Interview: 福本清華

既成の枠にとらわれず
ピュアな感性で描く国際派 福本清華

“ 原点は、映画と幼い頃の海外生活 „

 
 
何気ない風景の写真の中にちょこんと描かれた、ちょっとユーモラスな猫。
描いたのは、「猫のアカンポ」シリーズでニューヨークやパリのアートショーにも参加する福本清華さん。福本さんが初めてアートに出会ったのはモスクワだった。
 
 
「小、中学生くらいのとき、親の仕事の都合でモスクワに住んでいました。
モスクワはアートがとても身近に感じられる街。街自体がテーマをもってデザインされていたりしますし、美術館も多い。
アート好きな母の影響で、幼い頃から美術館にはよく連れて行ってもらっていました」

 
 
ヨーロッパを周遊して美術館を回ったこともあるそう。
 
 
「親の同僚に『おもしろいおじさん』(笑)がいて、その人がヨーロッパへのロードトリップへ連れて行ってくれたんです。モスクワからフランス、イタリア、イギリスとずっと車で、途中の美術館という美術館を全部見せてくれて。子どもの私にとってすごい体験でした。
日本人離れした自由人でしたが、『行きたいところへ行って、やりたいことをやる』という意味ですごく影響を受けたと思っています」

 
 
モスクワでの暮らしについて聞いた。
 
 
「当時のモスクワは治安も悪く、今よりもっと人種差別がひどい時代。
難しい状況も見てきたので、知らず知らずのうちにコミュニティにうまく入っていく方法が身についたのかもしれません。
その経験は、今、海外で活動する上で役立っています」

 
 
福本さんのもうひとつの原点は映画のポスターだという。
 
 
「「子どもの頃から映画はすごくたくさん観ていました。
家ではゲームやアニメは禁止だったんですが、映画ならホラーでもOK。
今も映画は大好きで、ずっと見続けています。
特に映画ポスターは好きですね。一枚の絵の中にストーリーや世界観が詰め込まれていて、でも結末には言及せずに観る人の想像に委ねる。いつかこんな絵を描いてみたいです」

 
 


 
 

“ 挫折の先に見い出したアーティストへの道 „

 
 
絵が好きだった福本さんだが、すぐに絵の道に進んだわけではなかった。
 
 
「いろいろやりたいことが多い子だったので(笑)。
エンジニアリングやメカニカルなものに興味がありました。理系だったんですね。航空力学も学んで、そういった仕事に就こうかと思って勉強していました。
ところがそのころ体調を崩してしまって入院し、ほとんど起き上がれないくらいの時もありました。少し体調が戻ると航空系のアルバイトをしたり、好きだった写真でフリーのカメラマンとして活動したりしたのですが、10年くらいはきちんとした形で社会に出ることができませんでした」

 
 
入院中に誕生した「猫のアカンポちゃん」シリーズ。
 
 
「なかなか外には出られない、でも何かしたい。それで母に絵具を買ってきてもらい、飼っていた猫の絵を描きはじめました。
猫のアカンポはすごくなついていたので、入院で離れなければならなくなって本当に寂しかった。私が寝ているときもずっとそばにいてくれて、「大丈夫だよ」と言ってくれているようで。
それが自分で撮った写真にアカンポを描き入れる『アカンポちゃんシリーズ』の始まりだったんです。『どんな時にもアカンポが「大丈夫だよ」とあなたのそばにいてくれる』というメッセージを込めた作品です」

 
 
「猫のアカンポ」海外デビュー!
 
 
「なにしろ時間だけはあったので、アカンポを描いて毎日インスタにあげていました。
そうしたらニューヨークから連絡がきて、ショーに参加しないかと。最初は詐欺かと思ったんですが(笑)、ちょうど回復してきた時期で、お医者さんの許可も出たので思い切って行くことにしました。詐欺でも構わないというくらいの気持ちでしたね。
もともと何でも挑戦したい性格なのに、病気で何もできなくて。自分の中でいろいろ溜まっていたんです。幸い詐欺ではなく(笑)、無事に参加できました」

 
 


 
 

“ 海外でつかんだ画家としての手ごたえ „

 
 
フランスでのアーティスト・イン・レジデンスにも参加することに 。
 
 
「NYでの活動をインスタにあげるとそこからまた声がかかって、幸運なことに次々と海外での活動の場が広がっていきました。
フランスでのアーティスト・イン・レジデンスも、インスタを見た主催者から声をかけてもらって参加したんです。
色々な国から若手アーティストが集い、切磋琢磨しながら制作活動していくプログラムは、素晴らしい体験でした。
初めて大きなキャンバスで自由に制作した経験は、油絵を本格的に勉強するきっかけにもなりました」

 
 
海外での活動で印象に残ったことは?
 
 
「競争は本当にシビア。ライバルを蹴落とすのは日常茶飯事です。
確かに学歴や経歴は重視されない。けれど「今、あなたは何ができるのか」をいつも問われます。中にはやっぱり『アジア人とは話したくない』と面と向かって言う人もいます。
黙っていたらはじき出されるような世界に、どうやって飛び込んで自分を認めてもらうかを常に考えていました」

 
 

福本さんは今、どんなことに取り組んでいるのだろうか。
 
 
「意識しているのは自分自身の基盤づくり。海外での活動を通して、自分のベースとなるものをしっかり持つことの大切さを学びました。
古典的なテーマの油彩も描きたいのですが、ただ古典をなぞるのでは意味がない。古典を扱っても、自分の基盤に立った作品にしていきたいと思っています。
そのためには絵を描くだけでなく、いろいろな体験をし、多くの人とつながりを持つことが大事。絵以外の経験によって得るものは、いずれ絵に生かされる。
今がその時期だと思って、展示の企画や、映像作品の制作など、あらゆることに取り組んでいます」

 
 
作品の印象そのままに、バイタリティ溢れる福本清華さん。
彼女なりの基盤を築きつつ、作品がどう変化していくのか。注目していきたいアーティストだ。