芸術家といえば強烈な個性を前面に出し「作品については、あなたが自由に解釈を」。こういったスタンスも少なくない。しかし矢吹真琴のコンセプトは、その真逆。「見る人の想いこそ最優先」。その裏にある考えと、人々に届けたい世界観とは。
―どの作品もカラフルな彩りに、思わず目を惹かれます。
はい。どのような方であっても、ひと目見た瞬間、ぱっと陽気な気分になれるようにと。アクリル絵の具を、最大限に活かせる作風を、意識していますね。わざと白を混ぜず、原色のまま塗るなど、ヴィヴィッドカラーを前面に出すことも多いです。
また光の見せ方という点も、かなり考え抜いて描いています。とにかく目にした方が気持ち良くなるデザインと、色使いを心がけています。
―思わずキャンバスを超え、絵の世界に入り込みたくなります。
そう感じてもらえると、たいへん嬉しいです。どの作品もそうなのですが、見た方が思わず持ち帰り、部屋に飾りたくなるような絵を、描きたいと思っています。
ひとくちにアートと言っても、もちろん芸術家によって作風は様々です。ですが人は、やっぱり「きれいだな」「心地いいな」と感じるものを、身近に置きたいじゃないですか。そういう意味では、インテリアを意識している部分が大きいですね。また動物の絵なども、思わず抱き締めたくなるような可愛さを、表現するようにしています。
―作品のタイトルはストレートなものから、哲学を思わせるものもありますね。
ぼくの場合、描きながら様々な閃きや想いが、浮かんできます。基本的にあまり小難しいことは、前面に出したくはないのですが。個人的に哲学が好きなのです。また描いている当時の、ぼくが体験した出来事や人間関係など、様々な要素を加味することもあります。そうしたものを“ぽん”とタイトルにつけることがあるんですね。
見る方にとっては「なぜこのタイトル?」と感じるかも知れません。でも、そうした疑問や憶測も楽しんで頂けたらと、これはちょっとした遊び心でもありますね。
―描く時に、大切にしていることがあれば教えてください。
まずは最初に描きたいと思うイメージや、対象があります。風景画であれば、こんな街や自然に行ってみたいという憧れ。動物であれば、むかし飼っていた動物との想い出であったり。そこを膨らませて行くのですが・・。
ひとたび描き始めたとき、一貫して大切にしているのは「その絵を見た方がどう感じるか」ですね。絵の具も感覚のまま塗るのでなく、ここはこの色にしたから、あちら側はこのような配色にしよう・・そうすれば、より明るく見えると、意図するケースも多いです。
―見る人の想いが最優先。この心情には、何か理由があるのでしょうか。
じつは過去「芸術作品はすぐに解釈できない方が、箔がつく」といったアドバイスを、頂いたこともありました。しかし・・ぼくもこれまで、色々な絵を目にしてきましたが、最後までよく理解できない作品もありました。
それが良い・悪いという話ではありません。ただぼくであれば、そのような作品を、あまり身近には置く気はしないと思ったのです。冒頭にも触れましたが、見た方が思わず部屋に飾りたくなる絵を、描きたい。
もう一つ、ぼくは若かりし頃に病気をした関係などから、有名な先生に師事したり、芸術系の学校を出たといった経歴がないのです。幼少から、生粋のアーティストだったわけではないんですね。
しかし、そのことが「絶対にこう表現する」という我の強さよりも「見た方がどのような印象を受けるか」を、意識するきっかけとなっている面があるかも知れません。
また前述の理由から、あまり海外を旅した経験も少ないのです。しかし逆に、その分まだ見ぬ異国への、恋焦がれるような憧れが募ります。その想いの強さが、作品を豊かにしている部分は、確実にあると思います。
―どの作品も“熟練”のクオリティを感じます。絵以外でも、何か創作活動に携わっていたのですか。
よく尋ねられるのですが、30代以前はまったく、アートを手がけたことはありませんでした。ただ、いま振り返れば感受性の強さは、人並み外れていたように思います。
たとえばゴッホの絵を、教科書やTVで目にしただけで「人間ワザと思えない」と、強い感銘を受けました。映画や音楽の世界に、我をわすれて没入したりと、特異な部分もありました。
そうしたこともあってでしょうか。手前味噌みたいになってしまいますが、絵に携わっている他者からの言葉を、そのまま言いますと「2~3年で、この領域に達するなんて、信じられない」といった評価を頂きました。
それから、いま使っているアクリル絵の具には抜群の相性を感じており、アクリル画と出会えたことも、非常に大きいと感じています。ぼくの憧れは、ゴッホやモネ、あるいはルノワールといった印象派の画家たちなので、今もそうなのですが、この先もそのようなアートスタイルを意識して、描いて行きたいと思っています。
―ありがとうございます。最後に今後の展望や、メッセージがあればお願いします。
現在、地元の千葉県立美術館で個展を予定するなど、リアルな活動に関しては、あるていど範囲を限定しています。
ですが、ゆくゆくはお隣の東京、そこからさらに海外の方にも見て頂きたく、活動の場を広げたいと思っています。
何よりはいまの世の中、窮屈な縛りや、憂うつになるような出来事も少なくありません。でも、だからこそ余計に、この世界をセピア色や単色から、色鮮やかなヴィヴィッドカラーに。
ぼくの絵を見て、是非ひとりでも多くの方が、そのような心の変化を感じて頂けたら幸いです。