「現在は金継ぎをモチーフとした作品制作に注力していますが、その前は墨と花を融合させた作品を制作していました。デザインの仕事で筆文字を使えるようになりたいと思い、2005年に書道のワークショップに参加しました。すると、書道は力強くパワフルで、さらに自由を追及できることに感銘を受け、書道を習うことに決めたのです。さらに生け花も習い始め、墨と花を掛け合わせて作品を作ろうと思ったのが、墨×花の作品制作の第一歩でした。」
グラフィックデザイナーとして広告デザインを手掛ける傍ら、画家として活動する佐々木さん。大学は教育学部で、4年次にデザイン関係の仕事に進みたいという気持ちが芽生え、アートの授業を履修。大学卒業後は印刷会社へ就職し、そこでデザイン会社の紹介を受けて、現在のグラフィックデザイナーのキャリアをスタートさせた。幼少期から絵を描くことは好きだったものの、美術部や美大出身ではなかったのだとか。墨と花の融合という独自性溢れる作品を手掛けた佐々木さんに、作品に込めている想いをお聞きした。
「墨と花を組み合わせた作品は、花が枯れていくので、時間によって見え方が変化していきます。まさに花が次第に枯れていくように。私は、その枯れていく瞬間も素敵だなと思い、作品を通じて儚い生命、変化を表現しています。命があるものは年をとり、いつか失くなってしまう。けれど、その一瞬・一瞬が特別で、壮大な時間が流れているように感じるのです。墨も花も、瞬間の芸術なので、同じ時間は2度と来ないと思いながら、作品を制作していましたね。」
「海外での展示にも挑戦したいと思っていたので、海外市場へも進出していきました。ただ、生花を用いるため、展示するにも現地で調達する必要があり、それが課題でしたね。そこで、自分の作品をコラージュしてみたら、とても面白かったのです。コラージュの魅力を感じていたある日、SNSで金継ぎを目にしました。そこで、金継ぎからインスピレーションを受けて、紙同士の間に金の絵の具を塗る作品を制作したのです。これを機に、金継ぎをモチーフとした作品制作をスタートさせました。」
映画や風景など何かを見ること、頭を空っぽにしてクリアな状態にすることで、作品のヒントを得ていると話す。墨と花を融合させた作品から、次に題材とされたのは金継ぎをモチーフとした作品。新たなるテーマに着目し、さらにご活躍される佐々木さんに、金継ぎをイメージした作品に対する想いを語っていただいた。
「金継ぎは壊れているものを直す技術のため、不完全さや、元の姿よりもっと美しくする、これを表現をすることがテーマです。この不完全さは自分のコンプレックスから降りてきたもので、また、私は完璧な人よりも隙のある人やちょっと変わった人が魅力的だと思うのです。長く生きていると、嫌な思いをしたり傷ついたりすることがありますよね。そのかつての傷をじっくり向き合って修復していくことや、自分の不器用さやコンプレックスをも受け入れていく過程も大切にしたいと思っています。このような傷を修復するのも素敵だなと感じます。」
「これまでの活動を振り返ってみると、できないかもしれないと苦しみながらも仕上がったときには、とても嬉しさを感じますね。イメージの色を塗って配置を考えるなど、さまざま試行錯誤をしながらコラージュして、それでも何日も気に入らないことがあり、完成するのに1〜2週間ほど掛かることもあります。すると、最初に感じていたことの記憶が薄れてしまうことがあるのですよね。ただ、その記憶が薄れるのも面白いもので、自分の思い込みや気持ちがどんどん加わり、また違ったものになるのが新たなる魅力だと思っています。」
佐々木さんは元々行動力のある方で、海外へも視野を広げて活動し、自信の夢を叶えている。日本・海外、どちらでも活動経験があるからこそ、国によってさまざまな違いがあるのだとか。佐々木さんが語る各地での反応の違いや印象的なエピソードが興味深いものだった。さらに、海外市場も含めた佐々木さんが考える今後の展望についても伺った。
「海外では墨と花を掛け合わせた作品を展示をすることで、その物珍しさに、多くの反応をいただきました。とくにアメリカの方はリアクションが大きく、わかりやすいのでとても嬉しかったのを覚えています。一方、フランスの方は真剣にじっと作品を眺め、向き合っている姿が印象的でした。また、作品への反応も言葉が豊かで非常にアーティスティックでしたね。現在、フランスの方とプロジェクトを進めているので、今後も日本に留まらず海外への市場も視野に入れていきたいと思っています。昔から海外の方と活動していきたいと思っていたので、その夢が叶って本当に幸せです。今後は、コンサートで音楽を聞いて、そのイメージを作品に落とし込むなど、表現の幅をさらに増やしていきたいですね。」