釘町 彰

Kugimachi Akira

“伝統と現代を融合する
「不在の風景」の創造者”

専門分野:日本画

関連Web:https://www.akirakugimachi.com/

伝統技法と現代的感性を独自の境地で融合させる斬新な画風で、現代日本画壇の第一線を走る画家・釘町彰。彼は、和紙と岩絵具という古来の素材を用いながら、写真的視点と哲学的思考を織り交ぜた革新的な表現で、国内外の美術界から広く注目を集めています。

彼の作品が問いかけるのは「風景とは何か」という根源的なテーマ。描かれた画面には、見えるものと見えないもの、存在と不在の狭間に立ち現れる静謐な詩情が満ちているのが特徴です。幼少期の異文化体験から培われた複眼的な視座と、日本美術の精髄を継承する技術が交差する地点に、"釘町芸術"の真価があります。デジタル技術が席巻する現代において、あえて伝統的素材と手仕事に向き合い続ける彼の姿勢は、芸術の本質的価値を問い直す行為そのものでもあるといえるでしょう。本特集では、釘町氏の半生と作風について紐解いていきます。

異文化体験が生んだ独自の芸術視点

1968年、神奈川県に生まれた釘町は、3歳から8歳までの決定的な時期をベルギーで過ごしました。ヨーロッパの古典美術に幼い頃から触れると同時に、日本人としてのアイデンティティを外から客観視する視点を獲得したことは、彼の芸術観の形成において極めて重要な素地となり、この幼少期の異文化体験こそが、後の芸術活動に大きな影響を与えることとなったのです。

ベルギーでの生活も含め、彼が日々高めてきた「内側」と「外側」の双方から物事を捉える複眼的な視座は、のちに「存在と不在」という彼独自のテーマへと昇華されていきました。1993年、多摩美術大学を首席で卒業した釘町は、将来のパブリックアートを担う若者へ贈られる賞である「国際瀧冨士美術賞」を受賞し、若き日の才能を証明しました。この栄誉は、画壇における彼の出発点となり、1995年に同大学院修士課程を修了した後は、再び芸術の本場フランスへと渡り、より深い思索と学びを追い求めるのでした。

釘町はパリ第8大学に入学し、メディアアートを専攻。「時間装置としてのアート」を修士論文のテーマに掲げました。この哲学的アプローチは、芸術を単なる視覚的快楽ではなく、時間と空間の体験を再構成する装置として捉える視座を確立するものであり、後の作品制作における重要なコンセプ トの核となっていきました。西洋のメディア論と東洋の伝統美術観が交差するこの思索の地点こそ、釘町芸術の原点といえるでしょう。

“光・時間・距離”を追求する
独特の技法

釘町の作品世界は、和紙に揉み紙を施し、天然岩絵具で描くという伝統的日本画の技法を基盤としながら、写真表現からのインスピレーションを取り入れるという独創的なスタイルで展開されるのが特徴です。彼の制作プロセスは極めて緻密で、長い時間を要するもの。まず和紙に何層にもわたり墨を重ね、その上から膠(にかわ)で溶いた胡粉を幾度も薄く塗り重ねます。この反復的な行為によって、画面には独特の深みと透明感が生まれ、光が内側から立ち上がるような効果が現れるといいます。一見すると単純な繰り返しに見えるこのプロセスは、釘町にとって「虚空の闇から光を呼び起こす行為」そのものであり、描くことと存在することの意味を問い続ける身体的な営みでもあるのです。

さらに、野崎の活動は国内に留まらない。表参道や京都での個展をはじめパリの公募展で審査員特別賞を受賞するなど、活動は国内外へと広がっている。漫画家として培ってきた物語を紡ぐ力を背景に、彼女はドットアートという新たな表現領域で独特の可能性を追求し続けているのだ。

「Eridanus」
作:釘町彰

「風景は人間の立ち位置を再認識する『場』であり、世界と人間の関係を問う装置だ」

この言葉に表されるように、彼にとって「風景」は単なる映像ではなく、存在と不在の関係性を問う“哲学的命題”です。自身を「媒介者」と捉え、描く手段・プロセス・素材を同一化する"概念的手法"により、物体の不在を示唆する「空虚さ」を表現しています。それは、何も描かれていないようでありながら、無限の奥行きと静寂をたたえた画面として結実します。鑑賞者は画面の前に立つとき、描かれていないものの気配を確かに感じ取る。その感覚こそが、釘町作品が生み出す固有の詩情であるといえるでしょう。

「その他、写真的視点の導入も彼の作品に独自の緊張感をもたらしている要素のひとつです。写真が、ある瞬間を切り取り固定するように、釘町は絵画の中に「時間の断面」を封じ込めます。しかし同時に、和紙と岩絵具という物質的な素材が持つ有機的な呼吸感は、写真には決して宿らない時間の堆積も画面に刻み込みます。この矛盾の共存が、見る者を不思議な静けさへと誘っているのです。

主要作品群と空間インスタレーション

代表作品シリーズには「Bifröst」「Air」「Shadows」「Snowscape」「Seascape」などがあり、自然の要素を抽象化した独特の表現が特徴的です。

Bifröst

「Bifröst」は北欧神話の虹の橋を想起させるタイトルであり、見えるものと見えない世界を繋ぐメタファーとして機能する。神話的イメージを借りながらも、画面に広がるのは過剰な物語性ではなく、あくまでも静謐な色の層と光の揺らぎである。

Air

“空気”という不可視の存在を可視化する試みがなされている「Air」シリーズ。触れることも、掴むこともできないはずの「気」の流れが、岩絵具の繊細な濃淡と和紙の質感によって画面上に立ち現れる。

Shadows

「Shadows」では、影という存在の痕跡に焦点が当てられ、実体を失った後にのみ残される輪郭の美しさを探求する。

「Seascape」
作:釘町彰

いずれのシリーズも、「そこにないもの」をいかに描くか、という根源的な問いを共有しているのが特徴です。

近年では、岩絵具による絵画と流れる映像を組み合わせたインスタレーションも展開しています。建築空間との一体化を図り、パリの高田賢三旧邸では楕円形メインサロンの全8面に壁画を制作するなど、空間全体を作品化する試みも積極的に行い、鑑賞者を作品世界に没入させ、絵画の枠を超えた体験を提供する大規模プロジェクトにも注力しています。静止した絵画と動く映像が共存する空間の中で、鑑賞者は時間と存在の関係を身体ごと感じ取ることになります。

国際的評価と市場での認知

釘町の作品は国内外の主要施設に収蔵されています。そのひとつには、アジア美術専門の名門として知られるパリの「セルヌスキ美術館」もあり、この収蔵は国際的な評価の証ともいえるでしょう。また、国内では岡山「新見美術館」をはじめ、東京・麻布台ヒルズ「AMANレジデンス」というラグジュアリー空間での恒久展示、さらには「立源寺」という宗教空間との対話も実現しており、作品が置かれる文脈の幅広さが際立っています。

2019年のあべのハルカス個展では出展作品がほぼ完売し、同年パリで開催された「アートパリ」でも出展作品の3分の2が売却されるなど                    国際的な美術市場においても高い評価を得ている釘町。コレクターからは「静謐でありながら力強い存在感」「空間を浄化するような精神性」といった声が寄せられており、単なる装飾を超えた、空間そのものを変容させる力が評価されていることがわかります。現代美術市場において、釘町は確固たる地位を着実に築きつつあるのです。

「Snowscape(red)」
作:釘町彰

最新作と未来への展望

直近では、2025年12月から2026年1月にかけて、東京・品川のYUKIKOMIZUTANIにて初の大規模個展「Absentia - 不在の風景 -」を開催した釘町。タイトルに掲げられた「Absentia(不在)」という言葉は、釘町が長年にわたり探求してきたテーマを一語に凝縮しています。展示の中では、6メートルを超える大作「Air(Gandate)」が、その圧倒的なスケールと繊細な表現で大きな話題を呼びました。会期中には文筆家・山本貴光との対談も実施され、芸術と哲学の交差点について深く掘り下げた議論も交わされました。

「風「和紙に何層にもわたり墨を重ね、その上から膠で溶いた胡粉を幾度も薄く塗り重ねることから始まる。その行為はまるで虚空の闇から光が立ち上がるようなプロセスだ」

釘町は自然素材を通じて、宇宙の根源的な問いに迫り続ける画家。見えないものを見ようとする眼差し、触れられないものに触れようとする手仕事、そして描くことで存在の意味を問い続ける精神——。異文化体験が培った国際的な視野と、日本美術の本質を捉えた感性が融合した彼の作品世界は、今後も芸術表現の新たな地平を切り開いていくことでしょう。「不在」を描くことで、かえって「存在」の輝きを際立たせる。それが釘町彰という画家の、揺るぎない芸術の核心なのです。

釘町彰の芸術は、「不在」を描くことで逆に「存在」の輝きを際立たせる、逆説的な美の探求です。和紙と岩絵具が生む静謐な詩情は、見る者の内側に静かで深い問いを刻み続けます。

次号では、光そのものを絵筆で捉えようとした画家《クロード・モネ》の特集をお届けします。「光の画家」が生涯をかけて追い求めた美の真髄に迫ります。

WORKS

釘町 彰

Eridanus

Snowscape(red)

Seascape

Light Scape(Green)

Lightscape(colors)pink