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Interview: はちのたしょう

表現欲求を絶やさず、「いのちのいろ」を描く

 
 

“ 人生を見つめなおし、“自分がやりたい表現”の存在に気付いた „

 
 
―“ピクチャーメイカー”として現在も精力的に数々の作品を発表されているはちのたさんですが、元々はどのような経緯で作家を志したのでしょうか。
 
「私の祖父が画家、父がデザイナーだったので、小さいころから絵を描いたり、廃材で何かを工作したりというのは日常的なことでした。中学3年生の時に父に『将来は何になりたいか』と尋ねられ、自然と父と同じデザイナーと答えていました。その後デザイナーになるための予備校や専門学校に通い、造形表現の世界にのめりこみます。
 
はじめは思うようにいかず、悔しくて悔しくてしょうがない日々が続き、でもその悔しさがいつかは楽しさに変わっていきました。特に“色彩表現”の魅力にとりつかれていましたね。」
 
―元々はデザインの仕事から始められたということですが、現在のような絵画作品の制作をするようになったきっかけは何だったのでしょうか。
 
「デザイン業は今も独立してやっていますが、10年ほど広告制作会社で主に写真ビジュアルを扱う経験をするうちに、その仕事を楽しんでいる一方である種のジレンマも抱えるようになっていきました。デザインはいわば“お客様のための表現”ですが、どうもそれとは別に、自分がやりたい表現というのが自分の中にある、と漠然と感じていたんです。
 
そして、今のような作品を発表するようになった一番のきっかけには家庭環境の変化があると思います。私には子どもが3人いますが、2番目の子に障がいがあることが分かった時、改めて自分の生き方を振り返り、またこれからの人生のことを考えました。それまでは業界柄、朝から晩まで働きづめの毎日でしたが、自分の家族を蔑ろにしてまでそんな働き方を続けなければいけないのかと自問自答しました。
 
それに、いまの生活スタイルを続けて子ども達に何か残せることはあるのだろうかと考えたときに、自分の中にまだ残っている表現欲求があることを確信しました。」
 
 

 
 

“ 自然物への感動を色彩で表現する『いのちのいろ』
 „

 
 
―作品の中心となっているテーマは何ですか。
 
「これまで個展を複数回していますが、その全てのテーマとなっているのが『いのちのいろ』です。『いのちのいろ』というのは、生きていることや生きものへの愛、幸せに暮らすこと、豊かさ…そういったものをイメージして私が考えた言葉です。」
 
―なぜ『いのちのいろ』をテーマにしようと思ったのでしょうか?
 
「原体験は予備校生の時にまで遡ります。その頃から私は色彩表現にはまっていて、特に生き物や植物のような自然物を描いているときにそこから見えてくる“色”の美しさを感じていました。それは必ずしも目に見えているそのままの色ではなくて、表現しようと頑張っているときに対象物から全く異なる色が見えてきて感動するのです。色だけでなく、例えばクジラの背や体表面に着生するフジツボを見ているとそれが宇宙空間のように見えてきて、ミクロの中にマクロを感じるのが面白いなぁと思ったり。私の思う“豊かさ”とはそういう風に、何かを見て自分なりに感動したり、生きていて幸せだと感じることで、それを画面に表現したいと思っています。」
 
 

 
 

“ 画材や媒体をこだわり抜き、より良い表現方法の追求へ „

 
 
―確かに、作品を拝見していると淡くも力強い色の表現が目を引きます。どのような画材を使っているのですか。
 
「様々な画材を組み合わせて描いています。日本画に使われる岩絵具や、絵の具の発色成分である顔料(ピグメント)、アクリル絵具やメディウム、金箔・銀箔などです。また支持体についても、木枠を作るところからやっていて、その上にキャンバスや寒冷紗を敷いて描いています。
 
ちなみに画材は制作工程でのやり直しがきくように選んでいます。本来日本画は油絵とは違って一発勝負の画材だと思うのですが、自分は試行錯誤しながら描いていくことが性に合っているので。」
 
―画材選びにもたくさんのこだわりが詰まっているのですね。特に、多くの作品に入っている金箔は印象的です。
 
「金箔を使っているのは、やはり日本人なので和の印象を入れたいと思ったからです。いくつかの作品では、金箔を地として、そこに白い雲のような形が浮かび上がるようにしているものがあります。そこで雲の形の隙間に地の色として見えている金が、イラストレーションの表現でよくある『キラキラ』のようにも見えて、少しポップな印象を与えるかもしれません。そこは確定的な表現ではなくあえて曖昧にしていますけども。」
 
―特に思い入れの強い作品はありますか。
 
「『鯨』と、カバを描いた『日向ぼっこ』でしょうか。どちらも100号サイズの大型で個展の顔になった作品ですが、ここから自分の作品がさらに展開していったような、転換点となった感覚があります。これらの作品以降、より一層モチーフに合う色の表現とイメージから来る表現を一番大事にするようになりました。
 
また、これらの作品を見た方から『目に対する執着がすごい』と感想をいただきました。言われてみて気付いた部分ではあるのですが、今では尚更、生き物としての感情が乗るように、目の表現はこだわっています。」
 
―作家としての今後の展望はありますか。
 
「絵画として表現している世界を元に、違う媒体の作品を制作したいですね。例えばジークレー(複製画)、布にプリントした作品、アニメーション、音や言葉で作品を表現する、といったことです。そこはデザイナーとして培った経験が活かせるところでもありますから。様々な媒体で表現した作品群で、ひとつの展示空間が作れたら…と想像しています。自分の表現したいことを、より深く理解してもらえるような表現方法を探っていきたいです。」
 
 

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