幼少の頃から画家であることを自覚し、独学で作品を生み出してきたCHICHIさん。その現実離れした童話のような激動の人生とそこから生まれる作品についてうかがった。
—いくつか作品を拝見して、色使いや線の描き方に温かさや自由さを感じました。
「ありがとうございます。でも、人によって感じ方は違ってきますし、私の作品はわかりやすくない作風だと思います。特に、近年は人生で色々あって大変だったのでちょっと作風が変わりました。」
—プロフィールによると、2009年と2011年に不適切な医療措置により片目が不自由になり、その他に現在も後遺症を抱えているとのこと。そのタイミングで作風が変わったということですね。
「そうですね。人生の境目です。私の中ではアートはずっと華やかなイメージのままですが、現実世界においては前半(=片目が不自由になる前)は人生を謳歌していて明るい“赤の生”、後半から現在までを天から地へ落ちる“青の生”と呼んでいます。後半はずっと呪いにかかっている感覚です。」
—「天から地へ落ちる」「呪いにかかっている」と聞くと、作品もおどろおどろしい感じをイメージしますが、そういった内面が反映されている訳ではないと。では、“赤の生”と“青の生”の作風で変わったのはどういうところでしょうか?
「気持ちの面も多少ありますが、物理的に大きく変わりました。不自由になった片目は全く見えない訳ではないけれど、光にとても弱いため暗闇で描きます。そうすると色がわかりづらいので陰影の感じで色を判断しながら描いて、出来上がりをスキャンしてデータで見た時に、“こんな感じなんだ”と初めて自分の絵に出会います。」
—それはかなり集中力や体力ももっていかれそうですね。
「生まれもった感覚や知識を研ぎ澄ませて命を削って描かないとできない感じです。不自由になる前は描くのが楽しくて仕方がなくて、見栄えも気にしながらあっという間に描いていましたが、今は見えない中、探り出しながら頭に出来上がっているイメージをどうにか現実世界に出さないといけない。感覚との対話です。」
—“赤の生”と“青の生”、それぞれの代表作だったり思い入れのある作品はありますか?
「“赤の生”の代表作はあります。私の本名でもある『Chiharu(千春)』です。モナコでも展示されました。愛をテーマにした私らしい絵というか、パリで気に入った噴水からインスピレーションを受けて描いた作品。後々、その噴水はニキ・ド・サンファルの作品というのを知りました。」
—順風満帆だったヒロインが突然、しかも何度も悲劇に見舞われながらも希望を捨てず前に進んでいく。というような、まるで童話だったりディズニー的な生き方ですね。
「その人生は、色と作品にも強く関係しています。CHICHIは色の王国のお城に住んでいるような存在で、さまざまな色を司る者。 ある日突然、嫉妬から黒の国の誰かに黒の呪いをかけられ、光の世界(=白)から闇の世界(=黒)へ突き落とされてしまう。それによって王国は色の歪みが生じてしまい、CHICHIは元の美しいカラフルな王国を取り戻すべく、作品を通し闘いながら、落とされた闇から白の力=愛と真実と純粋の力で頑張っている。というイメージです。」