―画家の道に進まれるきっかけは何だったのでしょうか?
「一番のきっかけは『認知症の父親に季節を体感してもらいたい』という子供心でした。認知症は写真や絵を見ると、その事柄の1番楽しかった事を思い出すそうです。
春になれば桜を描き、春の楽しい思い出が蘇れば良いなと思いながら描いてました。介護を通じて親が私に童心に戻るキッカケを与えてくれたのかも知れません」
―最初にお勤めになったのはアパレル業界
「子どもの頃は画家になるのが夢でしたが、食べていくことを考えると絵は難しい世界なので断念しました。その後、母がスタイリストをしていたので幼少期から洋服や色彩と触れ合うことも多く、ファッション業界に気持ちが移っていきました。当時は生活環境を考えて趣味の延長でアートをすることは考えられず、しっかりお金を稼げる現実的な選択をしました。しかし現在はSNSも普及し当時では考えられない、絵だけで生活できる職業選択が羨ましいです」
―アパレルではどのようなお仕事を?
「広報を務めていました。憧れのファッションデザイナーになるまでには、学校を卒業後に何年間はこの業務をして、その後何年間はこの業務をして…というようにロードマップがありますが、その間に母が病気になり看病を優先する事が増えて断念。先生に他の選択肢として、『性格的に、流行りのものを見つけ、広く伝える分野に向いているから、広報も視野にいれたら?』と助言を受け、幸いにも広報職に就くことができました。業務の中で、お爪に関わる機会があり『マニキュア』と出会い、自分の求めているものがネイルにあったと感じネイルアーティストをしています」
【canetteシリーズ】空 大好きな刺繍糸、毛糸、ビーズ、リボンとテクスチャーをミックスした作品
―ネイルを通じてアートの世界に足を踏み入れた。
「ネイリストとは華やかな印象をもたれますが、NOと言えない職人気質な職業なのです。爪という小さなキャンバスに時間内にお客様の生活環境や体調をお伺いし、肌にあった色を提案し、バランスを調整し、ご要望のアートを組み入れ作り上げる。その作業が私自身の性格に合っていたのだと思います。また近年の新型コロナウィルスの蔓延でおうち時間も増え、お客様の相談で『部屋に飾りたいアートがあるのだけど、つくれる?』と見た絵画が、後のテクスチャーアートやアルコールインクアートも並行して取り組むきっかけになりました。
元々、幼少期から絵画教室に通っていたので、見よう見まねで絵は描ける知識はありましたが、爪という小さなキャンバスと向き合い続けたことは画家としての力を磨くうえで大きかったと思います。お客様に『こんなアートを描いてほしい』と言われればNOとは言えない、そして爪は1番目に付くパーツなので失敗はできません。ネイルの世界では、誰がアートを教えてくれるというより、常日頃アンテナを張って日々自らをアップデートしていかなければいけない職人なのです。そういう意味で、ネイリストの仕事が画家活動の充実に繋げられているのではないかと思います」
―作品はどのように露出しているのでしょうか?
「個展などは開かず、主に日本橋アートさんのWEB展やネイルサロンに飾ったり、SNSでの投稿を見た方が購入してくださるという形です。私は仰々しい抽象画を描くタイプではないので、絵が主役でなくても良いと思っていて。購入された方がお家に飾っていただいて気持ちが潤う。生活の中に溶け込むような絵を理想としてますので…」
鉢アート
―絵が主役でなくてもよいというお考えは珍しいかもしれません。
「冒頭で話した親のために…という話に似てますが、春が近づいてきたらその季節触れる、イメージが湧く作品作りが私のスタンスです。
例えばテーマは『花』とあれば得意ですが、『春を思う○○』のような魂があるお題は困ってしまいます。画家として2年目、諸先輩方と比べると私の経験値や思想、イマジネーションが、まだまだ少ないのかも知れませんが、私のアートは見る人がそれぞれの思いを想像し沸き立たせてくれたらうれしいです」
―画家としてスキルアップのために行っていることはありますか?
「私は花のように飾る、生活の一部に解け込むような絵を提案できるように、海外のインテリア雑誌、SNSを拝読します。あとは、部屋に花や植物を飾ったり、おしゃれなカフェや雑貨巡りをして、また新しい技術は書籍や動画を見ながら学ぶこともたくさんあります。愛犬がいなければ海外の美術館巡りもしたいですが、今のところはインターネットを利用して私自身が潤うものを探しています」
―今後の抱負などを教えてください。
「大切にしているのは絵を見た相手方の気持ちが潤う作品作りです。今はインテリアとして飾れる手頃なサイズのモノがメインですが、最終的にはお家の壁をアートする『左官(漆喰)アート』を手掛けたいです。直接、壁に施すため直しが効かないので、いつか挑戦したいなと考えています。もちろん、現在、問い合わせもいただいているのですか、私自身に力がないので勉強中です。
画家としては、自分が好きなものを描いて生活できれば素敵ですが、やはり広報という職業病なのでしょうか…お客様のニーズやトレンドに寄り添って作品を提案したいです」
アートリース ドライフラワーとテクスチャーアートの融合