―画家の道を志したきっかけを教えてください。
「実は私自身、自らを画家というふうには思っていなくて…。肩書きで言えば『アーティスト』かもしれません。その時々で音楽・写真など表現方法が変わってくるんです。アーティスト活動をしようと思ったきっかけとしては、生きている中で感じたことや信じているものなどを、その瞬間の形で残したいという想いでしょうか。他の方のように、幼い頃から芸術作品などに触れるなどの経験から影響を受けたということや、絵を描くのが好きだったということも特段なくて…。手法自体はその時々で変わるんですけれども、生み出す作品すべてが『私の存在の証明をしたい』という想いから創り出しています」
―いつごろそういった想いを抱くようになったのでしょうか。
「かつて友人の死を目の当たりにした時です。自分自身と重ねた時に、自分の作品がこのまま価値を持たないまま消えてしまうのではないかという考えが出てきました。それまで私は自らの存在証明として作品を作っていましたが、それが誰にも届かなかったらそれは存在していないのと同じではないかと。それからですね、世間に知ってもらいたいという欲求が生まれたのは。だからといって積極的に露出するつもりはなく、『L』という存在をどのように伝えていくべきかというのは今も模索中です。今回のこのインタビューもそういったきっかけになればいいのかなと考えています」
―『L』というお名前に込められた意味はどういったものでしょうか?
「実は何か意味をもたせているというわけではなく、概念的に名付けているだけなんです。以前は違う名前で活動していましたが、20年ほど前から『L』として活動しています」
〜 L 〜
―画家の他に、音楽や写真などさまざまな手法で作品を生み出しておられますが、使い分けはどのようにされているのでしょうか?
「その瞬間で感じたものを音で出したいのか、抽象画で出したいのかということで都度決めていきます。新作の絵を描いてほしいというようなお声もいただくのですが、他の作家さんたちとはおそらく根本的に違っていまして、何かを強烈に感じた時に形に残したいと思うので、依頼されて描くことはほぼありません。その瞬間の感性で表現技法すらも決めていこうというスタイルです。
絵は素直に感情を線にできたり、色にできたりするので、感情や表現したいものを純度高く作品に残しやすい。私はアクリル絵具を使ってステンシル技法を使ったり、それにプラスしてテクスチャーを乗せて表現したりしますが、それを全部合わせて一つの作品というか思いを込めて作っています。絵は音楽と違ってモノとして残るので、誰かの手に渡りながら残っていってくれたら良いなと思っています。その意味で、一番の根底にある『自身の存在した証』というところでは一番良いものだとは思います」
―作品の中で思い入れの強い作品はありますか?
「思い入れという部分ではどの作品にもありますが、『L』というタイトルの作品は一番素直にというか不純物なく表現ができたかなという感覚はあります。バンクシーの風船を描いていますが、バンクシー自身も表に出ずに作品だけで主張をしているアーティストですのでそこも含めて今の自分にも合致していまして。ただ、自分ではジレンマも感じていて、表に出るのは作品だけでよいとは思うものの、人に見てもらうためにはやはり名前が広まらないと見てもらえないという現実もあります。そのジレンマも表現できた作品でしたので、自分自身の心情に対しても不純物がない作品として世に放てたかなという感覚はあります」
〜 好奇心 〜
―今後の抱負などはありますか?
「去年、日本橋アートさんの方で作品が売れたんですが、あの時は私がいなくなってもその人の元で作品が残るということを実感することができました。すごく尊いことですし、私が活動する意味に直結することなので本当に嬉しかった。こうしたことを積み上げながら、先ほど申し上げたように『L』という存在を、表に出るか出ないかのジレンマを抱えつつも広めていきたい。ただ、無理に広めようと躍起になるのではなく、少しずつで良いので私の言葉や存在が広がっていけば良いなというスタンスです。
具体的な目標は特にないのですが、今まで通りそれぞれの瞬間で感じたものをしっかりとアーティストとして表現していくということに尽きます。私もあとどれだけ生きられるか分からないですし、生きている限り私の生きた証というのを形にして残していきたいですね。引き続き日本橋アートさんにも作品をアップしていくと思うので、それも見ていただければありがたいです。他の画家さんたちとは明らかに異質な存在だと思いますが、一つ一つに思いを込めていくということは変わらないのかなと。
絵ではなく写真ですが、一つ特徴的な作品があります。私が狐の面とフードを被って青いバラを握りしめているものなのですが、実際に私の手から滴り落ちているのは本物の血なんです。少しそういった狂気に満ちたようなところもありますが、その瞬間を作品に込める、嘘がないように表現するという、そういう部分に少しでも共鳴していただける方がいれば、ぜひ手に取っていただけると嬉しいですね。ただ、私が感じたことだけを感じてもらうだけではなく、私の作品には見た人に解釈を委ねる余白も残していますので、自由に感じ取ってもらえれば良いなとも感じています」
〜 Blind Lips S6ver〜