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【コラム】相続と絵画

弁護士 金子博人

「絵画は相続財産でないのでしょう」と問われたことが何回かある。「絵画を相続財産からはずしても問題はない」いうことを確認したかったようだ。しかし、答えは、ノーである。他の資産と同じように相続の対象になる。ただ、絵画は、他の財産と違う特殊性があるのも事実である。
絵画を画商から買った場合、後にその買値で画商に買い取ってもらえるわけではない。画商にとり、売る場合は「小売値」であるが、買う場合は「卸値」となるので、後者は当然安くなる。大量に取り引きされるスーパーの商品でも、卸値と小売値の間は最低でも20%は違う。右から左へと売れるわけでない絵画は、40%50%の差がついてもおかしくはないはずだ。その間、広告費や人件費、家賃、光熱費等の経費がかかっているからだ。

人気テレビ番組の「何でも鑑定団」での評価額も小売価格である。ボードには100万円とあっても、実際に売るとなると、その半分くらいになるはずである。

ところで、相続財産の評価は、それを売ったらいくらか、つまり卸価格である。買った値段で申告する必要はないのだ。とはいえ、問題が、更にある。絵画の場合、絵画をいざ売ろうとした場合、画商が買い取ってくれない場合が少なくないのだ。有名画家以外は、簡単には売れないというのが現実である。その結果、税務署が絵画を相続財産として関心を持つのは、事実上、有名画家だけというと言い過ぎかもしれないが、それに近い現実があるのも事実である。
また、有名画家の絵画でも価格評価が難しく、相続税申告に当たっては、税理士さんとよく相談することが重要である。「一号いくら」というような巷評価があっても、それは、通常は売値で、卸値は全く別である。税務署いとっても評価は容易ではないようで、申告の仕方次第で、結果がかなり異なることがあるようだ。

更に、ここで考えてほしいのは、絵画の買い方である。銀座の一階で個展をやっていると、欧米の観光客がひょこっと入ってきて、「これいいね。ほしいのだけど、いくら?」と聞かれ、値段を言うと、想定していた額よりだいぶ高いので、がっかりして帰ってしまうという経験をもつ画家は多いはずだ。
欧米では、絵画を、資産としてでなく、また名前で買うのもなく、自分が気に入って飾りたいから買うという絵画ファンが多数存在するようだ。要するに、目の肥えた本当の愛好家が多数いて、絵画マーケットの裾野が広いのだ。画家も作品を日本よりだいぶ安く売っている。売れる数が多いので、それで、良いのだろう。

日本は、絵を買う人口が少ないし、絵が分かる人が少ない。「美術館に行くのが趣味なのです」という人結構いるが、話しを聞いていると、有名な画家の展覧会だけしかいかないという人が多い。要するに、絵を見る力が無く、有名な作家の絵なら良い絵で、無名では、見る価値が無いと思っているようだ。だが、無名でも、良い絵を描く画家は、いくらでもいる。大事なのは、名前に惑わされずに、絵の善し悪しを見分けられる、目を養うことだ。
欧米で、朝早く美術館にいくと、キュレーターが10人程度の子供達を集めて、絵の説明をしている姿を見た人は多いであろう。このキューレ-ターは、子供達に絵を教える特別の訓練を受けた人たちである。彼等の説明は、子供達におきなインパクトを与えることが出来、る。その結果、自分の目で良い絵を見分けられる人間を増やすことができ、絵画を、資産としてでなく、「自分が気に入って、飾りたいから買う」という、本当の絵画ファンを増やすことが出来るのだろう。それにより、社会がいい絵を描いてくれる画家を育てることもできるはずだ。

日本の教育界は、極めて保守的なので、学校外のキュレーターに子供を預けるということが、容易には出来ない。それ故、このようなかたちで、絵画ファンの裾野を広げることは期待できない。日本では、自助努力で、自分の鑑賞眼を養うしかないのだ。そのためには、先入観を捨てて、さまざまなタイプの、沢山の絵に接するしかない。
そこで、日本でも期待が持てるのは、インターネットでの売買である。画商経由と比べ、さまざまなタイプの絵に、容易に接することが出来る。絵画ファンを増やすことも容易であろう。さらに、資産としてでなく、「絵が気に入きって、飾りたいから買う」という、本来あるべき姿も増えるであろう。

インターネット経由だと、販売コストが節約できるので、売値と買値の格差を、画商経由と比べて小さくすることが出来る。
更に、インターネトで絵の存在を知り、それを画廊で見ることが出来れば、更に良い結果をもたらすであろう。
最後に付け加えれば、絵を買うとき、「これを持っていれば、将来値上がりしますよ」と薦められて、買うというケースもある。確かに、絵画の場合、画家が有名になって、絵の値段が跳ね上がるというケースも無いではない。このときは、税理士に相談し、相続対策が必要となる。しかし、動機がこれだけでは失敗する。このようなケースは稀だからだ。やはり絵画は、「気に入って、飾りたいから買う」ということであってほしいものだ。

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東京弁護士会所属弁護士金子・福山法律事務所
弁護士 金子博人
URL:https://www.kaneko-law-office.jp/

◆略歴
私立聖光学院中学校、高等学校を経て、73年3月早稲田大学法学部卒業、
同大学院修士課程(商法)終了
司法修習生を経て、77年4月弁護士開業

弁護士業を営む傍ら自身も絵画を制作、3年に1度銀座での展覧会を開催。

◆主な出版
「コンピューターと法律問題」(財経詳報社 会社法務 1984・3~1984・12)
「高度情報化社会におけるデータベースの法的保護」(上)(下)(NBLno.343,348)
「倒産事例に学ぶ」(財経詳報社 会社法務 1985・3~1987・4)
「不動産取引の事例」(財経詳報社 会社法務 1987・5~1989・9)
「不動産を売るとき買うとき 法律実務のトラの巻き」(財経詳報社)
「クイズ風営法」(東京法経学院出版部)
「不動産を売るとき買うとき貸すとき-不動産取引に強くなる本」(週間住宅新聞社)
「貸したい人と借りたい人の新借地借家法」(週間住宅新聞社)
「企業再生 倒産回避 民事再生と日本経済の活力」(エルコ)
「搭乗拒否、フライトキャンセル、遅延に関するECレギュレーション(2004)の最近の運用状況とその影響」 (学会誌「空法」第51号2010)
「社長のM&A学」(中央経済社)

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