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Interview: 秋山佳奈子

「多様性を大事にしていくのが美術の役割だと思っています」
地元に還元する秋山佳奈子の「伝える」アート

 

コンセプトを持って、「伝える」ことに重点を置いた作家、秋山佳奈子さん。
2019年の「第22回岡本太郎現代芸術賞(TARO賞)展」では女性特有の「見られる性」への違和感を打ち出し、話題をさらった。

 
 
「TARO賞で展示したのは、バニーガールという作品です。ピンナップガールをモチーフにしたバニーガールをB2サイズの画面に描いて壁面に30枚ほど並べて、同じ空間に同様のマネキンを3体展示しました。ピンナップガールというのは、第二次世界大戦中にアメリカ軍が戦意高揚のために戦闘機などに貼っていたセクシーな女性の絵のことで、今でいうグラビアのようなもの。
私のバニーガールは耳だけでなくて、ウサギを全部被っています。耳だけ着けるとかわいいとかセクシーという印象になりますが、全部着けると生々しさが出ます。女性の性を全面に出しているポスターへの違和感を表現しました。それ自体を否定はしていないんですが、不思議に感じたことが元になっています」
 
 

素材:パネルにアクリル絵の具、マネキン、布/300×300×300㎝
制作年:2019年
写真提供:川崎市岡本太郎美術館

 
 

素材:パネルにアクリル絵の具/91×116.7㎝ 制作年:2017年
バニーガールシリーズの遊女バージョン
「遊女は江戸時代の浮世絵のモチーフに多く描かれその時代のグラビアのようなものだったのではないかと思います」(秋山さん)

 
 

意識を喚起させる作風が秋山さんの持ち味だ。「ビジュアル的には攻撃的にしないように気をつけているんですが、コンセプトが尖っているとは言われます」と語る。考古学に携わっていた父親ゆずりなのか、ふと思いついた疑問について関連本や資料を読む。漠然と考えていたことを具現化するプロセスだ。

 
 
「コンセプトがあって表現しているのがアートです。アートは、違う考え方を認めていく、認めないまでもそういう考え方もあることを伝える力があります。多様性を大事にしていくのが美術の一番の役割だと思っています」
 
 
 

素材:紙に銅版画/37×45㎝
制作年:2020年
水槽と人間社会を重ね合わせた銅版画のシリーズ

 
 

感銘を受けたのは、同性愛者を始めとしたマイノリティの権利の主張やベトナム戦争の廃絶に向けた表現活動を行っていたニューヨーク時代の草間彌生だ。社会の課題を見つけ表現を通して伝える―秋山さんの創作活動にはそんな姿勢が見えるが、創作のみならず、地域興しや教育といった領域にまで活動の幅を広げている。

 
 
「もうちょっと色んな人にアートに触れてもらえる機会を増やしたいと思っています。地方出身なので価値観が凝り固まったところにずっと自分がいたような印象があって。
東京に出て美術を学んで、色々な世界を見ることができましたが、そういう体験を地方でもできるようにしたくて小学校の図工教育に携わっています」
 
 
秋山さんが拠点としているのは地元の栃木県足利市。足利市の過疎地域の小学校は教科担任制ではないため、図工の授業展開に悩む教員も多い。例えば工作キットを配って組み立てるだけなど、子供に寄り添った授業内容が困難だという。
 
 
「そういった工作キットを少しアレンジする形で関わっています。子供に課題を与えて作らせるというよりは自発的にどういうものが作りたいかを聞いて、それを作り上げるためのお手伝いをしている感じです。今はファッションショーをやろうとしています。段ボールでロボットを作って着るという教科書の課題なのですが、段ボールの箱の穴を開けて入るだけの単純なものだったので、異素材を使ってモノを作るといった他の単元と組み合わせて、ファッションショーをトータルコーディネートすることをゴールにした授業をしています。教科書だとのこぎりを使って切るだけなんですよね。切ってみよう!みたいな。切った後のことを教えていない。これだとのこぎりの使い方の授業になってしまうので、のこぎりや釘を使ってランウェイの横に置くオブジェを作るなど、のこぎりを使って切ったその先の目的を加えています」
 
 
現在はモデル校のみでの取り組みとなっているが、今後他の学校にも広げていくことを視野にいれている。
 
 
 

素材:紙に油性色鉛筆/97×162㎝
制作年:2020年
小山市立車屋美術館「描かれた水神展」のために制作された作品。
「間々田のじゃがまいた」という龍のお祭りがモチーフになっている

 
 

軽音楽部と美術部に所属しバンド活動やライブでの演出など、形式を問わず表現活動に身を投じていた高校時代を経て、大学は多摩美術大学美術学部絵画学科版画専攻に進んだ秋山さん。最終的に大学院博士前期課程絵画専攻版画研究領域を修了している。ユニークな経歴の背景についてこう語る。

 
 
「やっていたのがビジュアル系バンドだったんです。ビジュアル系は衣装や演出といった総合芸術に近いものがあるので、表現の幅を広げるために美大に進学しました。親からも大学くらい出ておけと言われていたこともあって。版画はもともと印刷技術として開発されて、新しい技術が生まれて時代が進んでいくとともに技法として残ってきたという側面が面白いなと思っています。宗教の布教や本の挿絵で使用されてきた歴史もあるので『伝える』ことを意識した技法なのかなと思っています。そういった意味でコンセプチャルな作品作りに向いているのも魅力的です」
 
 
現実に起こっている出来事や、言葉、社会問題からイメージが浮かび、映像や図柄となる。そのイメージから必要な資料を探して描くことが多いという。「何かを感じ取ってくれたら嬉しいです」と語る秋山さんの作品は、一見別の世界のようだが、共感できるエッセンスを残している。
 
 
「アートに親しむことで人の考え方を知ることができます。私は海外のアーティスト・イン・レジデンスへの参加や日本でも海外アーティストの受け入れに携わっていたので外国の方の表現に触れる機会がたくさんありました。その中で『ヨーロッパの人はこう考えるんだ』と、国によっても色々あるのでアートをやっていく上で本当に視野が広がりました」
 
 
こうして広げた視野を教育の場に還元し、今後も様々な作品に落とし込んでいく。現在は5月に向けて、空間を使った作品に取り組んでいるという。「輪廻」と「花」をテーマに診療所をコーディネートする、地元の使われなくなった診療所を再利用した展示だ。
 
 
秋山佳奈子にとって”アート”とは


 
「  色んな価値観を知るツール  」
 
 
 
 
素材:紙に油性色鉛筆/97×72.7㎝
制作年:2020年
人が土に還っていくイメージで描いた作品。

 

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