Interview: 林裕紀子

美しい輪郭線を意識した書道の筆法で描く美。
吉祥モチーフの研究から始まった林裕紀子の創作活動。

 
「大学のときに美術史を専攻していて、そのときの研究テーマが中国の絵画に描かれる吉祥のモチーフだったんですよ。縁起のいいモチーフ、おめでたいモチーフについての研究だったんですね。それで中国絵画に興味が出まして、結構熱心に研究に打ち込んでいたほうでした。そのときの充実感が忘れられずに、社会人2年目にして退職して、”研究もいいけど、今度は描くほうを勉強しよう”と言う気になってそこから専門学校に入って初めて絵の勉強を始めたんです。なのでスタートはすごく遅いです。」
 
 
絵の基礎的知識がなかったため、やるなら1からカリキュラムに沿って技術や知識をしっかり身に着けたいと思ったという林さん。東洋美術学校中国水墨画研究科に入った林さんは4年間花鳥画と山水画を学んだ後、母校で講師を務めるまでに。
 
 
「水墨画研究科を卒業していますが、私の作風はどちらかというと日本画なのかな。でも日本画の先生についたことがないので日本画と名乗るのもおこがましいのですが。日本画の原点になった中国の南宋、唐や宋の時代の宮廷画を学んで、その技法で描いています。線を意識して輪郭を取って、着色は日本画の物を使ったりもしますが、クレヨンやアクリル絵具も使うので、ジャンルや画材にこだわりがないというのが本音です。聞かれたときには花鳥画とか山水画と言うようにしています。」
 
 

着色にハイビスカスティーを使用したことも。

 
 
書道では師範の資格を持つ林さんが意識しているのは水墨画の筆法だ。
 
 
「書と絵が源を同じくすると書いて“書画同源”という言葉があります。私は子供の頃から書道を習っていたのですが、絵を描くときも書道の筆法で描くというところで水墨画と書道は関わりが深いんですよね。書道にも通じるような美しい線で描きたいという気持ちが強いです。」
 
 

空間を幸せにする花鳥画

 
「花鳥画には”以小観大”という考え方があります。
小をもって大を見せるということなのですが、例えば木に咲いている花を描くときに、全体じゃなくて一部を切り取って画面に収めていますよね。小さい画面、小さい花・植物を通して生命という、より大きな世界を見せるという考え方で、これがすごくいいなと思っています。なので自分も写生をするときにはいきいきとした生命観を描くようにして、作品にするときにはどうしたらより一層生命が輝くのかを考えて描くようにしています。
また花鳥画は縁起のいいものを描くことが多いですね。飾ってある空間を幸せにしたいという気持ちが根本にあるんじゃないかと思っていて。そこが花鳥画の魅力ですね。」
 
 
花鳥画を通して吉祥の研究をしていた林さんならではの花鳥画への思いだ。
意味を知ることによって植物や生物に対する意識が変わり、今まで見過ごしてきた素晴らしさに気付いたと言う。

 
 
「吉祥の研究をする前は、例えば牡丹の花が描いてあっても、きれいな花だなという、それ以上でもそれ以下でもなかったのものが、牡丹の花には富貴の意味があると知ると、ちょっと見方が変わるというか、おもしろいじゃないですか。
中国の絵画には、牡丹の花の近くに蝶々が飛んでいる絵がよくあるんですが、蝶々は長寿のモチーフなんですね。なので、お金持ちになって長生きするという意味が込められた絵になっているんです。こうして花鳥画の中に込められている吉祥の意味を知ったときに、“だから部屋に飾るんだな”とすごく納得がいって、飾る人に幸せを与えられる絵っていいなと思いました。」
 
 
自身ではあまり描くことはないというが、林さんが個人的に一番好きな吉祥のモチーフは「猫」だと言う。猫にも長寿の意味があるというが、その意味を知って描いている作家はそう多くないかもしれない。
 
 
「意味がもっと広まったらいいなと思いますね。
絵の勉強を始めてから、それまで見ていた世界が変わった感じがあったんですよ。その前まではわりと電車など、ストレスフルに移動していたのですが、絵を勉強するようになってから身の周りの物や人に対して愛のある視線を向けられるようになりました。以前だったら特に美しいと思って見ることがなかった道端の草木などがすごく美しく見えるようになりました。絵を描き始めたのが20代後半からなのですが、それまでの自分が何も見えてなかったというか…世界の見え方の変化があって、せっかくそういう目を手に入れたからには絵を続けたいなと思っています。」
 
 

魚も縁起の良いモチーフ。中国では余裕の余の字と同音。

 
 
現在、【日本橋Art.jp企画】として、「林裕紀子 花鳥画展」が開催中だ。
飾られた空間が幸せな空間であってほしいという願いを込めて絵を描かれた林さんの花鳥画の数々にこの機会に触れてみてほしい。

 
 
「久々の個展なので15点~20点、今までのグループ展に出したものを一気に展示します。絹に描いたものと紙に描いたもの両方あるので、写真ではなかなか伝わりづらい質感の違いや様々な画材で表現されているニュアンスなどを実際に見てもらえたら嬉しいです。」
 
 

絹本ならではの透明感を大切にしている。

 
林裕紀子にとって “ アート ” とは?
 
「  身近なものへの愛  」
 
 

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