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Interview: 西本宗璽

「平仮名はかわいい」書業50年以上で見つけた新たな書の形

数々の賞やロゴ制作の実績をもつ、今年、古希を迎えた西本宗璽さん。書業53年。千利休の教え「稽古とは一より習ひ十を知り十よりかへるものその一」を引用しながら、「これまで身につけたものを捨てて新しいものを生み出したい」と、日々、書と向き合う。
 
 

“ 書道のピークはきっと江戸時代や鎌倉時代 „

 
―書道との出会いはいつからですか?
 
「小学2年から中学1年まで習字教室に通っていて、成績も良かったし賞をとっていくうちに親や周りの人も褒めてくれるので好きになりました(笑)。そこから受験期間で習字教室には行かず、17歳の時に再び、別の書道の先生に誘われて大人と一緒に習っていました。“書道が自分の生きていく道”だなと思ったのは、23歳の時。『福岡県展』で県知事賞を、『九州書道協会展』で大賞を受賞した時です。」
 
―どちらも当時最年少の受賞だったそうですね
 
「自分には才能があるなと思ったけど、書道で食べていける、食べていけないとかは全く考えていなかった(笑)。当時は習い事といえば習字とそろばんだったので、近所の人や子どもに習字を教えながら自分の作品も書いていました。日本の場合は芸術や作品だけで食べていける人は本当にわずか。だから、早く実力もちゃんと認められてその人が食べていける時代になると良いですね。」
 
―書道が嫌いになったり、スランプはなかったですか?
 
「どちらもないです。毎日書いているけど、どの作品も6割は上手で4割は下手だと思っています。僕が素晴らしいと思うのは、全部、江戸時代とか鎌倉時代とかの昔の人の作品。書道のピークはきっとその時代で、その時代の空気で作り出されているから敵わない。それでも書くのが好きだから、今日書いて良いと思ったものが翌日になるとちょっと違うかな、もっと良いものを書けるんじゃないかなと思ったら書き直す。それを繰り返しながら1ミリずつ進む。その意欲や生きがいが自分の中から薄くなったりなくなると恐いなと思っています。」
 
 

“ 書くときは気持ちの良い状態を作ることが大事 „

 
―作品を書く時間帯は決まっていますか?
 
「22、23時頃から2〜3時間。普段はお酒を飲まないけれど、書くときだけは主に日本酒を用意して、お気に入りの映画や音楽を流しながら書きます。最近はバーナード・ハーマンの音楽や宮川一夫の映像を観ています。気持ちの良い状態を作ることが僕の中では大事。筆が紙にあたる瞬間が気持ちの良い作品は、観る人も気持ち良いと感じるはずです。」
 
―作品は苦しんで産み出される訳ではない?
 
「書道という字には“道”が付いているから、いまだに厳しい固い精神論の世界と思われる人も多いかもしれませんがそうではない。苦しんだり苦労してできた作品を観ても、作品を通して人の苦労を見ただけで、気持ち良くはない。日本では苦労話やパフォーマンスありきで作品に感動する人も多いですが、それは純粋に作品だけを観ていることにはならないので、ちょっと違うかなと思います。」
 
―西本先生の作風について
 
「僕の字のヒントのひとつは、大正・昭和の挿絵画家・小村雪岱(こむらせったい)にあります。挿絵や装幀がとにかくセンス抜群で美学がある。最初は東京のイラストレーターがその小村雪岱の作風が僕の字の世界観に似ているんじゃないかと教えてくれて、観たら僕の好きな世界だった。」
 
 

“ 一生懸命遊んでいたら、自然と繋がる „

 
―活動拠点の福岡を中心としたお店のロゴや看板制作も多いですね
 
「僕には昔の書家たちの字とかの引き出しもあるし、“あの書の雰囲気がこのお店や商品には合うかな”とか、依頼者にアドバイスができるので、5、6種類を提案すると喜ばれます。僕の書いたロゴのお店が繁盛したり商品も売れたら嬉しい。」
 


 
―イギリス・コンテージャス社のウイスキー「軽井沢」の字も有名です
 
「オファーのきっかけはFacebook。当時、“いいね!”してくれる人が100人くらいいたので、遊びでその人たちの名前をラベルの大きさに書いて酒瓶に貼って写真を撮って載せていたら、それをイギリスで見てくれていた人がいて。日本最古のウイスキーの樽からとれた限定41本(1本200万円)でラベルも肉筆で41枚書きました。それが2013年で、2年後に中国人が香港のオークションに出品したら1,400万円になったのには驚きました。」
 

 
―今後の展開を教えてください。
 
「昔から書はインテリア。大広間の欄間には額、茶室には掛け軸。部屋に合わせた大きさと言葉を選んで飾っていた。最近、僕は家に飾りやすいように8センチ角の大きさの紙に書いて、それを20数センチの額に入れて出品します。言葉は、“めでたくかしく”や、全て二画の“いこい” など平仮名に挑戦中。平仮名はかわいいし、平仮名だけ書いて成功した人もいないから、成功に向けて魅力的な字を書けるようになりたいです。」
 

 

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