本当の姿とは何だろうか。
目に見えているものが全てだろうか。
そのテーマは古今東西永らく問われ続けてきてました。そして現代に生きる私自身も目で見たものが全てだとはどうにも思えません。必ずその視界の裏にもっと大事な可能性が眠ってるはずだと信じてなりません。暗く苦しい今の世界だからこそ、よりその先の可能性を探りたい。
そう考えたのは大学で自殺の研究を始めてからでした。精神的な治療として医療は存在しますが、それだけでは難しく社会構造そのものを見つめ直す学びをしていく過程で、当時から今の人に必要なのはより多くの薬よりもよりしなやかな心の可能性だと思いました。そしてそれに最も近いモノが生み出せるのは芸術しかないと理解し、芸術の世界に飛び込もうと決めました。最初は何もわからず好きなもの心が動くものを描いていましたが、それ以上にするべき事は何かと思い、芸術の本質を観るために絵画の歴史を辿りました。なぜ芸術(絵画)は有るのだろうと。
絵画において人は最初見たままを正確に描き出すことを求め、時代に自分の様々な感情を入れていきました。そして「我思う故に我あり。」とデカルトが言い放った時から自分の感覚に根差した作品になり、その後のセザンヌ、印象派、それからピカソのキュビズムなど革新的な画家達は皆、対象を視覚的な正確さよりもより多面的に多角的に流動的に事物を描きだそうとしていました。ジャコメッティが何度も輪郭線をつぶしたり、フランシスベーコンが人を筋肉の運動に従って融解させるのもしかり。私はその様な絵画の本流を見るうちに、根本的目的の一つとして絵画は人(自然)を目で見た以上の真実(実体)に近づいた描写をする為にあることだと考えました。同時にその行為は新しい可能性と勇気を私に与えてくれることも知りました。
では正確な実体とは何でしょうか。私は実物をより細かく見る為に哲学と科学を見直しました。哲学からは万物が流転し、普遍的な物は無く、人が光の様な開示性をもつこと。そして科学からは生物の構造、量子力学、素粒子学などから物質の本質としてある種の”ひもの振動”が私達の世界全ての構成要素として存在していることを見ました。つまりは固定したものは何も無く、森羅万象は全て振動(動き)によってできているとなりました。
だとすれば今もっとも実体に近い描写をするには”振動”自体を描く必要が有るはずです。
振動は高速に変動を繰り返し常に変化をし続けます。そして量子力学では数値が確定するとその事象自体に部分化が起きてしまい全体が分からなくなるのでわざと数値を確定しないという事をします。
つまり何ひとつとも同じ状態はあり得ません。またそれ自体を「こうだ」と確定することも本来してはならない。振動を見ながら”振動”として描くとそれは振動になり得ないのです。
ですから私は根本から描画方法を変えました。
物事を体験・観察した後、描くときは目を覆って何も見ずに描きます。特に、人間はそれを繰り返して描写していきます。これは私の中で「不観測主義」として成立しました。描くという前提のみを残し、後は物事が確定してしまうのを防ぐためになるべく想いという曖昧な動きから創る為です。
そして物事が私たちの三次元まで推し進める為に三面で同一の対象を描きます。それはフランシスベーコンがトリプティックを多用したのと同じ感覚ですが、日本の文化・言葉として重要な重なった意味を持つ一語というのがあります。同じ音でも意味が何重に重なりながら意味が表徴していきます。その流れを汲むために三面を一つにまとめることにしました。こうする事で一枚に3体がそれぞれの形式をとりながら一つの意味に収束し二次元的絵画は意味の中で立体になりうると思い制作をしています。
またより多くの現実(生活自体)に近づくために最も現前的な素材である段ボールを使います。段ボールは現在どの階級の人々も平等に使用し平等に蔑ろにする素材ではないでしょうか。
この様な人工的普遍性の上に絵を載せることで振動の流動性を際立たせられると考えます。
不観測に関して人間にもこれは当てはめられると感じます。
今は社会と理論に閉じ込められて「こう有るべきだ」という固執が私達には多く絡みついています。ですが本当の姿に近づくにつれてその様なものこそ虚実だと理解すればするほど安寧が訪れると思います。
実像が振動する動きで有る事を示すことは人に流動することを許し、矛盾する自らを許容させることが出来ると確信しています。
【略歴】
1995年
兵庫県生まれる。
2014年
大学にて社会学と哲学を学ぶ。
2018年
就職する。
2019年
絵を描き始める。
【展示等】
2000年
神戸花絵コンクールにて市長賞受賞。
2019年
サロン・ダール・ジャポネ(パリ)に出展。
「グラフィティ・ホーム」にてオンライン展示・販売。
ファッションブランド「ルーム」ではシャツなどのデザインを制作。
また、スマートフォンのデザイン制作。
2020年
プリントフル・ジャパンの商品PRを担当。LGBTQ&ARTマガジン “purple millennium “で紹介。
音楽ユニット “神谷純平 with…” のグラフィックを手がける。
JCAT Online SOLO Exhibition にてオンライン個展。
2021年
東京銀座のART POINT Selection Ⅰ 2021に出展。
Artistcloseupにインタビュー掲載。
オンラインアートストアARTMAN主催3D展示38人の熱き魂に掲載。