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Interview: 中田晋一

日本画家であり造形作家だからこその表現で「光」をテーマに美しさを追求

日本画家・造形作家として活動している中田晋一さん。独立行政法人造幣局が開催する「国際コイン・デザイン・コンペティション2020」では、最優秀賞を受賞。受賞作品は『危機の終息から希望の未来へ』。同賞の受賞は2010年に引き続き2回目で、二度の受賞はアジア人初という快挙だ。
 
 

「国際コイン・デザイン・コンペティション2020」で最優秀賞を受賞した『危機の終息から希望の未来へ』表

 
 

「国際コイン・デザイン・コンペティション2020」で最優秀賞を受賞した『危機の終息から希望の未来へ』裏


 
 
「2010年は、小惑星探査機はやぶさの地球帰還に感動し、偉業を称えたいと制作しました。今回はコロナの終息を願い、表面にはアマビエがコロナウイルスを撃退している様子、反対側には明るい未来をイメージしました。イメージが浮かぶと、デザインは一気に頭に降りてきましたね。コインは、直径3センチ・厚さ2ミリの実物を想定してつくります。第二次審査では、内径12センチの石膏原版に図案を彫って提出するのですが、文字は小さいものだと1ミリほど。石膏原版の厚さが1.4ミリしかないので細かい凹凸を彫るのも、大変でしたね。でも、二度も最優秀賞をとれるとは思わなかったので、嬉しかったです。」
 
 
中田さんのコインは、アマビエのうろこやウイルスの突起一つひとつまで丁寧につくられている。2010年には、日本画と立体やレリーフという異なる分野で作品をつくり続けている中田さんだからこその表現も、評価された。
 
 
「日本画は色をぼかしたり滲ませたりしますが、立体は形をくっきりと表します。2010年の受賞作品は、はやぶさが燃え尽きる様子を細い火花で表現しました。日本画の経験があるからこそのテイストを評価してもらえました。元々いろいろなことをやりたくて、壁画や天井画を描く手伝いをしたこともあります。そのため日本画を描く際にも、おのずと立体の感覚を持ちながら描いているので、私の絵を見た方から『浮き上がって見える』とおっしゃっていただいたこともあるんですよ。」
 
 
 

“ 対象が持つ本質をとらえ技法を凝らして伝える „

 
中田さんの一番古い記憶は、自宅の壁にクレヨンで逆さまの顔を描いたこと。それを見た母親は怒ることなく、「顔描いたんだ」と嬉しそうに言ったという。あの時叱られなかったことで、中田さんの絵画への思いは潰えることなく、物心ついてからずっと絵を描くようになった。
 
 
「小学4年生の時に日本画家・星野眞吾先生の絵画教室に通い始めました。当時は水彩画や粘土で作品をつくっていたのですが、『大きくなっても絵を描くのが好きならアトリエに習いにおいで』と誘われたんです。大学進学を考えた際に星野先生の元で日本画を習い、日本画科に進むことを決めました。日本画は岩絵具を使うのですが、色がとてもきれいなんですよ。しかも同じ色でも粒子の大きさが1番から13番まであり、どれを使うかで色が違ってきます。組み合わせ次第で表現が変わってくるので、飽きませんね。ずっと考えながらつくるのが、とても楽しいです。」
 
 
最近では「光」をテーマに作品を制作している。迫力のある手筒花火や繊細な線香花火など、中田さんが描く花火は多彩な表情を見せる。建物や人物と組み合わさった花火の絵は、物語性を感じさせる。なぜ光をテーマに選んだのだろうか。

 
 
「光の生命力や美しさを人に届けたい、と考えています。私が生まれた愛知県豊橋市は手筒花火の発祥地と言われています。神社に奉納される手筒花火を、私は子供の頃から見ていました。花火には止まっている瞬間がありません。短い時間に開いて消えていきます。絵も一瞬ですが、時間をそこに込められたらと思って制作しています。」
 
 

手筒花火の迫力が伝わってくる「清炎」


 
 
手筒花火を描く際は、神社での奉納に立ち合い、スケッチをして写真も撮影。それを元に制作した。さらには、技法にも工夫を凝らしている。
 
 
「対象の持っている性質をどう表現しようかと考え、例えば強く光る花火を描くために、あえて黒を強調することもあります。手筒花火を描く時は、その勢いを画面に定着させようと、筆を振って岩絵具を散らしています。線香花火の場合は、紙に垂らした岩絵具に管で息を吹きかけて細かく火花が散る様子を表現しています。花火には厄除けの意味もありますが、コロナウイルスによって花火大会や奉納の多くが中止になりました。絵なら密になりません。今は収束してほしいという思いを込めて絵を描いています。手筒花火は10メートル以上火花が上がるんですよ。いつか、その大きさで手筒花火を描いてみたい。それが夢ですね。」
 
 

「昇華」。東日本大震災で亡くなった方への鎮魂の思いが込められている


 
 
中田さんが常々考えているのは、「美しさとは何だろう」ということ。これからも美しさを探求し続けながら、人の心に長く残る作品を生み出したいと語る。
 
 
 
 
中田晋一にとって“アート”とは?


 

「生きることと同じこと。なければ生きていけないもの。」
 
 
 
 
2021年12月2日~12月16日まで、目黒雅叙園にて開催される「FIDEM TOKYO 2020 国際メダル展」にて、「国際コイン・デザイン・コンペティション2020」で最優秀賞を受賞した中田晋一さんの作品が展示される。
 
 

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