Interview: 後藤真由美

儚さ、柔らかさ・・・ 惹かれたのは桜の“強さ”

簡単に自己紹介をお願いします

 

 

日本画家の後藤真由美です。桜をメインモチーフに草花を描いております。生命力をテーマに人間の心情を草花に投影しています。

 

作品発表のメインはギャラリーや百貨店の展覧会が中心ですか?

 

武蔵野美術大学の日本画学科を卒業後、一般職に就いて絵画を離れたこともあるのですが、その後再開し、初めて画廊で個展を開催した時が作家デビューとなります。

 

作品それぞれには後藤さんのその時その時の心情が写し出されているのですか?

 

そうですね。こちらの作品は宇宙空間にあるブラックホールのような、うごめいているものの中に吸い込まれていくイメージで三春滝桜を描いています。

桜を描き始めて今年で5年目ですが、桜の時期は各地で取材を重ねています。福島県の三春町には毎年欠かさず通い、1週間ほど滞在します。

最初から「こう描こう」と決めているわけではありません。
ある程度描きこんでいくと、音が聞こえてきます。あっ、ここは「はらはら系だな」とか「ここはちょっと感傷的だな」など、その時々で違った音が聞こえます。
心の音を投影していますね。

 

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同じ桜でも毎年見ていると表情が違います。花の形が丸みを帯びたり尖っていたり。ピンクの色合いが深い、浅いなど。
勢いよく咲くときもあれば、なんとなくしょぼんとしていて、少し弱っている時もあります。
現場で大きな風が吹くと、大きな生き物が蠢いているようでその姿に妖艶さを強く感じます。
花びらがはらはらと落ちていく様子が涙を流しているように見えたり。
ちょっと言葉にするのは難しいのですが。

 

「人」に見立てての感性にすごく優れているのですね

 

昔からよく言われるのですが、他人よりも色々なものを感じやすいことに最近自分でも気づき始めました。

例えば、幼少の頃から両手で掬った水が落ちるのを見て「なんで水って氷や水蒸気に形が変わっていくのだろう・・・」と不思議に思い、毎日のように水の波紋をじーっと見続けたり、小川の流れが線に見えたり。テレビとかでスローモーションVTRってあるじゃないですか、あんな感じで例えば滝なんかを見ているとスローモーションみたいに水の一粒一粒が鮮明に見えたりします。

 

怪我から始まった芸術家への道

 

桜を描き始めたきっかけは何ですか?

 

もともと巨樹を描いていました。私は自分自身をすごく弱い人間だと思っていたので、力とか強いものに憧れていたのです。
大学時代には神々しいものを感じたくて、屋久島や奄美大島も含めて九州を中心に巨樹巡りをしていました。巨樹の近くに行くと、自然のゆったりしたリズムにシンクロして心がすごく落ち着くのです。圧倒的な大きさと巨樹の持つ強さから力をもらっていて、その流れで桜の巨木を描き始めました。
 

 
 

最初から桜ではなく巨樹を描いていたのですね。

 

桜は大好きだったのですが、あの細い枝や無数の花を描くことはできないと思っていました。
巨樹は葉っぱではなく根や幹などのうねりなどを好んで描きました。
他にもネコ科の猛獣が好きで虎などを描いていました。
絵を描いていてすごく苦しい時代があって、困難を飛び越えて越えてやるとか、自分と闘うために強いものを描く傾向がありました。
それから人生経験を重ねていく中で、強さだけではなく弱さの中に強さを見出すようになって。
今まで描いてきた木のうねりだけでは感情が表現できない部分が出てきて、それで桜を描いてみようと思いました。桜の樹には花びらという柔らかいものがあり、散ってしまう儚さも表現したい気持ちに合っているなと。

 

一般的にさくらは儚さの象徴でもありますが少し視点が違いますね。

 

元々巨樹を描いていたので、大きい桜を見に行っているからかもしれませんね。本当に力強いのですよ。

 

絵を描き始めたきっかけは?

 

小さい頃はスポーツが得意で、当時はプロのバスケットボール選手になってオリンピックに出るのが夢だったのですが、不慮の事故でスポーツができなくなったのです。

入退院を繰り返し、寝たきりのような生活になった時期もありました。
スポーツはだめ、もしかすると大人になっても会社には時間通り行けないかもしれない。それならば一人でできる仕事って何だろう?と考えて、画家だったら家で座ってできるなと。

 

発想が大分飛びましたね笑

 

正直こんなに厳しい世界だとは知らなかったので(笑)
私が絵の道に行くと決めた時に、両親からは全く反対されなかったのです。
母親が絵が好きで初任給で美術全集を買うような人でした。東山魁夷や上村松園の画集なども自宅にありました。中学の時に松園と東山魁夷の展覧会に連れて行ってもらって、そこで初めて本画を見たのです。松園の作品の髪の毛の生え際を見た時に「なんでこんなふわっとしたぼかしができるのだろう?」「どうしたらこんな真っ直ぐな線が描けるんだろう」と。今でいう緊張感のある線が分かり感動しました。
東山魁夷の「白馬の森」では、実際に描かれている絵の具の中に薄いピンクや紫などが入っていて角度を変えるとキラキラして見える。
当時は岩絵の具を知らなかったのですが、油絵とは違う透明感が素敵だと思い中学の時に日本画家を志しました。高校1年生から美術予備校に通ったのですが3年間無遅刻無欠席でした。

 

百貨店とはどのような経緯で?

 

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そごう横浜店6階美術画廊・個展 来場者数が最多を記録

 

2014年頃そごう西武のバイヤーさんにお目にかかる機会があり、その際にチラシと作品をお見せしたところ、やってみようかということになり、そごう横浜店で個展をさせていただきました。その後は千葉店、西武池袋本店、系列特別展示会にて個展を開催しました。

そごう横浜店の時はお客様に恵まれまして。
日刊紙などにも取り上げていただいた事もあったせいか、来場者数が過去最高だったそうです。

 

年間で何枚程度制作していますか?

 

関係者の方々に、年間最低50枚は描かないとプロじゃないと。
周りには100枚くらい描いている方も結構いらっしゃいますけど・・・

年間50枚は描けるようにしたいのですが、まだそこに至っておらず奮闘中です。

 

基本的には日々絵を描いているような生活ですか?

 

朝は5時から7時の間で起きるのですが、起きてから制作をするまでの間はあまり空けないようにしています。午前中の方が集中出来るので。
私は気分が移ろいやすくとても挫折しやすい欠点があります。自己管理が不得意なので規則正しくしていかないと、とはいつも思っていますが、なかなか難しいですね。
思った以上に事務作業や雑務も多く、かなり時間が取られます。夜は家族とご飯を食べるようにはしています。
締め切り前は徹夜のこともありますが、最近は体力的に辛いのであまりしたくないです。

 

影響を受けた画家はいますか?

 

まず先ほどお話をした東山魁夷、上村松園、高校時代は伊藤若冲です。「美術手帖」の表紙絵が伊藤若冲の作品でそれを高校生の時に図書館で見つけてすごく感動してしまって。
それで若冲にはまって、司書の方に「これください!」と言って雑誌を譲ってもらったり。

それまで松園の緊張感に惹かれていたのですが、若冲はどこかぐいぐい押してくるような強さに惹かれました。

大学時代はクリムトの影響を受けました。
クリムトの「愛」という作品を画集で見たのですが、それが本当に印象深かったです。男女が向き合っていている作品なのですが、その作品を一目見た時に恋におちました。
 

 
 

「最後になるかもしれない」
覚悟を決めた個展で売れた運命の1枚

 

後藤さんは人物画は描いていないですね。

 

実は花を通して人を描いているのです。
作品によっては、女性がふっとなびいていくようなイメージだったり。特に意識している訳ではありません。描いているうちに「しっとりしたいな」とか「ここにほころびが欲しいな」とかそんな気持ちが自然に生まれて、いつの間にか女性像を投影しているんですよね。

 

画風にはどなたの影響が多く現れていますか?

 

う〜ん。どなたの影響も強くは現れていないですね。
逆に言うといろんな人から影響を受けて混ざっているのかもしれないです。

 

色々な方の画風をうまく自分のものにしてオリジナルにしたということですか?

 

実はまだ自分の画風というものが定まっていなくて、「これが後藤だ!」というものを日々模索している状態です。

 

画家として最も嬉しかった時は?

 

まだ画家ではなかったのですが、大学1年生の学園祭で50号の絵を2枚展示した時に某一部上場企業の方から会議室に飾る絵として作品が欲しいと声をかけられた時で、画家としては2008年の初個展の時です。

 

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初個展 5日目

 

お金もなくてやっとの思いで開いた個展だったのですが、正直「最初で最後の個展かもしれない」と思い、50号の舞妓姿の自画像を描きました。
「画家として生きていきたいと願っている自分がいた」という事実を残したくて描いたのですが、その作品が「月刊美術」の個展案内にカラーで掲載されまして。
個展が始まる前に「欲しい」という連絡が画廊に入りました。

その後、お客様が会場に来られ、
「うん、いい絵だ」
そう一言おっしゃり、その場でご購入いただきました。
個展を開く前はこれが最後かもと思っていたのですが、私のような全くの無名の作品を、案内を見ただけで所望してくださったことがとても嬉しかったです。
他の人に認められて初めて社会に貢献できているような気がした瞬間でした。
あの1枚が私の中ですごく支えになっています。

 

その1枚がなかったら今の後藤さんはなかったかもしれないですね。

 

そうですね。本当に。大きかったです。

 

逆に苦しかった時のことを教えてください。

 

いつだろう・・・というか、しょっちゅうなんですけどね(笑)

うーん、怖くて筆を画面に全く置けなくなった時がありました。失敗を恐れて手を入れられず画面を完成に持っていけなくなって。
それで何日も過ぎてしまったことがありました。もう描くこともできないというか。それも何日とかではなく何ヶ月と・・・・

おそらく絵を人に認めてもらいたいという思いが強くて、それを否定されてしまったら・・・という恐怖心が強く働いていたのかな、と思います。

 

後藤さんが思う最も自分らしい作品を教えてください。

 

この「天空」という作品も三春滝桜をモチーフにしていますが、天に昇っていく天女をイメージしています。自分の中で感じた桜のざわつきを半抽象的に表現したもので「私が描きたい絵はこういうものかな?」と少し思えた作品です。

 

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作品名:天空
制作年:2014年
サイズ:530×727
号数:P 20号

最後にこれから挑戦していきたいことを教えてください

 

「誰も見たことがない桜」を描く事です。

 

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作品名:茜に燃ゆ

 

作品を海外でも発表していきたいという思いがあります。SNSなどで海外のギャラリーからもお話が来ているのですが、海外で勝負するためには「どこかで見たことあるよね」という作風ではダメだと思っています。

「初めて見たよ」という感動が大切だと思うので。今新しい技法も学んでいますが、それもやはり「誰も見たことのない桜」を描きたいという思いにつながっていますね。

よくお客様から「いいね」「自宅(会社)に飾りたい」と、お求めいただきます。それはとてもありがたい事です。
「心地よい」にとどまらず、プラス「この作品と一緒に歩んで行きたい」と思われるような作品、ひいては後藤真由美のブランドを創っていきたいです。

 

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作品名:夜景-千鳥ヶ淵
制作年:2018年
サイズ:455×380
号数:F 8号
技法:日本画
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作品名:月夜
制作年:2017年
サイズ:660×727
号数:F 20号
技法:日本画
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作品名:花菖蒲
制作年:2018 年
サイズ:455×380
号数:F 8号
技法:日本画
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作品名:碧水
制作年:2017年
サイズ:318×410
号数:F 6号
技法:日本画

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