原色をベースに、複雑に色を重ねて描かれた抽象画。あなたはこの作品から何を感じただろうか。どこかエネルギーを秘めたこの作品を描いたのは狩野慎太朗さん。狩野さんは、哲学を学んだ後に芸術家の道へ進んだという異色の経歴の持ち主だ。そんな狩野さんが芸術家を目指したきっかけや、作品との向き合い方を聞いた。
狩野さんは、絵と詩を組み合わせた作品や、様々な画材を使った実験的な作品も作り出している。どんなテーマや意図で実験しているのか尋ねた。
「自我を超えることを目指してスタートしているので、実は作品にテーマはないんです。出来上がった作品に対して、自分も鑑賞者の立場で見て、それから作品名をつけています。画材も、基本はアクリルとクレヨンを使っていますが、石膏や洗濯糊など、おもしろそうだと感じたものは実験的に使っています。
詩を書くにあったって用いている手法は、オートマティスムというもの。1920年代にシュルレアリスム運動の中で提唱された手法で、理性や既成概念にとらわれずに思い浮かんだ言葉を書き出していき、意識下の世界を表そうとするものです。そうして書き出された言葉を繋いで、詩の形にしています。
作品を作るにあたって、表現したいコンセプトは決めていないんです。だからこそ、見る人がどう捉えたのか、どう感じたのかに向き合ってみてほしいと思っています。」
最近はNFTアートにも挑戦しているという狩野さん。AIと合作した絵も制作している。
「自分で描いた絵をさらに人工知能に処理させて、どんな絵ができるか実験しています。色合いもけっこうガラッと変わって完成形が予測できないおもしろさがあるんです。
『THE ROOM』というコレクションではデジタルアートで部屋を作っていますが、これはテキストを入れるとそれに合わせてAIがビジュアルを作ってくれるソフトを使っています。こうした方法は自分の中でしっくりきていて今後もやっていきたいですね。
自我を超えた表現に挑むことはもちろん重要ですが、物理的に絵を描くアナログの過程にAIは入れられません。でもデジタルアートの方では、制作に組み込むことで予測不可能な表現ができるんじゃないかと考えています。」
実験的な作品が多かった狩野さんだが、今後は“strange”をテーマに制作していきたいという。
「私自身、“奇妙さ”を作り出すのが好きなんです。自分たちが今見ている現実と微妙にズレている、ありそうでなさそうな世界観がおもしろいと思っています。その“strange”をテーマに、これまで実験的にやってきた詩や絵画、デジタルアートなど、マルチな方法で表現していきたいです。
今後は『Surreal “87”(シュリアルエイティーンセブン)』という名前で、webでの活動と、リアルでのアーティスト活動をミックスして、オリジナルの世界観を作っていこうと考えています。
具体的には、NFTアートと物理的な作品を組み合わせて、デジタルとアナログの世界を行き来するような作品を作ってみたいです。例えば『THE ROOM』というコレクションで作っている部屋の壁を、キャンバスやパネルで作ってみたり、3DCGを使用して立体作品としての展開も考えています。」