デザイン書道家としてロゴやアイコンなどの制作を請け負うsuzurimaさん。はじめて筆を取った3歳の頃から常に書道とともに歩み、小学校の頃から数々の賞を受賞、大学卒業時には芸術部門成績優秀者として表彰され、卒業後も公募展などで受賞を重ねるなどその確かな実力が評価され続けているが、書道で生計を立てようと決意したのは数年前だという。
「大学の専攻は書道文学科を選び書道についての学びを深めましたが、やはり書道で生計を立てていくことは難しく、多くの卒業生が書道とは関わりのない職種へ就職していきます。その例に漏れず、私も大学卒業後は百貨店の販売員として就職しました。そこを1年ほど勤めた後は色々な職種を転々としており、その経験の中で、自分には外に出て働くことが向いてないのではと考え始め、書道を仕事に生かそうと動き始めました。」
「最初はココナラというプラットフォームに登録したのですが、やはり実績がない中だと依頼も来ないため、前衛書という文字を大胆に崩した独創的な書法をロゴデザインへ活用したり、文字に加えて墨絵を描いたりと”書道×デザイン”を武器にすることにしました。数ヶ月後には徐々に依頼も増えてきて、本業よりも収入が上回った段階でデザイン書道家として自立することを決めました。」
書道で生計を立てることの難しさを痛感しながらも、自身の強みを見極めて武器を見出し、自ら道を切り拓いていく姿勢に尊敬の念を抱く。現在は依頼に対する制作活動に専念しているとのことで、作品を制作する上で大切にしていることも聞いてみた。
「依頼をもらったら、まずは依頼主に対して『入れたいモチーフはあるか』『どのようなイメージが近いか』などを丁寧にヒアリングすることを大切にしています。あくまで依頼に対しての納品になるので、作品の雰囲気や字形はひとつひとつ表現を工夫してイメージに沿うように制作しています。」
suzurimaさんが初めて筆を取ったのはなんと3歳の頃。親族が習字教室の先生をしていたことがきっかけだというが、意外にも当時は文字を書くことが好きという気持ちはあまりなかったのだという。
「当時は正直イヤイヤでしたね…。そもそも外に出るのがあまり得意ではなく、幼稚園ですら泣きながら通っていたような子どもで、習字も同じく泣きながら通っていました(笑)でも作品を書けば賞がもらえるという経験を重ねていくうちに、賞をもらうことそのものが段々とモチベーションになっていきました。小学校の頃には、出品する賞の前年度の作品を観察しては『こういうのが受けるのか』と分析して構成を寄せたりもするようになっていましたね。ある種ゲーム感覚に近かったように思います。」
賞状ホルダーがいっぱいになるほど幼少期から確かな実力を発揮していたsuzurimaさんだが、その高い分析力こそが彼女の強みであることは間違いないだろう。
「大学は書道を得意とする人たちばかりが集まる環境だったので、その中で突出するにはどうしたらいいだろうかと考えて前衛書に挑戦してアートフェスティバルに出品したりもしていました。それもあってか、卒業時には芸術部門成績優秀者として表彰してもらいました。」
書道とともに人生を歩んできたsuzurimaさんにとって、書道の魅力とはなんだろうか。
「改めて言語化しようとすると難しいですが、線の引き方ひとつ取っても様々な表現の仕方があるところは奥深く面白いなと思います。構成や字形など書道家の数だけこだわりも違うと思うのですが、私は特に線の質感にこだわっていて、道具もイメージ通りの線が引けるものを選んでおり、線のかすれ具合をどう表現に取り入れるかなどを考えるのが好きですね。」
作品ごとに作風や雰囲気も大きく異なるsuzurimaさんだが、中でも『自分らしいと感じる作品』を選んでもらった。
「『無』という文字をベースに制作したロゴデザインと、『薫』という文字をベースに制作した商品パッケージデザインでしょうか。共に前衛書をデザインへ転用した作品で、同じ文字を構成や雰囲気をガラッと変えて数パターン提案するというスタイルで制作しています。あえて墨を跳ねさせたり、その跳ねた墨をいかして構成を考えたり、偶然性を取り入れながら自由度の高い制作ができるのはやはり楽しいです。自身のこだわりである線のかすれなどもうまく表現できたなと感じています。」
今後も書道を軸とした活動を続けていく上で、自主作品についての思いも語ってくれた。
「今は子育てもしながらなので制作活動に専念できるのは深夜の時間帯で、公募展などへの出品も時間的・経済的なことを考えるとなかなか厳しいですが、それでもどこかでずっとアーティストへの憧れみたいなものは抱き続けています。自分が作りたい作品を作り、それがどこかの誰かに気に入ってもらえるってすごいことじゃないですか。書道というジャンルは芸術の中でも特に難しい面はあると思うのですが、日本橋アートさんのようなプラットフォームを通じて、多くの人に作品を知ってもらえたら嬉しいです。」
2人の子どもを育てる忙しい日々の中でも精力的に制作活動に打ち込み成長を続けるsuzurimaさんが、今後どのような作品を生み出していくのか楽しみでならない。