に至ります。

銀座にギャラリーが2つと、隅田川の三菱倉庫にアートスペースを作ってインスタレーションの展示もしていました。
東京以外だと湯河原でも展覧会をやっていたので、以前は結構派手にやっていましたね

 

大手でもなかなかやらないくらいに派手ですね。作品の展示品はどのようなものが多かったですか?

祖父が「これは!」と思い、皆さんにも楽しんでもらいたい作品を展示していました。絵画だけではなく陶芸、彫刻、アンティークまで幅広くやっていました。

売れる売れないではなく、心が動かされるものを中心にしていましたね。
音楽も食べ物も、とにかく良いものが好きで、それを皆さんに振舞うというのが好きな人でした。

 

実業家という感じですね。

そうですね。今でも祖父を知る方がギャラリーにいらっしゃると、「あの頃上田さんはすごかった」とおっしゃってくれますね。

 

結構野心家だったのでしょうか?

どちらかと言うと皆さんに喜んでもらいたかったんだと思います。

その一方で祖父の出ている雑誌を読むと、事業化として先進的なことも言っていてとても勉強になっています。

 

美術の窓 1987年
美術の窓 1987年

家庭画報 1990年 9月号
家庭画報 1990年 9月号

 

もしかしたら昔のギャラリー上田を知っている人からすると、今のような雑居ビルの一部屋というのはかなりコンパクトになったなーと感じる方はいるかと思います。ただその分、お客様との距離はグッと近くなりました。

 

当時と今では扱う作品は変わりましたか?

変わらないですね!
美術品や工芸品全般です。

 

勤務していた広告代理店からギャラリー上田に入って戸惑ったことで何かありますか?

広告代理店ではBtoBだったのに対して、ギャラリー上田ではBtoCであること、それが大きな違いですね。

BtoBだと、取引においての打ち合わせの際お互いの会社を代表して話しますよね。もしミスをして損害を出しても、会社員なので基本的には自分自身のお財布が直接痛むことは少ないわけじゃないですか。
怒られたり、行きたくない場所に左遷されたりとかはあると思いますが。

だから打ち合わせではお互いに歯に布着せて話すというか、本心を出さずに上辺での会話が少なからずありました。

ギャラリー上田の場合は、相手が個人の方がほとんどで、自分のお財布から直接お金を出して下さるので本気さが違う。

作品に対する探究心のレベルがすごいですね。お客様から教えて頂くことも本当に沢山あります。

 

扱っているのは”商品”ではなく、”作品”
だから大切にしている人とのつながり。
 

今ギャラリー上田さんではどのような作家さんが多いですか?

絵画、書、陶芸、彫刻様々なジャンルです。年齢は50代〜90代(!)が中心です。
今後は若い作家も取り扱っていきたいと思っています。

 

どのようにして作家さんと知り合っているのですか?

今お付き合いある作家さんからのご紹介が多いですね。

インターネットからというのは時たまありますが、関係が続くのはご紹介のケースが一番多いです。

お互いに信頼できていない状態からのスタートなので、関係構築にすごく時間がかかってしまうからだと思います。

ただ単に作品を”商品”として売るのであれば、飛び込みの作家でも売れそうな作品を預かって売るというのも良いのでしょうが、ギャラリー上田が扱っているのは”作品”ですから。

また、購入してくださった方への責任もあります。ウチで購入して下さった作品については、ギャラリー上田が存続する限り何年経とうと責任を持つべきだと思っています。

どういうことか具体例を挙げると、お客様が誤って破損させてしまった作品を作家に修理依頼をして再び楽しめるようにして差し上げたことがありました。もちろん費用は頂戴していますが。

 

ギャラリーと作家の相性は大事ですね。いくら作品が良くても、ソリが合わない作家もいるかもしれません。
逆に作家の立場からしても同じだと思います。

どんなに世界中で派手に展開したり、空間が良かったり、歴史あるギャラリーでも、ギャラリーオーナーあるいは担当者と人間的に合わなければ一緒にやりたくないと思うでしょうし。

大事なことは、対お客様でも、対作家でも一緒です。
相手を敬う気持ちや相手を知ろうと思う気持ちがないと、ギャラリー業をやっていくのは難しいんじゃないかなと思います。

特に現在のウチは個人営業に近いギャラリーなので。(余計に人間性が必要)

 

だから作品にこだわれると言うことですね。スペースを埋める目的で作家さんを探しているギャラリーもあると聞きます。

そうですね。
だから作家を選ぶ基準の一つに人間性というのがあります。

作品も良くてギャラリー上田との相性も良くて、尚且つ売れて・・という作家を見出し育てていかないといけません。

 

小さい頃から美術品をよくご覧になられていましたか?

無意識で見ていたんでしょうね。祖父や母が好きで集めていた作家ものの食器などがたくさんありました。工業製品「Product」ではなくて「Art Work」が多かったですね。

だから美術品を見る目は自然と培われたのだと思います。
小さい頃だったので「このお皿は誰の作品だ」とか全然意識していませんでしたけど。

 

ギャラリー上田に入った転機は何だったのでしょう?

広告代理店に入って4年目に自分の置かれている状況を振り返った際、ギャラリー上田がなかったら、自分はここまでこれなかったということに気付きました。なので、自分を育ててくれたギャラリー上田を継がせてもらいたいと思いました。

 

なぜ広告代理店に入社したのですか?

単純にかっこよかったからですね笑

そして、その会社に入ってからは社会人のイロハを教えてもらえたので、今の仕事にすごく活きています。

 

日本でこれから美術が広がるためにはどうしていけば良いでしょうか?

私たち一般市民がすぐにどうこうできることではありませんが、フランスのように建築物を建てる時に、建築費用の何パーセントを美術品に当てないといけないとか、そういう行政の後押しがあると良いなとは思います。

日本でも昔は企業がビルを建てたりすると、エントランスや中庭に彫刻を置いているのが多く見られましたけど、最近は心にもお財布にもゆとりがないというか。。。その辺はどうしようもないですね。

ただ、企業でも市町村でもそうなんですが、新しく買うのは無理だとしても、今ある美術品はせめて大事にして欲しいなと思います。

お手入れしてあげれば良いのに、長年放置されてしまったせいで朽ちてしまった野外彫刻があったりします。

特別お金がかかることじゃなく、月に1回拭いてあげるだけでも全然違ってきます。

 

日本でアートを広げる話に戻りますが、「美術品を買うのはハードルが高いわ・・」と思ってしまっている方が多いので、そのハードルを下げないなといけないなと思っています。

アート業界に携わる者としての責任ですよね。

ウチだと買ってくださる方は、作品はもちろんですが人とのつながりを大切に考えていらっしゃる方が多いように思います。
「人」とは何かと言うと、ギャラリーのオーナーやスタッフだったり、作家です。

今はインターネットを開けば、ECサイトでもオークションのオンライン入札でも気楽に買える環境は整っていますが、フルに活用しているのは元々アートを買ったことがある方が多いと思うんですよ。
初めての方が「試しに買ってみよう」というのは結構難しくて、最初の一歩はよほど価格が安いか人との繋がりだと思うんですよね。

 

 

皆が期待してくれるようなギャラリーを目指したいです。

作家さんを知ることで絵の向こう側を知ることができます。だから作家にも作品にも愛着が湧くというのは良くわかります。

だからウチでは展覧会を開催する際は、できる限り作家にはいてもらいたいなと思っています。

目の肥えた方であれば、好きな作品をすぐ見つけられますが、普段あまりアートに触れない方は作品を買うためのきっかけは作品だけではなく、その時の素敵な思い出も大事です。

スタッフとかから作品の話を聞くのも良いのですが、作家本人から直接お話を聞けた方がお客様は喜びますね。

 

そうするとギャラリーの役目ってなんだって話になります。
作家が自分のアトリエに直接お客様を呼んだらいいのではないかと。

確かにそうやっている作家もいますし、それも良いと思うんです。

けれど職人気質でお話しが苦手な作家もいますし、アトリエという聖域に人を呼びたくない作家もいます。
やっぱり作家はアーティストであってビジネスマンではないことが多いです

だから、そこの橋渡しをするのがギャラリーの役目なのかなと思ってます。

 

役割分担に近いですね

そうですね。
広告代理店にも近い部分があります。広告主と媒体側で直接やり取りすると結構うまくいかないことがあるんですけど、広告代理店がいることによって潤滑剤のような役割を果たして、スムーズに進むようになるんです。

アート業界で言うとお客様が広告主、画廊が広告代理店、作家が媒体ですね。

また、画廊は作家の価値を上げるだけではなく、下げない役割も担っていると思います。

 

例えば、作家がお金に困っていて、その日のお金のために「今日だけ値下げします!」なんてことをしてしまったらさあ大変。正規の価格で購入した方にバレようものなら作家の信頼はガタ落ちです。

そのようなことを避けるためにも画廊が入って、きちんと一緒にやっていくのは大事です。

 

何を買うか以上に誰から買うかということが重要ということですね。

まさにその通りですね。
画廊はマージンをもらいますが、その分お客様に対しても作家に対しても責任を負います。負わなければなりません。

 

今後日本で美術産業が盛り上がるためにはどうしていくと良いともいますか?

銀座の盛り上がり!それに尽きると思います。

作家には「銀座で展覧会をするというのは、大切なこと」ということを、もっと気づいてもらいたいと思います。

やっぱり銀座って日本の文化の中心だと思うんです。
テレビで東京が写されるときは銀座が多いです。
海外の方も高田馬場は知らなくても、銀座はわかります。

そういう場所で展覧会を開くのは自分を高めることになるかと思いますし、自信にもなります。

 

銀座という場所にふさわしくなる必要がありますからね。作品も人間性も含めて。

来年以降は、若い作家とも少しずつお付き合いの幅を広げていきます。
若い作家が銀座で展覧会をやったという経験を持つことで、何年かしてから「また銀座で展覧会をやりたい!がんばろう!」と、励みになってくれたら良いなと思ってます。

 

その「また銀座でやりたい!」がウチでだったら嬉しいですけど、
他の画廊でもいいです、銀座自体に戻ってきてもらいたいです。

そういう作家がどんどん増えていくと、
銀座という街と、美術業界のどちらも活性化していくんじゃないかなと思っています。

 

これからギャラリー上田の目指す方向は?

ココに来れば良いものがあるのではないか?何か楽しいことがあるのではないか?と皆が期待してくれるようなギャラリーを目指したいです。

単に作品を見て気に入れば買うだけの場所ではなく、作品と人、あるいは人と人のご縁を結ぶ場所にしていきたいです。

創業の理念をしっかり受け継いでいますね。

そうですね、言われてみると確かに受け継いでいるのかもしれないですね。

 

それでは最後にこのインタビュー記事を読んでくれた方に何か一言お願いします

ギャラリーは怖い場所ではないよと、伝えたいです。
見るだけでも大歓迎です。

「入館料必要ですか?」と聞かれることがあるので、
まだまだギャラリーに入ったことがない方ってすごく多いと思うんです。

確かに雑居ビルの上の階だと外からも見えないし、入りづらいですよね。
でも美術館より、間近な距離でアートに接することができるチャンスです。勇気を持って堂々と一歩を踏み出してみてください。

 

金澤翔子
作家名:金澤翔子
作品名:一心
ジャンル:書
サイズ:350mm×1370mm
樹
作家名:掛井五郎
作品名:樹
ジャンル:その他
サイズ:210mm×150mm
価格:65,000円
無題
作家名:海老原露巌
作品名:無題
ジャンル:水墨画
サイズ:950mm×590mm
Atopique
作家名:DEL AOR
作品名:Atopique
ジャンル:アクリル
サイズ:800mm×800mm

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