“ 自給自足に近い暮らしを求め、伊豆へ „
「自然を壊し続けてしまったら、いつか人間も生きていけなくなってしまうかもしれない」。
壊されていく自然を見ながら、そんな危機感を覚えました。
虫を採ったり、観察したり、子どもの頃は雑木林や畑が遊び場でした。
その頃はちょうど高度経済成長期で。ものすごい早さで自然がなくなっていく様子を見て、「これで良いのだろうか」と。幼いながらにモヤモヤしたものを感じました。
そして現在は自然と共に生きていく方法を模索し、「自給自足に近い暮らし」をしています。
農業大学に進学し、その後は農場で働きました。農場の次は東京でサラリーマンをしていたのですが、自分にはあまり向いていませんでしたね。農場で働いていた頃と比べて、息苦しくなってしまったというか。「明日は明日の風が吹く」ような、気ままな田舎暮らしが恋しくなってしまったんです。
そんな時に「伊豆に空き家がある」と聞いて、すぐに「引っ越したい」と思いました。でも、いざサラリーマンを辞めようと思ったら、急に恐ろしくなってしまって。恐ろしく感じてしまったことにも驚きがありました。
「辞めるなら今しかない」と当時30歳で退職し、今の「自給自足に近い暮らし」が実現したんです。
引っ越し先に仕事の伝手はなく、漠然と「ものづくりをして暮らしていこう」と思って、和紙を大量に買い込んで引っ越してきました。絵を描くことも好きだったので、「ポストカードでも描いて売ってみようかな」なんて考えていたんです。
でもその和紙たちは、しばらく家の中で眠ることになってしまうんですけどね。和紙に描き始めるまでには時間がかかりました。
“ 童心を思い出すもの。それが絵と虫だった „
伊豆に引っ越してきて最初に絵を描いたのは、和紙でもなく、ポストカードでもなく、「四方竹」という竹でした。ご近所さんが、タケノコを採るために四方竹をたくさん育てていたんです。四方竹は竹細工には向いていないので、使い道に困っていましてね。何かに利用できないかと。
そこで、500円玉ほどの大きさをしている竹の節に、顔や魚の絵を描いてバッチやアクセサリーを作ってみました。近くのお土産屋さんに持って行ったところ、嬉しいことに評判が良かったようで。伊豆に来て絵を描き始めるきっかけになりました。この作業が絵の勉強になっていたのかもしれません。
「もっと大きいものに描いてみたい」と思っていた、ちょうどその頃ですね。旅行で訪れたオーストラリアで現代アボリジニアートを見て、「ビビビッ」ときたというか。ものすごく「絵を描きたい」という衝動に駆られました。
その時の感覚が、子どもの頃に「絵を描きたい」と思っていた気持ちに似ていて、「自分はこんなにも絵を描くことが好きだったんだ」と実感したんです。
家に帰ってきてから、長いこと眠っていた和紙を引っ張り出して、本格的に絵を描き始めました。
その後、何人かで絵の企画展を開くことになり、テーマが「虫」になって。
虫は昔から好きでした。虫を観察していると、子どもの頃の感覚が蘇ります。今でも新鮮な驚きを与えてくれる存在です。だからこそ、「虫は最後の楽しみに残しておこう」と、手を出さずにいました。
でも、いざ描き始めたら「これはもう、やめられない」と。ものすごく面白くなってしまったんです。虫からインスピレーションを受けたものを描くようになりました。
“ 自然と共に生きていく世界を „
自分の中ですごく気に入っている「空想昆虫」は、「リョウリムシ」のシリーズですね。その名の通り、料理をする虫です。
「体内のガスを使って、それを吹き付けてから食べる虫がいたら面白いかも」と、自ずと湧き上がってきたイメージで絵が描けたというか。楽しく描けましたね。
たとえば、フンコロガシもある意味、料理をしているみたいだな、と。あとはシデムシという動物の死骸を掃除してくれる虫がいて、オスとメスで役割分担して肉団子を作るんです。
そういった実際にいる虫からもヒントを得ながら、「空想昆虫」を描いています。
ルーヴル美術館に飾られた作品「家と大木」は、人間と虫が一緒に住んでいる様子をイメージして描きました。今後描いていきたいテーマの一つとして、「人間と虫が一緒に共同制作をした家」があります。
すごい巣を作るシロアリのような虫が、人間と協力して家を作る。普通の家に、人間と虫が一緒に住んでいても面白いかもしれませんね。
実はすでに、度々絵の中にこっそり取り入れていて、虫の形を家紋みたいにして潜ませています。
そんな「自然と人間が共に生きていく世界」を描いていきたいですね。
自然がなければ、人間は生きていけません。「自給自足に近い暮らし」を通して、その有難さを身近に感じているからこそ描けるものがあります。
虫の存在から広がる、さまざまな自然をテーマに描いている僕の絵を見て、何かを感じてくれたら嬉しいですね。
僕にとってアートは人を幸せにするものであり、その逆であってはならないものと考えています。誰かにとって、気付きを与えてくれるきっかけになったり、前に進むための力になってくれたり。そんな存在になってくれればと思っています。