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Interview: 狩野慎太朗

新進気鋭の芸術家が挑む“自我を超えた”作品

 

“ 絵に対する興味とコンプレックスを抱えていた „

 
原色をベースに、複雑に色を重ねて描かれた抽象画。あなたはこの作品から何を感じただろうか。どこかエネルギーを秘めたこの作品を描いたのは狩野慎太朗さん。狩野さんは、哲学を学んだ後に芸術家の道へ進んだという異色の経歴の持ち主だ。そんな狩野さんが芸術家を目指したきっかけや、作品との向き合い方を聞いた。
 
 


4年生の大学で哲学を専攻し、卒業後は社会人として働いていた狩野さん。芸術家としてのキャリアを始めるきっかけは何だったのだろうか。
 
 
「もともと芸術にはすごく興味があったのですが、同時に絵を描くことに対するコンプレックスも抱えていました。『綺麗に描かなきゃいけない』『自分が描きたいものは、他の人が見たいものなのか?』とか、そういうネガティブな感情の方が勝っていて。だから芸術家になろうという発想も全く無くて、大学卒業後は会社に就職して働いていました。
でも、やっぱり違和感がありましたね。様々な仕事に挑戦してみましたが、自分がやりたいことと、手段が合致しなかったんです。
ある日『もう我慢できない』という時がきてしまって、もういっそのこと絵を描いてやろうと思ったのが芸術家になるきっかけでした。」
 
 
芸術家として活動を始めた狩野さんが、描きたいものとは。
 
 
「私はシュルレアリスムが好きで強く影響を受けているのですが、自分の自我を超えた表現ができたらおもしろいなと思っています。自我とは、理性の機能を持っているものだと考えています。自我を超えない限り、たとえ抽象画であっても、次にどんな色を載せるか、どう描いていくかっていう理性が働くと思うんですよ。だからもっと徹底して理性を排除するために、試行錯誤しています。
最終的にはコンセプトを詰め込んで描く理論的な抽象画というよりも、もっと単純に、見た瞬間に何かを感じるような作品を目指しています。」
 
 

“ 詩、AIとの合作…実験しながら作る作品 „

 
狩野さんは、絵と詩を組み合わせた作品や、様々な画材を使った実験的な作品も作り出している。どんなテーマや意図で実験しているのか尋ねた。
 
 
「自我を超えることを目指してスタートしているので、実は作品にテーマはないんです。出来上がった作品に対して、自分も鑑賞者の立場で見て、それから作品名をつけています。画材も、基本はアクリルとクレヨンを使っていますが、石膏や洗濯糊など、おもしろそうだと感じたものは実験的に使っています。

詩を書くにあったって用いている手法は、オートマティスムというもの。1920年代にシュルレアリスム運動の中で提唱された手法で、理性や既成概念にとらわれずに思い浮かんだ言葉を書き出していき、意識下の世界を表そうとするものです。そうして書き出された言葉を繋いで、詩の形にしています。

作品を作るにあたって、表現したいコンセプトは決めていないんです。だからこそ、見る人がどう捉えたのか、どう感じたのかに向き合ってみてほしいと思っています。」
 
 
最近はNFTアートにも挑戦しているという狩野さん。AIと合作した絵も制作している。
 
 
「自分で描いた絵をさらに人工知能に処理させて、どんな絵ができるか実験しています。色合いもけっこうガラッと変わって完成形が予測できないおもしろさがあるんです。
『THE ROOM』というコレクションではデジタルアートで部屋を作っていますが、これはテキストを入れるとそれに合わせてAIがビジュアルを作ってくれるソフトを使っています。こうした方法は自分の中でしっくりきていて今後もやっていきたいですね。

自我を超えた表現に挑むことはもちろん重要ですが、物理的に絵を描くアナログの過程にAIは入れられません。でもデジタルアートの方では、制作に組み込むことで予測不可能な表現ができるんじゃないかと考えています。」
 
 


 
 

“ “奇妙な”世界観をマルチメディアで表現 „

 
実験的な作品が多かった狩野さんだが、今後は“strange”をテーマに制作していきたいという。
 

 
「私自身、“奇妙さ”を作り出すのが好きなんです。自分たちが今見ている現実と微妙にズレている、ありそうでなさそうな世界観がおもしろいと思っています。その“strange”をテーマに、これまで実験的にやってきた詩や絵画、デジタルアートなど、マルチな方法で表現していきたいです。
今後は『Surreal “87”(シュリアルエイティーンセブン)』という名前で、webでの活動と、リアルでのアーティスト活動をミックスして、オリジナルの世界観を作っていこうと考えています。
具体的には、NFTアートと物理的な作品を組み合わせて、デジタルとアナログの世界を行き来するような作品を作ってみたいです。例えば『THE ROOM』というコレクションで作っている部屋の壁を、キャンバスやパネルで作ってみたり、3DCGを使用して立体作品としての展開も考えています。」
 
 


 
 
「それから、いつも私は作品を見てくれた人自身が、その作品をどう感じたか、知りたいと思っているんです。『有名な作品だから』『誰かがいいと言っていたから』などのバイアスを取り払って、1対1で作品を見てみてほしい。そして感じたことや感想などは、SNSなどを通じて、ぜひ気軽に教えてもらえると嬉しいです。」
 
 
絵画の枠にとらわれず、常に実験しながら自身の表現を追究する狩野さん。2021年に本格的に活動を始めたとは思えないほど、すでに多彩な作品を生み出している。今後、狩野さんがどんな表現を見せてくれるのか、注目していきたい。

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