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燃える好奇心 日米をまたぐ新進気鋭の若手作家

 

“ 絵本から描くことに目覚め、アメリカのアートスクールへ „

—Ryuさんは現在15才にして既に何度か展示の経験があったりと、精力的に作家活動をされていますね。元々は、どのようなきっかけで絵を描き始めたのでしょうか?

「物心が付いた時から自然と絵は描いてました。特に、小さい頃に母が沢山の絵本を読んでくれたことの影響は大きいかもしれません。たとえば私はShaun Tanの“Rules of Summer”という絵本が大好きでした。子どもの視点から見た夏休みを描いた絵本ですが、内容が面白いのはもちろんのこと、オイルパステルと油絵具で描かれた挿絵が綺麗で、自分もこんな絵を描いてみたいと触発されたんです。家のプリンターに置いてあるコピー用紙を取ってきて、空想の生き物を線で描くようなところから私の創作は始まりました。」

—その頃から描くことへの情熱を絶やさぬまま、現在はアメリカのアートスクールに通われているということですね。

「絵を描き続けたい、勉強して知見を広げたいという思いが強かったので、中学校から芸術の分野へ進むことを決めました。親の仕事の都合で生後間もない頃にアメリカに渡り、2019年から2023年までは日本に住んでいましたが、現在はまたアメリカに戻っているのでこちらの総合芸術中学・高等学校(ヴィジュアルアーツ学部)に通っています。」

—アートスクールに通い始めて、作品を展示する経験を得たということでしょうか。

「実は私の初めての個展は、日本在住時に在籍していた『アルケミストプログラム』で経験させてもらいました。アルケミストプログラムはパナソニックのクリエイティブミュージアム 『AkeruE (アケルエ)』が主宰する、ものづくりを通じて探求心を育むための教育プログラムです。私が好きな爬虫類や動物を描いた作品など、複数の作品を出展して多くの方に鑑賞・ご購入いただきました。

現在通っているアートスクールでも、作品を発表するイベントが定期的に催されています。例えば、学内オークションのイベントがあり、先日私も出品をして落札されました。今冬にあるマーケットイベントでは個人のブースを出展するつもりです。

展示会では、周りの方から作品に対して私自身が思ってもいない感想を頂くことで、新たな気付きを得て視野が広がる喜びを感じます。学内外でそういった経験を積み重ねると、どのような人がどのような絵を求めるのかを学べると思っています。」
 
 

  Lizard dance(2023)


 
 

“ 子どもが感じる現代社会のノイズをテーマに „

—現在の制作で、何か中心となるテーマはありますか。

「まだまだ模索している最中ではあるのですが、今の私の頭の中にあるのは、『現代の子ども達が感じている社会や環境のノイズ』を描くことです。現代はAIをはじめとして技術革新が進み、便利な時代になりましたが、良いことばかりではないと感じています。例えば、私たちの世代は当たり前のようにソーシャルメディアを利用しますが、通知が四六時中鳴り止まずストレスやプレッシャーを感じている人が少なくありません。

作品『Yearning for the arrival of spring』は、まさにそのようなことを主題に描いた作品です。雪山にいるニホンザルの子どもががヘッドフォンを付けて、吹雪に力強く耐える様子を描いています。」

—非常に印象的な作品です。画材は何を用いているのでしょうか。

「この作品は日本画の材料である岩絵具と金箔を用いて、キャンバスを支持体にしています。以前日本で岩絵具を自分で作って花を塗ってみるというワークショップに参加したのですが、それ以来岩絵具の魅力にとりつかれています。

他にはオイルパステルも好きな画材のひとつです。パステルの油を『乗せる』ような使い心地が岩絵具に似ていると感じます。私は大胆に派手に塗るというよりも、事前に計画を塗って緻密に色を乗せていくタイプなので、岩絵具やオイルパステルがそんな自分に合っていると思います。」
 
 

  Yearning for arrival of spring(2024)


 
 

“ 対話を通じて自分のスタイルを確立したい „

—他の作品でも動物をモチーフにすることが多いのでしょうか。

「はい、自然や動物を描くのが好きです。『Curiosity』というトラを描いた作品は3ヶ月かけて制作したのですが、私自身とても気に入っています。トラが森の中でたまたま見つけた思議な物を、好奇心(Curiosity)から舌で舐めてみようとしている絵です。トラの舌はトゲトゲしているので、そのトゲトゲを点描のようにひたすら描き込みました。また背景の森は、さまざまな色を使いレイヤーを重ねて描いています。

哺乳類だけでなく爬虫類、特にトカゲが大好きでよくモチーフにします。爬虫類カフェに訪れた時は店員さんにお願いしてイグアナの実物を観察しながら描かせてもらったこともあります。一方で、空想の生き物を創作して描くことも好きです。」

—Ryuさん自身が、画材への好奇心、動物への好奇心、さまざまな好奇心を強く持って制作に臨んでいることがよく分かりました。最後に、今後の展望について教えてください。

「今はまだ自分のスタイルや何を描きたいかが完全に定まってはいないので、技術を磨きながらそれらを確立させることが目先の目標です。また、幅広い年代の作家とアートや作品について語り合う機会をたくさん作りたいですね。作家自身が自分の作品について上手く語れなければ観る人にも伝わらないと思うので、そのために対話が必要です。これからも多種多様な展示会やイベントに積極的に挑戦し、対話の機会を得て自らの作品に昇華していきたいと思います。」
 
 

  Curiosity(2023)

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