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Artist 梵禅 Bomuzhen

梵禅

INTERVIEWインタビュー

梵禅

簡単に自己紹介をお願いいたします。

活動名は梵禅(ぼんぜん)と申します。「梵」はブラフマン(宇宙根本原理)を、「禅」は悟達の修練を意味しております。本名は柏木 眞(カシワギ マコト)で、1957年に岩手県盛岡市で生まれました。上京後、一般大学を卒業し、予備校講師として働きながら、黄檗(おうばく)派一休宗純の墨蹟(ぼくせき※)、白隠の墨画、富岡鉄斎などを独学で学んでまいりました。現在は埼玉県に在住し、デジタルアートによる日本画、主に美人画を中心に制作しております。係累には美術評論家の柏木博、岩手県の画家である深沢紅子・深沢省三がおります。

※墨蹟:墨で書いた文字の跡。特に僧侶(禅僧)が記した筆跡を指す。

印象に残っている展覧会や出来事はありますか?

特に印象深いのは、株式会社麗人社が主催した2024年9月の「第9回サロン・ド・アール・ジャポネ 第3会期」で出展した「熱願冷諦」です。また、2026年2月には「美術的観点からの分析」イタリアミラノ社の美術書シリーズに「金魚」「線香花火」が掲載されます。同月には、日本国交樹立20周年記念第16回モナコ日本芸術祭において「万里一空」「雲心月性」の出展を予定しております。
その他、株式会社リフト主催の2025年9月第50回ジャパンウィーク in イギリス・マンチェスターでの「二人静」、2026年1月第9回アートコレクション in 横浜/京浜横浜駅デジタルサイネージ画面なども大変思い出深い機会でした。

「雲心月性」 作:梵禅

その他、株式会社Gya Gya gallery 主催の2024年12月AQUA ART MIAMI「静寂閑雅」、2025年3月Scottsdale Ferrari Art Fair in LA「優雅高妙」、2025年5月のFocus Art Fair Chelsea-Industrial in New York「鮮美透涼」や、株式会社Artcross_tokyo 主催のアート博 in パリでの日本藝術名誉大賞受賞、アートの光展 in いしかわでの日本藝術貢献大賞受賞など、多くの経験が制作の糧となっています。

画家活動を始めたきっかけは何ですか?

私は幼少期から絵を描くことに親しみ、17歳までは画業を志して制作に打ち込んでいました。しかし、家庭の事情や進路の選択など当時の様々な状況によりその道を断念することになり、以来長い間、絵画制作からは離れた生活を送ってきました。転機が訪れたのは近年のことです。偶然、ヴァロットンの版画作品に触れ、彼の版画の美学に強く心を打たれました。その衝撃は私の中に眠っていた創作への欲求を呼び覚まし、再び絵に向き合いたいという強い思いが湧き上がってきました。こうして私は数十年ぶりに再び制作に取り組むようになり、今日に至っています。

「帽子屋」 作:フェリックス・ヴァロットン

作品にはどのような想いを込めていますか?

私はデジタルアートという現代の媒体を用いながら、日本の様式美をひたすら追求しています。伝統的な日本画が岩絵具や和紙といった物質的な素材によって成立してきたのに対し、私はまったく異なるアプローチを選びました。掌サイズのモバイルモニターという小さな画面の中で蘇る、新たな形の日本画を目指しています。
また、西洋由来の現代絵画が主流となる中で失われつつある、伝統的な和の気品と文化的世界観を、日本女性の面持ちと肢体に込めて表現したいと考えています。私は自らをアーティストではなく“絵師”と捉え、日本の美の伝統を受け継ぐ者として制作に取り組んでいます。

今までの作品で最も「自分らしい!」と思う作品があれば教えてください。

2026年2月にイタリア・ミラノの出版社から刊行される美術書に掲載予定の「金魚」と「線香花火」が、最も自分らしい作品だと感じています。これらは決して華やかな作品ではありません。むしろ地味な色使いで、一見すると目を引くような派手さはないかもしれません。しかし、だからこそ、これらの作品には私の美意識の核心が表れていると考えています。女性の表情やふとした瞬間の憂い、内に秘めた想い。着物の質感や布の重なり、襟元の線の美しさ。そして着物の柄や伝統的な文様が持つ意味と装飾性。さらに画面全体を引き締めるアクセントの配置。余白とのバランス、視線の誘導。こうした要素一つひとつに、私が大切にしている日本の様式美への想いが込められています。

「金魚」 作:梵禅

派手さや華やかさを求めるのではなく、抑制された色彩の中に深い情趣を見出す。静かでありながら、確かな存在感を放つ。それが私の原点であり、「金魚」と「線香花火」には、その美意識が最も純粋な形で表れていると思っております。

「線香花火」 作:梵禅

今後の作品制作に向けての想いをお聞かせいただけますか?

本当は、作品を通じて伝えたいことが数多くあります。それらを生涯をかけて表現していくことが私の目標です。私が理想とするのは、江戸時代の黄檗宗の僧侶たちが描いた禅画のように、表面的には親しみやすくともその奥に深遠な思想を込める。明治の富岡鉄斎の作品のように、素朴でありながら崇高な世界観を感じさせる。そうした、表層と深層が共存する表現に強く惹かれています。現代においては、SNSをはじめさまざまな媒体を活用して、より多くの方々に作品をお届けしたいと考えています。現代の媒体を積極的に活用しながらも、本質的な美意識は決して揺るがない。そんな作品を描き続けていきたいと思っております。

 

「ペルソナ(能面と女性)」 作:梵禅

長年培ってきた日本の精神性や美意識に深い敬意を払いながら、デジタルという新たな技法で独自の日本画表現を切り拓いている。梵禅氏の作品は、伝統への畏敬と現代への問いかけが静かに共存し、見る者に深い余韻を残す。各地の展覧会で共感を呼んできたのは、その制作姿勢に一点の偽りもなく、人生観そのものが画面に刻まれているからだろう。今後、この独自性がどのように発展していくのか引き続き注目したい。