2018年10月、兵庫県朝来市の高台での出来事。夜明けの盆地の深い霧に柔らかな光が差し込むと、一帯に雲海が現れ黄金に染まる山の帯が浮かぶ。その光景は足元から地平線の向こうまで果てしなく続いており、私を幻想的かつ壮大な世界へと誘ったのである。そのイメージは、尺度を超えた空間の広がりを感じさせ、忘れがたい高揚感を与えた。
以来、私は地形が織り成す幻想世界に惹かれ続ける。けれども、山から発せられた広大を絵画で語ることは、極めて漠然としていて雲をつかむような試みであった。それでも描くことを通して、画面の中に深い渓谷や、果てしない空の存在を想起する空間が見える瞬間がある。制作を通して垣間見える様々な要因が、何らかの繋がりや関係を形作ることによって初めてそれは創出される。そしてその造形は、画面の四隅の大きさを忘れさせるイメージの強さがあったのである。
近頃、私は巨大な鍾乳洞の空間に興味を持った。洞穴に入った瞬間から周辺の空気に緊張が走り、懐中電灯に照らされた空洞や奇怪な鍾乳石の幽玄さに息を呑んだ。鍾乳洞に点在した穴や溝は、その深さから無限へと繋がり、自身の体や意識を吸収して異世界へと誘う開き口のようだ。鍾乳洞を描くことを通して、画面に穴を開け、地形が我々を何処に連れ去ってくれることを望む。
【略歴】
1997年
・兵庫県生まれ
2020年
・京都市立芸術大学美術学部美術科日本画専攻 卒業
2022年
・京都市立芸術大学大学院美術研究科修士課程絵画専攻日本画 修了
2023年
・京都市立芸術大学大学院美術研究科博士(後期)課程日本画領域 在籍中
【個展】
2021年
・京都市立芸術大学小ギャラリー/京都「山のフォルム」
・スタジオ・ツキミソウ/京都「遠望、」
【企画展】
2021年
・瑞雲庵/京都「山怪~異世界への誘い~」
2023年
・国際マンガミュージアム/ポーランド・クラクフ「山怪~異世界への誘い~」
【グループ展】
2021年
・galleryMain/京都「自然、あるいは風景」
【賞歴】
2019年 「第45回京都春期創画展」入選
2021年 「第6回石本正日本画大賞展」入選
2022年 「京都 日本画新展2022」入選