WORKS 作品
INTERVIEWインタビュー
幽香
静と動を組み合わせて
「昔から書道を習っていて、いまは自分の書道教室も開いています。コロナが始まったときに"やっぱり対面で教えるっていうのは大事なんだな"と改めて思いました。同時に、インターネットで全然知らないところで暮らす方と繋がれるようになり、いろんな方法もあるんだなと思ったのも印象的でした。そこで人に作品を見てもらい、心安らいでもらえるような体験を届けられたらいいなと考えるようになりましたね。大きなものではないですけれど誰かの心に刺さればいいなと思っています」
ソーシャルディスタンスやリモートの頃に、作品の届け方について改めて考えられたという幽香さんは、日本習字最高段位を取得されている書道家さんだ。とても柔らかい笑顔でたくさんのお考えを交えてお話をしてくださりながら、歴史ある書道を守り続けるとはどういうことかを伝えてくれた。
「書道とはまた違うフィールドなのですが、私はダンスのインストラクターもしています。静と動で一見真逆のようですが、体を正しく使うことと、正しく文字を書くことには共通する部分があると感じています。体と脳の影響は、身体のほうに出てくるんです。リラックスすることも興奮するときもそうだし、自分自身がいろんな方向に変わっていけるという点で共通することがあるなと思っています。正しい姿勢を取ったり、新しく体を使ったり。心身を整えるための手段となって、気持ちが落ち着いたり。書道作品を見ることによっても"言葉は出てこないけれどなんだか圧倒される気持ち"を感じ取っていただける方に、伝えていけたらなという気持ちがあります。もし誰かにいい影響を与えられることがあったら嬉しいです」

一期一会の作品に安らぎをのせて
「漢字って、いろんな意味があるじゃないですか。一文字だけ取っても成り立ちがありますし、熟語でも捉え方が変わってくるし、書体によってもイメージは変わってくる。遊び心をプラスしてちょっと書き方を変えるだけで、勇気づけられたりとかほっこりしたいとか。そうしていろんな種類の作品を作れるのところは、書道や日本語の魅力だなと感じます。昔からある掛け軸も素敵だし、額に入れて壁に簡単に飾れるようなもの素敵。"書"に堅苦しいイメージを持たれる方もいるかと思うんですが、私は歴史と格式あるものはもちろん、気軽に飾れるものも作っていきたいなと思っています」
そう語る幽香さんは、日本橋アートへも過去に幅広い作品を販売してくださっている。横書きの作品や、円形に文字を並べたものまで、豊かな発想力で作品を制作されているのだろう。続いては、書体や額縁の選び方、テーマの決め方について決まりはあるのかお伺いした。そこには一期一会の世界が広がっているという。
「先に"この字をこんなふうに書きたいから、こういった感じで飾れたらいいな"という場合もありますし、面白い紙を見つけて"ここにはどんなふうに文字を書こうかな"と考ることもあり、その時々によってさまざまです。紙と墨の色もそうなんですけれど、出会いに突き動かされることがあります。その時にあったものに囲われて制作するのではなくて"この字を書きたいからこういったのを探そう"とか、いろんなパターンがありますね。ひとつの要素が違ったらまた全然違う作品ができていただろうなと。書道は歴史のあるものですが、書道家さんによっては本来のものに自分のアレンジ加えたりする方もいらっしゃって。ほんとうに素晴らしい方がたくさんいらっしゃる世界なのでそんなに大きなことは言えないですが、これで完璧というのはないと思っています」

ぱっといい香りが漂うような
「完璧というものはなくても、いろんなものを幅広く書けないといけないなと、自分にできる一通りの勉強はしてきたつもりです。教室を開く以上、聞かれた事はちゃんと答えなきゃいけないですし。作品を見てくださる方には、気に入って買ってくださる方もいらっしゃいます。"言葉では言い表せないような感動を受けた"と言ってくださるのがいちばん嬉しいですね。大勢の方に認められるというわけじゃなくて、誰かの心に刺さればいいなと思って少しずつ作品を作っています。作品を作る以外に文字を書くときでも、きちんと胸のうちから出るように書くようにしています。LINEでささっと送る人との意思疎通でも、文字を並べただけなのかちゃんと考えて打ってくださっている文章なのかはわかります」
ライターとしてお仕事をしている筆者も共感できる、言葉や文字いついてのお話でとても盛り上がった今回の取材。文字に現れる相手の気持ちと自分の気持ちに向き合っている幽香さんは、そこに現れるものの大きさを熟知されているようだ。そうした話から派生したのは、幽香さんのお名前の由来についてのこと。
「現在の名前"幽香"は雅号なんです。高校生のときに申請して、団体からつけてもらったものをずっと使い続けているんです。もらった時はどうしてこの字なんだろう?と考えました。あんまり派手ではないけどぱっといい香りがするような、気がづいたらいい存在になっている、という感じで受け取れる雅号かなと思っています。作品について"これが好き"っていう好みは人によってそれぞれあると思っています。もしそれがかちっとはまって、気に入ってお部屋などに置いていただけたら嬉しいです。どなたかにとって心が安らぐものが作れればいいなと思っています」
