「小さい頃から絵を描くことが大好きだった私は、絵を描くことに関わる仕事をしたくて、日本とNYでファッションデザインを学び、NYでデザイナーになりました。NYでデザイナーとして活動した数年後に、帰国。アパレル企業で商品開発兼バイヤーとしての経験を積んだ後に独立し、デザイナーやディレクター、ドール服作家といった多ジャンルに渡る服飾関係の仕事にトータルで20年程携わりました。」
小学生の頃、読書と絵を描くことが好きだった藤平さんは、好きが転じて自分でも漫画や小説を創作して過ごしていたそう。ココ・シャネルとの出会いからファッションデザイナーを目指すことになり、夢を叶えてNYでデザイナーとしての活動を始めた。しかしながら、日本でのキャリアがないことに、ふと違和感を持った藤平さんは、日本でのキャリア形成を試みる。持病の発症や出産を経て、興味関心の対象が変わろうとも、興味をキャリアに手繰り寄せる力は決して変わらなかった。どんな興味分野でもキャリアとして成り立たせてしまうのだから、どれほど器用な方なのだろう。しかし、どの活動も「あれ?」と立ち止まっては、元々持っていた「絵が好き」という原点に立ち戻ってきていた。
「デザインは、とても楽しくやりがいのある仕事でしたが、求められたものを形にする作業。創作とはちょっと違うんですよね。時の流れとともに、自分の絵を描きたい想いが年々強くなり、絵を描いていく決意をしました。そのため、デザイン等の他の仕事は一旦ストップ。そして、2022年6月に本格的に画業を開始し、今に至ります。そこからは絵を描くことをメインに考えて活動していて、ご縁があったギャラリーさんの展示会に出させていただいたり、自分で公募に応募したりしています。」
「制作する際には繊細さを大事にしたいと思っていて、色を強く使っても優しい印象を残せるように、色のハーモニーにこだわっています。アンティークのような落ち着いた色調・深みのある色彩に整えつつも、透明水彩らしい透明感を感じられるように意識しています。」
アンニュイな表情をした可愛らしい少女たちは、思わず吸い込まれてしまいそうな優美さと、触ると壊れてしまいそうな儚い淡さを兼ね備えている。その世界観は、ファンタジー小説のようだ。描いた絵が見る人の感覚や感情を呼び起こす「きっかけ」になることを願う藤平さんは、創作活動の軸として、“想いは永遠に連鎖する”を掲げている。
「人の気持ちって連鎖すると思っているんです。例えば、ニコニコしている人の近くにいれば、自分もちょっとニコニコしてくるし、逆に不機嫌な人の近くにいると、自分もなんとなく嫌な気持ちになってしまう。人の感情は無意識的に伝わってしまうものだから、気づかない間にどんどん連鎖して、最終的に地球の裏側まで行くんじゃないかと思っている。それなら、いいものを放った方がいいと思っていて、絵も一緒だなと。
心がほわんとしたり、懐かしい気持ちになったり、単純に可愛いなってキュンとしたり、絵を見ることで生まれる、その人その人の感覚を大切にしていただけたら嬉しいです。それが、見る方にとっても、連鎖していくことで地球にとっても、いいものになるんじゃないかと。
他方で、時には強い思いを持って作品を描くこともあるので、ズキンと響くことがあるかもしれないません。だけど、人には喜怒哀楽があるから、ネガティブと言われる感情も、ポジティブと言われる感情も、両方あるのが当たり前だと思っています。自分の中にある感情は全部大事なんだよという祈りも忍ばせています。」
「自分発信のアイデアは日常の中で不意に思い浮かぶイメージで、アウトプットが上手くできないことはあっても、アイデアの着想でスランプに陥ったことは一度もありません。インプットは意識的にしていますが、日常で目に触れるものすべてが私にとっては刺激なんです。
そして、デザイナーの頃から同じで、頭の中にある完成形に、手元の絵を近づけるイメージで描いていきます。こうやって塗ったら近づくかな、といった感じで、頭の中にあるものを具現化しています。」
発想力に秀でた藤平さんは、制作よりもアイデアが湧くスピードの方が早く、アイデアのストックは溜まる一方なのだとか。目の前の興味や楽しさをキャリアに繋げてきた藤平さんには、未来のアイデアも見えているのだろうか。
「この先もずっと画業を続けていき、自分の絵を広く知っていただきたいです。過去、自分の興味に従って珍しいキャリアを辿ってきましたが、毎回“絵”に戻ってくるんですよね。それは、とにかく絵を描くことが好きだから。これまで様々なチャレンジをしてきましたが、あっという間に時間が過ぎてしまうほど、のめり込んで没頭できることは、絵が一番です。
画業を軸に活動しつつも、他にやりたいこともいくつかあります。一つは透明水彩以外の画材である日本画の再開。もう一つは、自作の絵本や、物語とはまた別の文章と絵を組み合わせた書籍の出版です。これは、小さい頃から漫画や小説が好きだったことが影響しています。小学生の頃、友達とリレー小説を書いて遊んでいたくらい、私にとって文学は身近なものでしたし、今でも文章を書くのが好きで、数種類のSNSの発信も楽しんで続けています。とはいえ、絵本作りのメソッドはまだ持っていないので、これから学んでいきたいです。」