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Interview: frénésie

作品に込められた“frénésie=狂熱”。コロナ禍から独学で本格活動

日常の風景やどこか見覚えのある共感できる風景でありながらも、緊迫感や静けさ、寂しさなど感情を揺さぶる作品を描くfrénésie(フレネジー)さん。そのルーツや作品に対する考えを語ってもらった。
 
 
 

“ 観る側から描く側へ „

 
 
ーまずは、活動歴と活動のきっかけを教えてください。
 
 
「コロナが流行り出した2020年4月頃から絵を本格的に描き始めました。元々、絵を観たり美術館に行くのが好きだったのですが、ふと、『民衆を導く自由の女神』を模写してみようと思って。
描いてみたら絵の面白さとか描く側の視点にハマりました。そこから描き続けて、最近になって日本橋Artさんとかとの出会いもあり、ただ描くだけでなく、販売や色々な試みをして幅を広げていこう、チャレンジしようと思って今活動しています。」
 
 


 
 
ー『民衆を導く自由の女神』のどんなところに惹かれましたか?
 
 
「女神の足元には死体が転がっていたり、横には両手に拳銃を持っている子供が描かれたりしているのですが、この絵を観た時に目を塞ぎたくなるような人はあまりいないと思うんです。
それは、そういう悲惨な状況を霞ませるくらいの革命のエネルギーがこの絵から出ているからだと思っていて。そこに感銘を受けて、自分もそういうエネルギーみたいなものを描きたいと思いました。」
 
 
ーそのエネルギーは、作家名の「frénésie(フレネジー)」=「狂熱」にも繋がりますね。
 
 
「絵を描く前からこの言葉とは出会っていて。ずっと頭の中に残っていたので絵を本格的に描こうと思った時にこの名前にしました。作品ごとにコンセプトは違いますが、“狂熱”には、人間の感情は単純ではないので、ただ綺麗に描くのではなく、ちょっとした変化や違和感、苦しさや悲しみ、暗い現実もエネルギッシュで際限のない“人間美”として描いていきたいという思いも込められています。」
 
 
 

“ 街や人々の痛みを“補色残像”で表現 „

 
 
ー代表作を教えてください。
 
 
「『colours complémentaires』です。活動を始めて半年間は写真を見ながら風景を描いたりしていたのですが、この作品は初めて自分で意味合いをもたせて描いた絵です。」
 
 


 
 
ーどういう意味合いがあるのでしょうか?
 
 
「作品名はフランス語で“補色”という意味なのですが、第二次世界大戦後のポーランドの前衛画家ヴワディスワフ・ストゥシェミンスキの作風に影響されて描きました。戦争の血生臭さを見せるために赤色を使わず、あえて補色である青色を使う。すると、青色を見た後、目を離して別のところを見ると赤色が浮かんでくるんです。これを“補色残像”と言うのですが、これを勉強した時に、色でこんなに意味合いを付けられるんだと思って、その補色を意識しました。」
 
 
ー『colours complémentaires』も赤色を使っていないですね。
 
 
「この絵を描いた時は2020年9月頃。コロナ禍でロックダウンとかもあり、街も厳しい状況でした。みんな疲弊していたし病んでいた。血は出ていないですが、そのくらいのダメージはあったと思います。その状況を赤色を使わずに、ちゃんとその痛みがわかるようにリンクさせようと描きました。」
 
 
ー閉ざされた中での寂しさも感じます。
 
 
「部屋の内側はアクリル絵の具、外側は水彩絵の具を使っています。窓の外の景色は一見普通っぽいけど、内側は粗々しい。色以外の部分でも表現しています。」
 
 
 

“ オリジナル作品と商品に対する考え方 „

 
 
ー絵は独学ですか?
 
 
「基本的に興味を持った作家さんや作品から学んだりします。それ以外にも、猫を描いた『à l’avenir 』は、安部公房の『第四間氷期』の未来に対する考え方が面白くてそこから学んだことを絵に転換していたり、積乱雲を描いた『roman』は漫画『ONE PIECE』の空島編に影響を受けていたり。そういうのも多いです。」
 
 


 
 
ー今後の展望を教えてください。
 
 
「今年、来年と個展や企画展をやりたくて考え中です。最近だと地元の熊本のバーで、桜の季節に合わせて白い花の絵をいくつか飾ったりしました。一番したいのはオリジナルの絵を見てもらうための個展。僕、オリジナルの絵は売りたくなくて、最初にオリジナルの絵を描いた後に、コピー版というか売る用(商品用)の絵も描くんです。」
 
 
ーそれはどうしてですか?
 
 
「オリジナルの作品は自分のために描く。とにかく自分が思ったこととかを突き詰めて100%を目指す。逆に商品は買う人のことを一番に考えないといけない。だからアプローチの仕方が変わってくる。名前の由来である“狂熱”とも関係するのですが、オリジナルを描く時には夜中に平気で4、5時間描く時もある。細かいところが気になったり、ゴールに向かって思いを詰め込みながら自分が納得するまで描く。ただ、それって買う側からしたら細かすぎて伝わらないと思うんです。例えば、時給換算してその4、5時間分の金額をのせる必要があるかと言われたらないんです(笑)。だったらそこは分けた方がいいかなと。」
 
 
ーなるほど。やはりオリジナルと商品用ではかかる時間も違いますか?
 
 
「今は働きながら絵を描いているので、オリジナルは1か月に1作品が限界。その後、商品用は1日で描きます。」
 
 
ー今後の目標はなんでしょうか。
 
 
「絵を描く前からずっとフランスに行きいという思いがあって、来年、再来年あたりにはと思っています。フランスを拠点に色々な場所に行ってみたい。それが今の目標のひとつでです。」
 
 
ー最後に、絵を描いてきて嬉しかったことを教えてください。
 
 
「自分で納得するものだけを描いてきたけど、意外と“いいね”“すごいね”って言っていただけるのが新鮮で驚き。その人のことを思って描いたわけではないけど、そういう言葉をもらえるのが嬉しいです。熊本のバーには、コロナ禍で飲食業が厳しい中、“頑張ってください”という思いを込めて描いた絵(=『à l’avenir 』)もあります。もちろんのことですが、誰かのためを思って描いて喜んでいただけたのも嬉しかったです。」

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