Interview: 永吉秀司

「不変的な存在を残したい」あらゆる感情に寄り添う
日本画家・永吉秀司

中高一貫校の教員や、大学の准教授という経歴を持つ永吉さん。教育の場に身を置き続けることで、画家として学ぶことも多いという。
 
 
「東京藝術大学大学院を修了し、しばらくはフリー画家として活動していましたが、中高一貫校の美術教員になってからは、忙しい日々でしたね。ちょうどその頃にバブルが崩壊し、絵を発表する場もない、絵の具を買うお金もない、そんな画家が溢れていました。そのような状況下でも絵の具代は稼げたので、忙しくて寝る時間は短くても、作家活動を続けることができたのは有難かったです。ただ、忙しさを言い訳にして絵を描く速度を緩めたり、枚数を減らしたりしないようにしていたので、今思うと大変だったかもしれないですね。
今は、新潟大学の教育学部で美術を教えています。学生というフィルターを通すと、今まで培ってきた技術や学んできた慣習がまったく違うものに変わる瞬間があるので、新たな発見も多く、良い刺激になっていますね」

 
 
「絵を描き続けて良いのか」と自問自答の日々で支えになったのは、出展した作品「たゆらに往く」が評価されたことだった。
 
 
「フリー画家をしているときに受賞した、松柏美術館「花鳥画展」の優秀賞は嬉しかったですね。先のビジョンが見えなくて不安なときだったので、「絵を描き続けても良いのかもしれない」と自信につながりました。
この作品をきっかけに、「こうしたらもっと良くなるかも」と課題を見いだし、一つ一つ積み重ねていくことができたと感じています」

 
 

第8回松柏美術館 花鳥画展で優秀賞を受賞した『たゆらに往く』


 
 
「自分の定型の色に囚われたくない」と言う永吉さん。その色の表現は、新たな局面を迎えていた。
 
 
「日本美術院「春の院展」で春季展賞・足立美術館賞を受賞した『彼岸の雫』には、自分の中での課題と、持てるすべての技術を落とし込みました。自分らしさが一番出ている作品だと思います。
この作品の色彩表現は、東京藝術大学からの受託研究で取り扱った、源氏物語の模写授業からヒントを得ています。「薄い紙に色付けをして用紙に貼る」という、昔ながらの技術がとても美しかったので、その技法を自分なりに工夫を凝らして再現してみました。絵の具とは違う色相を表現できたので、これからも試行錯誤を重ねていきたい技法の一つです。画像では感じられないような、実物でしか表現できない色作りをしていきたいですね」

 
 

色相表現の可能性を追求した作品『彼岸の雫』


 
 
生活の中で感じる「愛おしい存在」を不変的に残し続けたいという思いが、絵を描くきっかけになっている。
 
 
「不変的で平穏な、美しいものを題材にしています。自分の中にある昔の記憶だったり、車窓から見えたものだったり、生活の中で感じた違和感を描くことが多いですね。
私の中で、「不変的なものって何だろう」というテーマがあります。たとえば、激しい戦争が繰り広げられたであろう場所に咲く花。そういった、移ろいゆく世の中に取り残されている存在があると、「たしかに何かがそこにあった」という記憶のメッセージ性を帯びているように感じて、その愛おしさを不変的な存在として表現したいと思うことが多いですね」

 
 
表現したい感情を、すべての鑑賞者に等しく伝えること。それが永吉さんの作品作りのテーマだ。
 
 
「藤田嗣治の『アッツ島玉砕』を見たときは衝撃的でしたね。月に一度は必ず見に行っていました。そこには混沌とした戦場が描かれているのですが、戦場を実際に見たからこそ描ける、そのリアルさに強いメッセージ性を感じて、絵の可能性というものを見いだしました。
私は戦争を知らない世代ですが、絵を通して、その悲惨さに共感することができる。それは平穏の愛しさを知っているからこそ、感じることができるのだと思います。
「悲しみ」を表現するなら、「みんなが共通する悲しみ」を表現する。そういった感情が、ストレートに鑑賞者へ伝わる作品を描くこと。それこそが表現者である画家として、私の目指しているところでもあります。」

 
 
さまざまな感情を表現するために、その方法を常に追い求めている永吉さん。その姿勢こそが永吉さんの「表現者としての在り方」だった。
 
 
「有形なものに絵を描くこと。そこにこだわりを持っています。「その場所に行けば、必ず見ることができる」といった、その存在を不変的に残していくことが、絵を描き続けている理由の一つです。自分の考えを人の心に伝え続けられるような、不変的な存在を残したい。そう感じたことが、絵を描き始めたきっかけでもありますね。
自分の表現したい感情が鑑賞者にうまく伝わったときは、「ああ、良かった」と安心しますし、伝わらなかったときは、「まだまだだな」と反省します。そういった反省点の改善を繰り返しながら絵を描き続けて、どんな感情でも表現できる画家になりたいですね。
自分を表現する手段があって良かったと心から思っていて、絵を描き続けられる人生や環境に感謝しています。」

 
 
永吉秀司にとって“アート”とは?



 
「自分の生きた証」

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