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Interview: 亀山玲子

美しさと怖さの共存する”人の美”を描き続けて歩んだ半世紀

 
 

“ 何気ない出会いから、描き続けてきた50年 „

 
 
芸大で日本画を専攻した後、半世紀以上にわたり画家としての活動を続けてきた亀山さん。お話を伺うと、芸大入学時点では画家になるつもりはなかったのだという。
 
「小さな頃から絵を描くことが好きで、進学に際して『絵を勉強できたらいいな』という、何ということはない軽い気持ちで芸大を受験しました。高校で専攻していたフランス語で受験することができたのも幸いでした。フランス語で受験する人はあまりいなかったのか、大学の先生が手書きしたのであろうガリ刷りの試験用紙だったことをよく覚えています。卒業する際も、特段画家になろうと考えていた訳ではありません。時代風潮的にも就職する人は少なかったので、流れで描き続けているというのが近いかもしれませんね。」
 
当時(あるいは現在も)メジャーではない高校でのフランス語専攻という経験が、語学とは関わりが遠く感じられる芸大の受験でいかされるというのは、そうなるべくしてなったのだろうと感じさせられるエピソードだ。日本画を専攻した理由を聞いた際も、亀山さんらしい受け答えが返ってきた。
 
「高校で美術教室の掃除当番が回ってきた時、油絵の匂いがすごくきつくて。油絵を描くにはこんな匂いに耐えないといけないのかと思い、『それなら日本画にしよう』と。今思えばいい加減なものですね。それに、蓋を開けてみたら、日本画で使う膠(にかわ)もそれなりに匂いのきついものでした(笑)ただ、芸大を卒業して、彫刻に手を出したり色々と遊びながらも、日本画は変わらずに50年以上描き続けてはいるので、自分はきっと相性が良かったのかなと感じます。」
 
 


 
 

“ 人の手ならではの美しさを捉え、描き出す „

 
 
“日本画”とは、明治以降に日本へ伝わった西洋画と区別をするために作られた言葉。その一番の特徴は千数百年以来続いている伝統的な画材にある。亀山さんに日本画の魅力を聞いた際にも、その画材に言及がされた。
 
「日本画は、まず絵の具自身がすごく綺麗ですね。材料に宝石が使われることもあるので、その石が持つ力のようなものが絵画にも反映されるのだと思います。私は朱やトルコブルーなどの色が好きなのですが、特に朱という色は古墳や鳥居など特別な意味を持つ場所に使われることも多く、有史以来、日本人が様々な思いを込めて使ってきた色なので、色そのものが持つ力というのもあるのではないかと思います。」
 
その絵の具で描かれる亀山さんの作品群の中で、特に目に留まるのが舞妓が身にまとう着物の美しさだ。
 
「舞妓さんの着物は色使いや小物など、ひとつひとつに意味があります。例えば、どこかに必ず赤色を差していたり、見世出し(舞妓としてのデビュー)から間もなければ豪華な帯をしたり、髪飾りは毎月季節の花が決まっていたり。そういう人為的な美しさに惹かれることが多いです。」
 
モチーフを選ぶ際にも、風景画や静物画などよりも人物画を好むという。
 
「特に意識しているわけではないのですが、振り返ってみると人物画は楽しんで描いていますね。特に舞妓さんなどは18、19歳の少女から大人へ変貌していく時期で、その頃特有の美しさ・可愛らしさは唯一無二です。同じ美しさでも、例えば花などはうまく描けない。花そのものが綺麗すぎるので、ただの模写というか、自分の花にならないと感じます。花を好んで描く画家さんは、ぱっと見て『これは○○さんの花だ』と分かります。自分はそれを出せないので、花に選ばれていないのでしょうね。好きなものを描いてきただけではありますが、結果的に人物画が多くなりました。」
 
 


 
 

“ 惹かれるものだからこそ、映し出される内面 „

 
 
絵を描く時は「何も考えていない。没頭し始めると何時間でも時が過ぎる」という亀山さん。無我の境地だからこそなのか、出来上がった作品を見た人からかけられる言葉で気付かされることもあるという。
 
「自分では美しい・可愛いものを描いているつもりなのですが、人から『怖い』と言われることが時々あります。あえて言葉にするならば、美しさの中にも少し陰りがあるものに、気付かないうちに惹かれているのかもしれません。私生活でゴタゴタしていた時に描いた作品などは、可愛らしい舞妓さんを描いたつもりなのに、見た人から『この舞妓さん怒ってる』と言われたことがあり、それほどまでに内面が反映されるのかと、描いた自分が驚かされたこともありました。隠し事ができない恐ろしい仕事だとも思うのですが、そうでなければ作品とはいえないのかもしれないですね。」
 
自分自身が惹かれるもの、描きたいものを数十年にわたり描き続けてきたからこそ、作品が亀山さん自身を映し出す鏡のように機能しているのかもしれないと思わされる。
 
最後に、画家としての活動を長く続けるコツやモチベーションについても聞いてみた。
 
「諦めが悪いといいますか、描くことが好きで、ずっと続けてきたというだけで。時には人と話しながらやビールを飲みながらでも、描くというのが当たり前という日常を過ごしてきているので、数日描かないと強迫観念のように『描かないと』となる。いつでも絵を描くことが心にひっかかっているので、人から『休みの日は何してるの?』と聞かれたりする時には、冗談めかして『休みなんかないのよ』と答えたりもします(笑)」
 
これからも亀山さんが描く作品を通じて、人間が持つ美しさに触れていくのが楽しみでならないインタビューだった。
 
 


 
 

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