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Interview: 布目千加子

目の前のその人は、本当に笑っていますか?

 
 

“ 日本画を専攻していた大学時代 „

 
 

――絵を描き始めたきっかけについて教えてください。

「小学生の頃から描いた絵を張り出されることが多く、自分はこれが得意なんだと思っていました。しっかり描き始めたのは高校に入ってからで、芸術大学への進学を希望したことがきっかけです。実は当時、勉強が嫌いで『大学に行ってまで勉強したくない』と思っていたんです。それで芸術系の大学を選択しました」

 

――大学では日本画を中心に学ばれたのでしょうか?

「そうです。人物や花鳥画などを学びましたし、日本美術院展覧会(院展)や日本美術展覧会(日展)などが身近な存在でした。一方で『しっかりデッサンをしてから描きなさい』と教わったため、自由に描けない窮屈さも感じていました。当時はあまり熱心な学生ではなかったのですが、社会に出て就職してから『やっぱり絵が描きたい』と思うようになったんです。卒業後は、仕事を終えて帰宅してからが作品と向き合う時間でした。やがて結婚を機に退職し、出産や育児を経験。今は子育てが一段落したので、改めて作家活動に本腰を入れています」

 
 

 
 

“ “目がない絵”を描き始めたきっかけ „

 
 

――布目さんの作品には、目が描かれていない女の子が多く登場します。現在の作風になったきっかけを教えてください。

「今の作風が生まれたのは、7年ほど前だったと思います。大学時代に感じていた『自由に描けない』という思いから脱却するため、いろいろと試行錯誤を重ねてきました。もちろん、すぐに“目を描かない”という選択に至ったわけではありません。人物の絵を描きながら、次第に『目を描くことによって、見る人の感じ方が制限されてしまう』と思うようになったんです。私の作品を見て、より心で感じてもらいたいと考えているうちに、目がない子どもの絵に行き着きました」

 

――初めて目がない絵を描いたときのことは覚えていますか?

「覚えています。初めて描いたときに、『これだ』という感覚がありました。それまでは、どちらかというとしっかり目を描くタイプだったんです。でも、これでは表現し足りないという気持ちが強くなり、今の作風になってようやくたどり着いた気がしました。同時に『笑っているこの子は、本当に笑っていると思いますか?』というメッセージも生まれました」

 

――作品を作る際は、最初に構図が思い浮かぶのでしょうか?

「そうです。思い浮かんだ構図に合わせて色を重ねていきます。作品ごとに伝えたいことがあって、それに沿った色を見つけていくのですが、これがなかなか決められません。時間をかけながら選んでいって、最終的にはイメージ通りに仕上がります」

 

――作品を見た人からの反応はいかがですか?

「見る人によって大きく印象が変わるみたいで、『かわいい』と言ってくれる人もいますし、『怖い絵だね』っていう人もいます。私自身はすごくかわいいと思って描いているので、怖いと言われるとちょっとショックを受けます(笑)。でも、大半の方がどちらかの反応になりますね」

 
 

 
 

“ 心の在り方の表現とその先にある幸せを願う „

 
 

――国内はもちろん、海外のグループ展にも積極的に参加されていらっしゃるそうですね。

「これまで、ニューヨークやパリのグループ展に参加させていただきました。でも一時期は、更年期障害が辛くて絵を辞めようかと思ったことがあるんです。体調を崩す前にとても忙しい時期があって、それが終わったら燃え尽き症候群みたいになってしまって…。最近はだいぶ回復してきたので、また作家活動に力を入れていこうと思っています」

 

――最近は人物だけでなく、バッタの絵も描かれていますね。

「そうなんです。不思議なことに、女の子の絵が好きっていう人とバッタの方が好きっていう人とで、きれいに分かれるんです。もしかしたら、目がない絵を怖いと感じる人はバッタの方が好きなのかもしれません。今後は、2つの絵を上手く融合させたいと考えています」

 

――最後に、今後の目標を教えてください。

「私は子どもの絵を描くことが多いのですが、もしかしたら自分の気持ちを込めた自画像なのかもしれないと思うことがあります。これからも『果たして目の前のこの人は、本当はどう思っているんだろう?』という問いかけを作品に込めること。そしてその先にある、たくさんの人に幸せになってほしいという思いを大切にして、作品を手掛けていきたいと思っています。また、子育てを通して周囲の人の暖かさに気づくことができたので、将来は子ども向けの絵画教室など、私にできることで地域に還元していきたいです」

 
 

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