「物心ついた頃から、気がついたら絵を書いていました。何も考えず、キャラクターを自宅の柱に描いていましたね。私にとって取り組んでいるすべてのことに仕事であるか、趣味であるかの区別はありません。小さい頃から物事の本質を考えることに興味がありました。探求をするのが好きだと感じています。絵描きになると決断したのもかなり幼い頃です。当時の自分が”絵といえば”と連想していた漫画を描く人になりたいと考えていました。みんなに夢を与える、手塚治虫さんのような漫画家になりたいと。その後、学校生活を送りながらさまざまな絵や画家に出会います。レオナルドダビンチやクロード・モネ、ラファエロ、ゲルハルト・リヒターなどを知り、いずれにも影響を受けました。特にリヒターの作品を見たときには、これこそが自分の作品そのものだと思いました。」
物事の本質を問い、革新をつくように世界を見つけている蘇畑さん。感銘を受けたアーティストも人一倍多いようで、数々の出会いを紹介してくれた。
「小中学校の頃の美術の授業で、うまく描くことに対して疑問を持つようになりました。モチーフがあって、モチーフを真似をして描くような授業内容を”写真でもできるんじゃないか”と感じたんです。そっくり描いた絵がいい絵なのかと悩みました。デッサンの上手いか下手かの技術の高さを評価されていることに反発をしたのですが、しかし、絵とは何かを自問したときに、その当時はまだ答えを出すことができませんでした。高校生の時には、ビートルズに出会います。自由に創作するということをテーマにしたいと考えるようになったきっかけです。どんな人でも上手いか下手か方にはまった表現であるかなどを飛び出して、自由に創作できるようになったらなと思っています」
「毎回毎回作品を創作する中で、新しい感動が生まれています。”うまくいかなかったな””この表現はよかったな”と思うことはありますが、創作という行いそのものは優劣をつけることができません。思い出の1枚を1つに絞ることはないですね。 私の作品にはモチーフはなく、何もないところから作品が出来上がっていきます。真っ白な紙を使用して無から有ができていく感じを表現している点はモチーフを扱う他の作家さんとの大きな違いかもしれません。まっさらな紙からスタートし、描いている途中にどんどん変わっていくことへの歓喜を表現します。毎回新しく、二度と描くことができない作品を生み出していきます。作品の中にモチーフという存在があるアートが一般的ですが、私は作品そのものが存在としてあるアートを制作しています」
その場で生まれるものを繊細に掬い取り、作品そのものを存在とするアートを発表する蘇畑さん。創作中には想像も出来ないような独自の世界観を広げていかれるのだろう。
「画材は、環境に害を与えないことを基準に選んでいます。水彩絵の具と和紙を使用し制作していて、絵の具は長野県の「まっち」という会社さんの絵の具を、スクイージーを使用して和紙にのせていきます。はじめは黒く塗りつぶし、その後に三原色をのせ、最後により物質的な表現を加えていくのが一般的な流れです。作品を表現していく中で、色を扱っていく瞬間にはものすごい驚きや喜びがあります。その感動を、見てくださる他の人にも共有したいです。そして私の作品を見ていただいたことで、元気になったり、生きていることや存在していることに対し感謝ができたり、素晴らしさやありがたさを感じてもらえたら嬉しいと思っています。私はそれらのことを”尊厳”と呼んでおり、”尊厳アーティスト”として活躍しています」
「特に強く影響を受けたのが、韓国の哲学者のノ・ジェスさんです。発表されている本質に関する定義は、私の”本質とは何か”という問いに明確な答えを出すサポートとなってくれました。 本質や存在について深く考えるようになったきっかけだと思っています。”いい絵とは何か”という問いには、近年自分なりの答えが出ました。この風景を描きたいな、この人美しいなと思う対象に対して、感動をし、描きたいという動機が生まれます。それを作品に表現して、鑑賞者に観て、感じてもらう。この1連の流れができる絵を、私はいい絵だと考えています。そしてこのような作品が増えることで、アート業界は豊かになるのではないかと考えています」
蘇畑さんの考えるいい絵たちは、アート市場だけでなく、社会を豊かにしてくれる力も持つと蘇畑さんは考えられている。心を揺さぶり、感性に問い、尊厳を届けることで、よりよい社会を作ることにつながるというお考えだ。社会の変化と物事の本質を見つける蘇畑さんは、続けて次のように語った。
「未来のアートを見つめるときに、アーティストたちは自分の才能にしか頼ることができないなかで、物質や利益にこだわる創作を続けていては行き詰まってしまうのではないかと考えました。この壁を突破するには、今までの表現を一度壊す必要があると感じます。私の思考は作品の説明でしかありません。あくまで作品がメインと考えているため、ぜひ多くの読者の方に、私の作品を見ていただけましたら幸いです。」