Interview: 外田千賀

絵に優しい光を宿らせる。心の琴線に触れる存在になるように。
ファンタジーな画風で少女を描く、外田千賀。

外田さんの描く、“観る人をそっと見守ってくれるような空想の少女”は、どのようにして生まれたのだろう。
 
 

「10代の頃から様々なアートに触れる中で、幻想画家の七戸優さんの画集は印象に残っています。やや暗鬱で不思議な魅力のある世界観なのですが、その影響もあり、私の初期の作品は暗めなものが多かったように思います。

その後、芸大で油絵と版画を、大学院では美術解剖学を専攻し、人体や自然の美について学びました。仏像についても学び、観音菩薩などの象徴的な存在や、アルフォンス・ミュシャの描く、優美な女性像などに惹かれ、少女を描くようになりました。

大人の女性ではなく少女を描いているのは、私が子どもらしい表情に癒やしを感じるからでしょうか。わが子のふっくらとした頬や長いまつ毛に、『ああ、かわいいなぁ』と心和らぐ瞬間があります。そういった幼い子どものもつ“癒やし”と、イコンのように見守る“雅量”を併せもった少女を、現代的な親しみやすいタッチで描いています。」

 
 

『聖なる樹』2021年
クリスマスをモチーフに描かれた、遊び心のある作品
ツリーの形が、仏さまの光背のようにも見える


 
 
外田さんの描く少女は、すべて空想上の存在だ。現実の人物を観察した上で、デフォルメしながら描き出されていく。
 
 
「顔には時間を一番費やします。自分はどんな顔貌や表情、光の当たり方などに惹かれるのかなと、色々試しながら描くのですが、ちょっとしたきっかけで『なんか違うな』と思ったり、『かわいくなってきた』と嬉しくなったり。その紙一重の調節をしている過程に、面白さや楽しさを感じています。

ファンタジーの子を描くからこそ、まずは現実の人物をよく観察することが大切だと感じます。」

 
 

『トワイライト・ファンタジア』2020年
頬のかすかな丸みと、やわらかい肌質に幼さが残る
髪や目の色から東洋人の特徴を感じるが、西洋的な雰囲気も併せもっている


 
 
初期の作品に、今ほどの存在感を持つ背景は描かれていなかった。絵に立体感や奥行きを出すために、観察を通して気付いた色の使い方とは。
 
 

「作品に“奥行き”を求められていることはわかっていたのですが、最初の頃は少女を描くことに手一杯で、背景にまであまり手が回りませんでした。
でも、デッサンを通して光を意識し、色の変化をよく見ることで、総合的な画面の構成がわかってきて、少女だけでなく背景も含めて描けるようになりました。

というのも、もともと、やや渋めの柔らかい色彩の絵が好きでしたが、立体感や奥行きを描こうとすると、色の柔らかさが壊れてしまっていたんですね。
でも、光や影も、単に白と黒の絵の具で描こうとするとそうなりますが、よくモチーフを観察するうちに光や影の中にも色彩が見えてきて、それらが稜線を作りながら、なめらかにつながっているのが分かるようになってきたんです。」

 
 

『法と掟の女神テミス』2016年
文様のように描かれた背景が、平面的なデザインとして見えてくる


 
 
光と影の繊細な色の変化を大切にしたい。その想いに応えてくれる画材と出会い、絵の中の世界は豊かに広がり、輝いていく。
 
 

「単にモチーフ(物質)そのものが美しいのでなく、光が当たって反射して、影の中も色彩豊かになっている、そんな空間(現象)が美しいと感じるんです。

それを絵に表したくて、色味の繊細な変化を求めていくうちに、「アキーラ」というアキルド樹脂絵の具に出会いました。アキーラは、油絵の具とアクリル絵の具の良いところを合わせたような画材で、今の自分の制作スタイルに合っていました。

絵の具に遅乾剤(リターダー)を混ぜて、色の乾燥を遅らせながら作り上げた色を幾重にも重ねて、形を描いていきます。密度のある色彩豊かなグラデーションを作ることで、絵の色彩を大切にしながら、立体感や奥行きを表現できるようになりました。

特に、2021年に発表した【早春のアルテミス】では、月の光を主題にしながら、手前の花、少女とドレス、奥の空にかけての流れるような空間構成が、バランスよく描けたと思います。作品を観てくださったお客様からもご好評をいただきました。
こうして求められていることに応じていき、喜んでもらえる作品が描けると嬉しいですね。

 
 

『早春のアルテミス』2021年
晴々とした空の上で、月に腰掛けながら微笑む少女が印象的な、春の風を感じる作品


 
 
光をもたらす作品作りのヒントは身近なところで見つかる。生活そのものがアート活動の一環になる楽しさを感じながら、日々制作を続けていると言う。
 
 

「光がどう当たるとどんな影ができるかは、自分でポーズを取ったり、ドールを参考にしたりもしますが、普段の生活の中でもよく観察していますね。

他にも、子どもと遊ぶ中で見つけるものや、土地柄、自然豊かな四季の景色が楽しめるので、『次はどんなものを絵に取り入れようかな』とアンテナを張りながら過ごしています。日常の中にもヒントが散りばめられていて、生活のすべてが作品作りとつながっているのかもしれません。

光が作る美しさを少女のいる世界にそっと宿すように、一筆一筆、今日も描いていきたいです。」

 
 
作品に求められているものを感じ取り、表現していくその姿勢には、外田さんの思う “アートの意義”が隠されていた。

「絵以外にも、何かに対して『美しいな』『面白いな』とか、ちょっとしたものに心を動かされることこそが、アートのもつ機能と同じ役割を果たしている訳で。
そういった端緒になればいいな、と願いながら、私は絵を描いています。

好きなように描いていくだけでは、社会の中でアーティストとしての役割は十分ではありません。私にとって絵を描くことは癒やしですが、“描いていくこと”は自分だけの問題ではないと考えています。

作品を楽しみに待ってくれている人、描く時間を与えてくれる人、絵を発表する場を設けてくれる人、そこにはたくさんの人の“想い”があります。
これまでも、その時々でご縁のあったたくさんの方のおかげで、10年と少しの間描き続けてこられました。ですから、自分の作品というのも自分一人で作っているのではなく、そういった関わりの中で育まれてきたものだと思うのです。

アートのある暮らしで周りの人たちと幸せに過ごせるように、自分の表現したいものと求められているものをうまくすり合わせながら、これからも続けていけたらいいですね。」

 
 
外田千賀にとって“アート”とは?


 
「関わる人たちの想いが優しい光となって、人に幸せをもたらす連鎖」

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