日本文化を継承するアート販売Webメディア

Interview: 冨山竜一

詩でイメージを作り、絵で表現する。
必要なものは「人間性」

 

“ 描けない自分を知っている „

絵を描こうと画材を目の前にしても、描けない。そんな状態が10年続きました。
大学を卒業し一般企業に就職しましたが、絵を描きたい気持ちはずっと残っていたんです。
描けなかった10年に終止符を打ち、「画家と会社員、二足の草鞋を本気で履く」と決意するきっかけとなったのは、妻との再会でした。
絵を描けていた頃の僕を知っている妻は、描けない僕に対して「描いてよ」と言ってくれて。そこで妻への想いをテーマに『夏の想い』という作品を描きました。
 
『夏の想い』は当時の僕にしてはめずらしく、明るい色をのせています。学生の頃は、凹凸や黒だけで表現する暗い色の作品が多かったので、新鮮でしたね。自分の中で「こういうのもありだな」と気が付きました。
「これも自分が作った作品なんだ」と、この絵をきっかけに絵が描けるようになりました。
 
僕が絵を描き続けられた理由として、「10年間、絵が描けなかった自分を知っている」というのは大きいですね。
絵を描くことを止めてしまえば、描けなくなってしまう。
そんな自分を知っているから、描き続けることができたのだと思います。
 
僕は作品を作る前に、詩を書きます。
ドローイングするかのように描きたいイメージを詩にまとめて、実際の絵に落とし込む感覚です。
詩の言葉をそのまま絵で表現する訳ではないのですが、表現したいもののイメージをまとめるためには必要な作業で、ルーティンの一つになっていますね。
 
学生の頃、ゼミの先生に「1つの作品に対して100の質問がきたら、101返せるように」と叩きこまれたんです。僕の根底には、その言葉が常に存在しています。
作品のコンセプトを決めないと、漠然とした絵になってしまう。ただ気持ちよく描いた絵になってしまう。僕の中ではそれが怖いんですよね。
 
 
 

“ アートも仕事も、すべて「人」 „

気になった言葉やフレーズをメモしておいて、あとからそれを読み返すことがあります。
その中に「アートマン」という言葉があって、意味は「真の自分」。自我よりも、もっと深くにある”本当の自分”みたいな感覚ですね。
この「アートマン」という言葉をテーマに詩を書いたとき、思い浮かんだのはライオンでした。
 
 


 
 
「強さの象徴」であるライオン。でも、強さの裏側には弱さがある。
僕はライオンに対して「孤独で滑稽」「悲しみ」のイメージがありました。
それまで一度もライオンを描いたことはなかったのですが、描いてみたらなかなか良くて。一時期はライオンばかり描いていました。
絵を見に来てくれた方に、SNSで「ライオン作家」と言われたこともありましたね(笑)
こうした鑑賞者のリアクションも、僕が絵を描き続けていくための大事な要素でもあります。
絵を見て泣いてくれる人、「救われました」と言ってくれる人、僕の絵を好きだと言ってくれる人。
絵に対して反応してくれる人がいて、そこで初めてアートが成立すると思うんです。
そこに “ 人 ” がいないと成立しない。それは、組織の中で働く「会社員の仕事」も同じことだと思います。
 
会社員として組織の中で働いていると、いろいろなことがあります。絵を描いていても辛いことはあるし、「描きたくない」と思うときもあります。
でも、どちらもその先には何かしらの意義がある。得られるものがある。
その点では、会社員として働く姿勢とアートに向かう姿勢は、リンクするものがあると感じています。
 
 
 
 

“ 生み出すこと、受け入れること „

ライオンをモチーフにした『shout and rest』という作品があります。
以前、「叫ぶ」をテーマにして、ライオンが口を大きく開けている作品を描いたのですが、今回は対照的に、口をぐっと閉じて「落ち着け」をテーマに描きました。
 
 


 
 
口を閉じて、落ち着く。
叫ぶことは大切です。叫ばないと、病気になってしまう。
ただ、叫びっぱなしは絶対だめだ。傷つけてしまう。
「叫んでもいいから落ち着け」と、世の中のどうにもならない問題を目の当たりにして感じたことでした。
こうしてコンセプトを考えて絵を描いていると、「すべて自分の中から生み出されるものだ」と実感しますね。いくらコンセプトが素晴らしくても、作品を作り出す自分自身の人間性が追いついていなければ、その程度の作品になってしまいます。
 
とある雑誌で「花は香り、人は人柄」という言葉を目にしたとき、まさに自分が絵を描くための言葉だと感じました。会社というのは、自分自身を高める場所でもあると考えています。会社勤めを通して学んだことは僕自身に蓄積されていく訳で、それがあるからこそ絵を描き続けることができたのかもしれません。
 
僕にとってアートとは「受け入れること」です。「受け入れること」とは「愛」だと思うんです。
僕が受け入れたものを、絵で表現する。それを見た人が受け入れてくれたとき、また新しいものが生まれる。そこにアートとして存在することで、絵が勝手に応えてくれるんですよね。
 
みんな、いろいろな想いを抱えて生きている。それを言葉にすると長すぎたり、上手く伝わらなかったり。
それをアートとして表現することが、僕の「愛」でもあります。

戻る