INTERVIEWインタビュー
たま
絵はいつごろから描いていましたか?
「小さい時から絵を描くこと自体は好きで、鉛筆や色鉛筆で趣味程度に描いていました。高校生の時に美術の授業で油絵を初めて体験し、『なんて楽しいんだろう』と思いました。絵具が固まらないうちは何度でも描きなおせるという性質が自分に合っていたのだと思います。それで美術系の道を志そうとしたこともあったのですが、様々な事情で一度断念しています。そこから長いブランクがあり、次にしっかりと絵を描き始めたのは46歳、今から6年前のことです。」
再度、絵筆を手に取ったきっかけはなんだったのでしょうか?
「娘が中学校の美術の授業でアクリル画をやることになり、家にアクリル絵具が広げてあったんです。娘が出かけているとき、ふと思い立って、その辺に置いてあった段ボールの切れ端にそのアクリル絵具で描いてみました。そうしたら楽しくてしょうがなかったんですね。長いブランクがあったけれど昔の感覚が残っていて、迷わずに筆が進みました。」
娘さんがもたらした偶然のようで必然のような機会だったのですね。現在は継続的に作品を対外発表されているのでしょうか。
「はい、それから自分で画材を揃えて本格的に制作を始め、Instagramに作品をアップしていったら、ありがたいことに定期的に展示会への出展依頼や美術系雑誌への掲載依頼をいただくようになりました。現在は実家で親の介護をしているので、合間合間に描くような形ではありますが、絵を描いているときが一番何も考えずにいられます。なので描くモチベーションが途絶えることはありません。」
作品のモチーフやテーマについて教えてください。
「モチーフ自体は人物、動物、植物、仏画などあまり一貫したものではないんです。ただこだわっているのは、『写真では表せないものを描きたい』ということです。現実にあるものを対象に描くけれど、全体としては現実ではないような世界観を大切にしています。 実物や写真を見ながら描くと中々そのようなものにならないので、私の場合、描きたいと思ったものを決めて、画像を検索して10分ほどじっくり観察します。そうしたらあとはもう自分の頭の中にある像をアウトプットするだけで制作を進めます。」
記憶の中の像だけを頼りに描いていて、この高い描写力には驚かされます。モチーフの幅も広いということですが、どのように決めるのでしょうか?
「モチーフを決めるのには毎回結構迷っています。特別な場面というよりは、田舎の音や季節のにおい、夜空の月を見上げたときなど、ふとした日常の中からインスピレーションをもらうことが多いかもしれないです。 描くものをもっと一貫させた方が良いのかと悩んだこともあります。ただ、私の場合、そうすると絶対飽きて描けなくなるような気がするのです。制作に取り掛かるにあたっても、描く前に作品のイメージが完全に頭に浮かんでいるときばかりではなくて、『とりあえずこれは描こう』とだけ決めて、あとから必要なものを足していくときも多いです。それは『描きたい』という欲求が先行しているからだと思います。『描きたいものを描く』が私のスタイルだと、今は自分自身で納得できています。」
モチーフは様々ということではありますが、作風としては神秘的・幻想的な世界観がたまさんの特色であるようにも見えます。
「私の作品の多くに共通しているのが『背景が黒』ということですが、それが神秘的・幻想的な雰囲気を作っている大きな要素の一つだと思います。黒の下地は、白いキャンバスから描き始めるよりも奥行きや透明感を出すのが容易なためそうしています。 画材はアクリルと油彩を併用していて、この平滑で真っ黒な下地はアクリル絵具です。油彩が自分の性質に合っていると感じたという話をしましたが、アクリル絵具は油彩のムラを消してくれる、というように、それぞれの良さがあるので、実験しながら目的に応じて使い分けています。」
特に思い入れの深い作品はありますか?
「一つは、『古代の森』という作品で、巨大な月の浮かぶ星空を背景にストーンヘンジのような巨石群を描きました。これは本当に心の思うままに描けたという点で思い入れがあります。ある歌手のアルバムのジャケットから着想を得たのですが、月は自分が後から付け足したものです。『昔の地球からは月はこのように見えたのかな』と、描きながら考えていました。 もう一つは、『月光菩薩』という作品で、2024年の法隆寺芸術祭に出展したものです。私自身、実家がお寺ということもあって仏画を時折描いています。この年の法隆寺芸術祭のテーマが『和を以て貴しとなす』だったのですが、この描かれる仏は切なく辛そうな表情をしています。私なりに、今この時代に『和を以て貴しとなす』を描くことの意味を考えたときに、仏様はこの世の中を決して喜んではいないだろうというのが率直な思いでした。争いは絶えず、貧富の差も縮まりません。『上辺だけを見ていても世の中は良くならない』という切実な思いを作品に込めました。」
現実を確かに見つめながらも、持ち前の空想力で人々の心の琴線に触れる世界を描き続けていることがよく伝わりました。最後に、今後の目標について教えてください。
「やはり、個展をやってみたいという夢はあります。私は生まれも育ちも福島県なので、田舎で、建物の中でも外でも自由に見てもらえるような場所で出来たらと思います。 生活の中で目にする動物や昆虫、人や自然。はたまた現世ではないもの。その場所にあった絵を屋内外問わず飾ってみたい、そんな展示をしてみたいと思っています。 その人その人の、多種多様な生活の場面に合った作品を選んで飾っていただけるように、これからも描き続けていきたいと思います。」