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Interview: サカグチカオリ

緻密なバランスから生み出される作品で
見る人を新たな世界へ連れ出す

サカグチカオリが絵を描き始めたのは2018年。その作品に魅せられた美術関係者から次々と声が掛かり、これまでに上野の森美術館など国内だけではなく、イタリア、スペイン、タイ、ドイツなど海外でも作品を展示してきた。2021年12月にはイタリアでHermes messenger of God art prizeを受賞するなど、その作品は高く評価されている。
 
 

2021年にミラノのデジタルギャラリーで作品を展示


 
 
「2018年にインドに関するイベントに参加することになり、ヘナアートをやってみようと思ったんです。それまで絵を描いたことがなかったので、特訓しました。描いた絵をSNSにアップ。すると、海外のギャラリーから声が掛かり、コンペに参加しました。コンペには落選してしまったのですが、オンラインギャラリーに載せてもらえました。それを見たスイスのアートの会社から展示会に誘われ、『海外なら知っている人もいないから恥ずかしくない』と参加し、書き溜めた作品で展示カタログまで作ってもらいました。そこでスクリーンに自分の絵が展示されているのを見て感動し、どんどんはまっていったのです。コロナ禍で、自宅にいる時間が増えたことで、その時間を描くことに費やしました」
 
 
その後、大阪や福岡、東京などで開催された国内のグループ展にも参加。一見順調そうに見える彼女のキャリアだが、悩んだこともあったという。
 
 
「日本では、やさしいタッチの絵、パステル調の絵が好まれますが、私の絵はそうした絵とはかけ離れています。最初のうちは、このまま制作を続けてもいいのか、悩みました。しかし、身近な人が私の絵を『好き』と言ってくれたこともあり、自分の画風でやっていこう、そうしなければ自分がやっている意味がないと決心しました。私の絵を見た人の中には『ゆるい』『ヘタウマ』と思う人もいるかもしれません。でも完璧なものは近寄りがたさがあります。絵を描く時は細部までこだわる部分と省略する部分を決めて制作。この作品が見た人の会話の糸口になったらいいなと思っています」
 
 
 

“ アートは研究成果
ベストな組み合わせを探求
 „

 
 
はっきりとした色使いで描かれたサカグチカオリの絵は、見る人に強い印象を残す。題材となるのは、海外の都市や猫、女の子など。海外の都市は知名度ではなく、彼女自身が心惹かれる場所を選んでいる。
 
 
「絵を描く際に大切にしているのは、バランス。たとえば、海外の都市を描く時は、そのまちが美しく見える角度を探して構図を考えます。構図を考えるのに1カ月くらいかかることもあります。人生にはいろんな選択があり、それが組み合わさって人生はできていますよね。それを絵でも表現しようと、いろいろな色を組み合わせてベストな組み合わせを追求しています。絵を描く時に一つでも選択を間違えてしまったら違う印象になるので、まさに選択の連続。アートはそうした研究の成果だと思っています」
 
 
画材においても、彼女の試行錯誤は続いている。ヘナアートから始めたこともあり、当初はヘナにタッチが似た筆ペンで蝶や蓮の花や好きなボリウッド映画の絵を描いていた。
 
 
「最初は筆ペンで線画を、それから色を付けたいと思い、色鉛筆、水彩絵の具を使いました。筆ペンを使って描いた絵は、イタリアの方から『浮世絵に影響を受けたような絵』と評論されたこともあります。対象となる素材を大きく描いているうえ、輪郭がはっきりしているからでしょう。ゴッホやモネやルノアールやロートレックなどたくさんの画家たちが浮世絵の影響を受けています。今はアクリルガッシュを使っています。これは、熊谷守一の絵を見に行った時に、インスピレーションを感じたからです。アクリルガッシュは、自分の世界観を表現しやすいですね。最近では新聞紙や布、ガラスビーズなどの異素材も使って作品に命を吹き込んでいます。美術教育を受けた人とは違い、画材の組み合わせなどを自由に考えられるのが独学の強みかもしれません」
 
 

新聞紙や布などを使って表現した「Adolescence(2020)」


 
 
そんな彼女だが、父親は油絵をたしなんでおり、彼女自身もフランスやイギリスに留学した際には、多くの美術館を巡ったと話す。
 
 
「モネが好きで、おっかけのようにさまざまな美術館に行きました。印象派のモネの絵は近くで見ると何を描いているのかよくわかりませんが、遠くから見るとハッとさせられます。私も画風は違いますが、そうした印象を見る人に与えたいですね。日本ではリアルな絵が美しいと言われることもありますが、私はパッと見た時にオーラのある絵を描きたいと思っています。だから、制作中もちょっと離れたところから絵を眺めて理想とする絵になっているかを確認してから仕上げに入っています」
 
 

アマビエがコロナをなだめるという発想で描かれた「北風と太陽 ~シリーズ」


 
 

今後はさらに50号、100号とサイズの大きな絵にチャレンジしたいと話す彼女。コロナ禍の鬱々した時代において、「私の絵を見た人には、私の絵から刺激を受けてご自身の人生に何かを持ち帰ってほしい」と願っている。
 
 

サカグチカオリにとって“アート”とは?


 
「物語を伝える手段。見た人を新しい世界・広い世界に連れて行きたい」

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