日本文化を継承するアート販売Webメディア

Interview: 彩月りお

“七変化”の異名をもつ紫陽花 憧れをもって描き続けます

“ 観る人が優しい気持ちになれる絵を描きたい „

 
モネが睡蓮を、ドガが踊り子をモチーフとして描き続けたように、紫陽花を愛する新進気鋭の日本画家。彩月りおさん。
画家になることを目指して生きてきた彼女のこれまでの人生はあまりにも一途で感動を覚えるほど。作品には絵を描くことの充実感や幸福感が溢れている。

 
 
「花を描くことが好きです。花を貰うとどんな人でも優しい気持ちになれますよね。ふんわり柔らかい色合いの花を描くことで、日々疲れている人や心の余裕を失くしている人が自分の時間を取り戻すきっかけになったら嬉しいなと思うんです。
中でも紫陽花は大好きなモチーフです。私が6月生まれということもありますが、紫陽花そのものの存在が好きなんです。まず色合いが素敵ですよね。“七変化”の異名をもつように土壌によって色が変わるのも魅力。品種改良でたくさん種類があるのも楽しいし。私の描く絵の3分の2以上は紫陽花だと思います。」
 
 
一見すると洋画にも見える自由な作風。抽象画かなと思う作品も。
 
 
「実は、日本画で好きなのは絵の具だけ。作風とモチーフは洋画の要素を採り入れています。私の作品は日本画としてはイレギュラーなので、大学ではよく怒られていました(笑)。
あまり写実的なものは描きませんね。見たものをそのまま描くのではなく印象を捉えて描いています。自分の感情をその絵に込めたい。色を実際よりも優しくしたり、見せたいものを大きく描いたり。
また絵画鑑賞は“タイトルを見て、絵を観て完結する”ということを意識して、タイトルもこだわっています。
たとえば『彩る水無月』は、ぱっと見て「花っぽい?山っぽくも見えるかも?」そこでタイトルを見て「水無月…6月…ああ6月を彩る花なら紫陽花か…」という風に思う。そしてまた近くで観て「紫陽花をこんな風に表現したんだ…」って思ってもらえたら面白いなって思います。」
 
 


 
 

“ モネとの出逢いが人生を決めた „

 
「子どもの頃ですか?スケッチブックさえあれば大人しい子どもだったそうです。もの心が付く前から暇さえあればぐるぐると何かを描き続けていたらしくて。幼稚園に通うころには「りおちゃん、大きくなったら画家さんとお花屋さんになる!」って言っていました。
きっかけはテレビで見たモネの睡蓮でした。太鼓橋が架かっていて柳が垂れていて、下に睡蓮があって…。見た瞬間、あ、綺麗!って大好きになっていました。それを見ていた母が展覧会に連れて行ってくれたんです。実際に本物を見てすっかり魅了され、花と橋と水辺を描き続けてきました。小学1年の年にはサンタさんに「油絵の具のセットが欲しい」とお願いしました。モネと同じような絵が描きたかったんです。これが画家になろうとした原点かなと。」
 
 
絵を描くことしかして来なかった…と彩月さんは振り返る。小学1年で油絵の具を手に入れると、近所の造形教室で特別に油絵の描き方を教えてもらった。
 
 
「母は、ピアノは?水泳は?英会話は?と色々勧めたけれど「りおちゃんは絵を描くの」と他に興味を示さなかったらしいです。とにかく絵を描くのが楽しかったんです。土日は朝起きてから寝るまでずっと。平日も学校から帰ってランドセルを置くと、宿題とおやつ・夕食の時間以外はずっと毎日7時間くらい描いていました。今考えると結構ハードだったなと(笑)」
 
 
小学生の頃から、高校・大学は美術系の学校に行きたいと考えていた。歌が上手かったため学校の先生から合唱の強豪校への進学を勧められ少し心が動いたが、絵を描く時間が無くなると思ってやめた。
中学時代に、将来日本画をやろうと決め、そこに向けて逆算し、油絵はすでに経験があるので高校ではデザインを専攻しようと決めた。大学で日本画を学ぶための下積みになると考えた。

 
全ては画家になるためだった。
 
 


 
 

“ 絵の具の質感が日本画の魅力 „

 
「もともとモネが好きで西洋画を描いていたのですが、中学時代に東山魁夷の絵を見て、日本画の透明感のある色彩と絵の具の質感に興味を持ちました。
日本画は岩絵の具(いわえのぐ)という石を砕いた粉を使うんです。岩絵の具には粗い・細かいがあって、粗い岩絵の具を使うとザラザラした絵が描ける。細かい岩絵の具を使うとサラサラ、艶々した絵が描ける。ここが日本画の一番面白いところだと思っています。
二番目は色が自由に混ぜられないというところ。岩絵の具を混ぜるには粒子の粒の大きさを合わせなければなりません。私は混ぜるよりも重ねる方が好きです。紫色にしたいなと思ったら、まず青い絵の具を塗って、乾いてから赤い絵の具を重ねます。すると青い粒と赤い粒が混ざって紫に見える。スーラやシニャックと同じ点描の原理です。
三番目は、絵の具を焼くことで色の幅を増やすことができることです。絵皿の上に岩絵の具を乗せてコンロで炒るんです。すると(酸化して)色が濃くなるので、自分の好みの具合に色を作ることが出来るんです。そんなところがワクワクするんですよね。
私の作品は、粒が粗い絵の具をたくさん使っているので、平面だけど立体感があって重みがある。光の角度で透明感が出たり、キラキラ光って見えたり。カメレオンみたいで面白いと思います。」
 
 
「写真で観てもいいけれど、是非ギャラリーにも足を運んで頂きたいです。写真や動画では分からない立体感とか、絵の具と絵の具の粒子の間に他の色の絵の具があるという重なりなどを見て欲しいと思います。そこが私の作品のこだわりであり、作風ですから。」