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Interview: R・Y・O

緻密な線を重ねるほどに
黒の内からの生命力が溢れ出す…

 

“ ペン画最大の魅力は白と黒のコントラスト „

白の背景に黒のペンで線を描く。息が止まるような緻密な作業。一番細い線は0.03ミリのペンを使って描くという。そこにあるのは白と黒だけ。そのコントラストから生まれる洗練された世界観はペン画だけに存在するものだ。



 
 
「R・Y・O…これはアーティストネームです。アルファベットの間のドットには点と線という意味合いを込めています。僕がペン画アーティストとして活動しているので、点と線で緻密に描くという作風をこのドットで表現してみました。
 
ペン画の魅力ですか?
僕は生き物をモチーフに描いているのですが、黒の細かい線で描くことにより、作品に生命力や、躍動感を与えられることでしょうか。黒の内からエネルギーが出てくるのが感じられるんですよね。
 
使っているのはコピックというメーカーのマルチライナーというペンです。陽が当たっても色褪せないし、水にも滲まない。0.03ミリから0.05ミリ、0.1ミリ、0.3ミリ、0.5ミリと常に5種類をペン立てに入れて、描く部位の大きさによって使い分け一つの作品にしていきます。プロとしてペン画を描き始めて約2年。今まで使い切ったペンは80本くらいでしょうか。全部紙袋に入れて取ってあるんです。ここまでやってきた、頑張ってきたという想いがこもっていて、ポイとは出来ないんですよね。
 
学生時代に授業のカリキュラムで油絵や水彩も描いたのですが、なんかしっくりこなかった。
そもそも幼いころからボールペンで細かい絵を描くことが好きだったんです。家で熱帯魚を飼っていたのですが、水槽の中を泳いでいる姿を模写するのが好きで。描いているうちにどんどん描写が細かくなっていくんです。学校の授業中も、ノートの隅に迷路など一心不乱に描いていました。先生にバレないように教科書で隠して(笑)。小学一年生の頃からです。
僕の白と黒の世界の探求はそこから始まっていたんだと思います。」
 
 
 

“ オペレーターではなく、アーティストへ „

「高校を卒業するタイミングで、就職か進学か考えました。その頃、デザインの仕事に興味を持っていたので、絵を描く可能性が広がるならと地元のデザイン学校で2年間デザインの基礎を学びました。パソコンを使ってグラフィックデザインやロゴマークをつくるなど、デジタルアートにも興味が湧いてきて、その流れでグラフィックデザイナーとして商業デザインの仕事に就くことになりました。本当は、ゲームなどのキャラクターデザインの仕事に就きたかったんです。でも狭き門で…最初の挫折でした。」
 


 
この分野について知らないと、キャラクターデザイナーもグラフィックデザイナーも同じような仕事に思えるが、前者はアーティスト、後者はオペレーターほどの違いがある。R・Y・Oさんが就いたグラフィックデザイナーの仕事は、あくまでもクライアントの意向に沿って広告やパッケージを制作する仕事で、創作性は求められなかった。
 
 
「決してやりがいが感じられないわけではなかったのですが、自分の世界観を表現できる仕事ではないのだという思いが、年数を重ねるごとに強くなっていったんです。アーティストを目指そうと決めたきっかけは、身内が僕の昔の作品を見て言った「活かせたらいいのにね…」との一言でした。この言葉が僕の背中を押しました。それからというもの、会社勤務の傍らでポートフォリオとなる作品を描き貯めていきました。」
 
 
自由に自分のしたいことをしたい。それを極めたいというシンプルな気持ち。不安もあったがその気持ちの方が強かった。
2年間、とにかく作品を作りまくった。模索した。それは自分の作風を確立する期間でもあった。
そして2019年8月。ようやく個展が開けるくらいの作品、自分が納得できる作品が30点完成した。会社を辞め、ペン画アーティストとしてスタートを切った。

 
 
 

“ 動物の表情からは見えない感情を見て欲しい „

R・Y・Oさんの作風には、昔から存在した細密画により独創性を持たせるため、どういう意図で表現しているかを観る人に考えさせる工夫が取り入れられている。動物たちの表情からは見えない感情に着目して見て貰えたら…と。
 
 
「動物の細胞シリーズは、2022年に入ってすぐに描き始めたシリーズです。細密画をもっと細かく噛み砕いたような表現の作品を作りたいという想いがあって、細かいブロックで一つの生き物を形成して行く…それによってそのモチーフの生命力や躍動感をよりリアルに表現したかったんです。線画ならシャシャっと線を描いていくのですが、細胞シリーズの場合は、本当の細胞のように一つ一つ囲って描いて行きます。影になっていくところはどんどん四角のパーツを小さくして描いて行きます。一番小さい四角で0.03ミリくらい。明るく見えるところは四角を大きくして光が当たっているように表現していく。根気がないと難しい作業です。制作にかかる時間はA3サイズのジャガーの作品で100時間くらいですかね。」
 


 
「ブーケシリーズは、生き物と花をモチーフにした癒しのシリーズです。もともとはお客様から「プレゼントにしたいので、猫にお花を加えて可愛い感じにして欲しい」というオーダーがあったので、フォルムをブーケに見立て、お花で囲って表現した作品が生まれました。
『誕生』という作品は卵の殻をヒナが破って顔を出した所を描いていますが、可能性を広げていくという縁起物の要素を取り入れた作品です。花鳥風月も表現出来たらいいなと。
構図や構成を考えるには何気に時間がかかっています。考えて考えてやっとイメージが固まるんです…」
 
 
R・Y・Oさんの作品はなかなか悩ましい。時間をかけて構図がやっと決まっても、そこから一気に描きあげるという訳にはいかない、そこからまた新たに緻密で緊張感の漲る長い長い闘いが始まるのだ。

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