私は小さい頃から布団に入ることが恐怖でした。なぜなら、その日にあった嫌なことや、明日が来ることへの不安、夜への本能的な恐れがないまぜになって、自分の頭の中をぐるぐる回るからです。同時に、目を閉じても眠れない代わりに、さまざまな映像が見えていました。ある時は、誰もいない道を車に乗ったように高速で走る映像。ある時は、光の輪や粒が揺らぎながら視界の外へ広がって消える映像。寝つきが悪い私は、それらの映像をずっと見続けていました。映像はいつしか恐れの対象になっていました。
大人になり就職してすぐ、私は心の病気になりました。その時受診した病院で、自分に発達障害の傾向があることがわかりました。感覚が過敏なため不眠になりやすいことや、記憶や思索・想像が止まらないこと、つまり、私が眠るまでの間に起こっていたことは障害のあらわれである、と知りました。
はじめに書いたように、私は夜なかなか眠れないでいて、ネガティブな思考に支配されていました。さらに悪いことに、「嫌な気持ちになるのは私が努力しないからだ」と自分を責めていました。繊細で生きづらいと言っている自分を、認めることができなかったのです。
仕事を辞めて休んでいるうちに、徐々に自分の欠点を許すことができるようになりました。そして生きづらさと深く結びついたあの映像を、絵に描くことを思いつきました。私が夜中に見ている映像は、かつては私にとっての苦悩や不安の象徴でしたが(今でも少しはそうです)、現在は脆さのある自分を客観的に見ることができるものと感じています。
眠る時に見る夢は記憶だと言われています。人が脳に記憶できる容量は無限で、思い出せはしないけれど、すれ違った人の顔も全て記憶しているそうです。感覚が過敏な私にとって、そのインビジブルな記憶はどれほどの刺激になっているかしれません。
今、苦しんだり、悩んだりしている人、自分が気づけないほど傷ついている人達に、私の作品を見てほしいです。私の作品は、不安で眠れない、明日になるのが怖い、そんな心といっしょにあったものです。見て、生きづらさを感じる自分の姿に気づいてあげてください。そして、自分に寄り添い、優しくしてあげてください。自分のことを本当に救えるのは自分自身だけですから。
【略歴】
1988年3月4日
・滋賀県大津市生まれ
2010年3月
・滋賀大学教育学部 芸術表現教育コース 卒業
2012年3月
・滋賀大学大学院 教科教育専攻 美術教育専修 修了
【グループ展】
2022年2月28日〜3月6日
・M.A.D.S.Art gallery「F**KU」企画展
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