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Interview: 布弥

芸術は祈りであり科学である
そして無邪気に遊び心をもって…

 

“ 関心あるものは何でも、瞬間の閃きに忠実に „

墨、アクリル、クレヨン…等々、様々な画材を駆使して作品を生み出し続ける、総合絵画アーティストの布弥(ふみ)さん。絵本作家としての顔も持つ。手すき和紙に麻墨で神話の世界を描くと思えば、その一方で可愛いキャラクターが登場するデジタル作品も手掛ける。
彼女は自分の作風を限定しない稀有なアーティストである。

 
 
「ジャンルを一つに決めた方が良いと言われることもあるんです。でも、私にはそれは無理。関心のあるものは何でもやっていきたいんです。その瞬間の閃きに忠実に、感じるままに。
私の身体はご先祖様の集合体のようなもの。DNAの中に太古からのすべての記憶が入っていると思っているんです。そういう感覚があるので、記憶が開いてしまえば、本来何でも描けると思うんです。」
 
 
何でも描く、何でも作る、という布弥さん。その作風は多岐にわたる。ただ、その作品の数々を観ていると、日本の神話や万葉集に収められている和歌をテーマとしたものが多いことに気づく。
神社や神事に強く惹かれて、研究を続けているという。

 
 
「未来に残したいものや未来の人が幸せになれるようなものを描こうと心がけています。幸せになるためのヒントとか、昔から伝わる知恵だとか。
太古の昔から人々は、世の中の空気で口にしてはいけないことは、和歌の中に詠み込んだり、洞窟に壁画として描いたりして、後世に伝えてきたんです。アートは古来そういうものでもあったと言われます。例えば壁画に描かれた狩りの絵は、決してただの狩りではありません。狩りが成功する絵です。描くことによって祈る。生活の祈りとして使われてきたんです。
また、和歌を詠むことは、それ自体が“願うこと”…つまり“祭祀”でもあり、創造してゆく科学でもあるのです。
弥生時代の卑弥呼のように民の幸せや豊穣を願う役割の人がいますよね。私もそういうことを、アートでやりたいなと思うわけですよ。」
 
 
 

“ 天災を経て、苦しみを経て、感性が開いた „

子どもの頃から音楽をやっていたこともあって、もともと感性は鋭い方だった。阪神淡路大震災で大きなショックを受けると、感覚は過敏になり、良くも悪くも感性がさらに磨かれることとなった。布弥さん自身はこれを“感性が開いた”と表現する。
 
 
「パニック障害です。呼吸が出来なくなり生命の危険すら感じる症状に苦しみました。でも、どうしても治療に薬を使いたくなかったんです。それで東洋の漢方とか、整体とか、目に見えない方に向かっていきました。途中からは不思議なことも重なり、模索しましたね。宗派問わずあらゆる神仏・ご先祖様を辿ったりして。こうして神社に詳しくなっていったんです。追求具合が半端ではありませんでした。命もかかっていましたから。
そもそも命の誕生の源とは何なのか。人類のルーツも気になる。国の歴史も…。次々研究するようになりました。深いところの吸収率が高くなっていくので、真実を知る楽しさもどんどん増していくんです。キリがありません。
 
土地土地の末裔の人々とのご縁が生まれ、国内中会いに行き、“パズル合わせ”を追求しました。
パニック障害によって精神を病む人もいます。でも私に限って言えば、感性が研ぎ澄まされ、大きく開きました。またたくさんの人と出逢いご縁を結ぶことが出来ましたし…良い面のほうが多かったですね。」
 
 


 
 
布弥さんはとても強い人だ。自分の病気と向き合い、約30年探求してそのメカニズムを理解した。それによって途中に辿り着いたのが、人類にとって地球にとって大切なものは「無条件の愛」ということ。
そしてそれは、布弥さんのアート活動のテーマとなった。
『ハートを繋げる』という作品も生まれた。地球からハートの樹が生えていて、ハートの葉が茂っている。そのハートの葉は、旅先で出逢った人や、路上で出逢った人にお願いして描いてもらった。布弥さんの代表作の一つとなった。

 
 
 
 

“ 過去と未来、伝統と現代芸術を繋ぐ „

「自分が何のために活動しているのかと訊かれたら、ひとつは、未来に地球上の叡智を残すため。もうひとつは、本来の自分を思い出す為の覚醒。その二つが統合されたとき、世の中や一人一人の心の調和した状態が保てるのかな…と思うのです。」
 
 
布弥さんは「伝統」と「即興」…ジャズに例えるなら「スタンダード」と「インプロビゼーション」の両方を大切にしている。
古代から現代、未来の進歩を経て、一見相反するものを結ぶことが平和に繋がるのだという。
多様性が求められる時代になってきたけれども、全てのトラブルはお互いをありのまま受容しないことが元になっているのだと。賛成と受容は少し違う。布弥さんは、自分はそれらを表現して伝える役目があると感じて、自らの使命としてアーティスト活動を続けている。

 
 
「かつては環境活動・平和活動もしていたので、自然のものにこだわるようになりました。古来の材料やその製造方法が未来に残るように、そして途絶えてしまったものを復活させたいという仲間が大勢いるんです。作品を制作することによって、それら古来のものを残すことに繋がるし、発信することも出来ますから。」
 
 


 
 
布弥さんは、今年(2022年)の12月に、日本橋ARTでVR個展『Puzzle Matching ー過去と未来。そのあいだ。ー』を開催する予定だ。作品作りのため、しばらくアートインレジデンスに滞在して、集中して制作活動に打ち込む。布弥さんに提供されたアートインレジデンスは京都の萬福寺。江戸時代に開山した歴史のあるお寺だ。
 
 
「これまでは、環境を整えるために自分で色々と走り回っていたけれど、お寺にはすべてが揃っていて、人も集まって来てくれるようになってきました。お祈り、環境活動・平和活動、全てが揃ってパズルのピースがマッチングした感じ。100%アート活動に力を注ぐことが出来るんです。
自分の流れに素直に委ねていくと合致する時期がやってきます。歩んできたその道の上にパズルのピースは用意されているんだと思います。」

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