アートテラー・とに~

日本でただ一人しかいない職業「アートテラー」とは?


-アートツアーなどやっていらっしゃいますが具体的にアートテラーとはどのようなお仕事ですか?

アートツアーはやっていますが、それはお金はいただいていないです。僕はアートを広めたい、アート好きの方同士をつなげたいという一心で活動しているのですが、そもそも美術のイベントにお金を払って来る方はすでに美術が好きなのだと思います。だから最初のハードルを下げるためにアートツアーは最初から無料でやっています。ただ講師を呼ぶときは講師代をお支払いしたいので講師代として参加者の方にお願いすることはあります。

中には美術に興味がないけど来ましたという方もいらして、アートツアーを続けていくことで様々な参加者の皆様とお話しする機会ができて、結果的に業界のためになるような貴重な意見を頂けるようになりました。アートツアーを無償でやっているというとかっこつけているように思われるのですが、そういう方々を含めて多くの方のご意見を聞くことができるのでおそらく僕はこの業界の中で一番一般の方の意見をもらっている存在だと思います。

なので、アートツアー自体は無償でやっていますがお金を払ってでも手に入れたい情報を僕はもっていると思っています。毎週末開催していてだいたい毎回15名程度は集まってくれています。仕事として多いのは連載と講演ですね。他には出版やラジオやテレビなどへの出演、時々小学校などへの出張授業などやっています。

自分で言うのもなんですが、割と喋れる方なので司会の仕事なども入ってきますね。ちなみにアートツアー内でカップルになった方が結婚したケースが10件以上あって、うち3~4件結婚式の司会もやらせていただきました。

ちなみに2020年2月に新しい書籍『東京のレトロ美術館』が出たのですが、このロケはトータルで1ヶ月くらいはロケに使っていたと思います。本当に大変でした。。。美術館側は開館前に撮影して欲しいのでそれこそ朝8時半に町田とか朝8時に青梅集合で1本撮ったら解散みたいなことも。。。

『東京のレトロ美術館』
出版社: エクスナレッジ

 

-出版社のエックスナレッジさんはどのような会社ですか?

建築業界ではもっとも有名な部類に入る出版社です。
実はもう十数年建築家と一緒に回る「みんなの大東京建築ツアー」という建築ツアーもやっています。3月下旬からやって夏の暑い時期はお休みしてまた秋やって冬はお休みという開催の仕方をしています。

 

-なぜ建築ツアーを?

アートツアーのお客様の中に建築展って何が楽しいかわからないとおっしゃっている方がいました。確かに建築展でパネルや模型などを見てもあまり面白くはないんですよね。だから僕も同意する部分があり「じゃあどうすれば面白くなるかなー」と考えて。
ちょうどその頃建築家の知り合いが増えたので東京を美術館に見立てて建築ツアーをできないのかなという話になって、それでやってみたら意外と需要があることに気づきそれからやるようになりました。

 

-建築ツアーとはどういったところを回るのでしょう?

最初は東京タワーとか国会議事堂とか有名どころを回ったら良いですかね?なんて話をしていたらポカーンとされてしまって。。建築家として見せたいところはまた違っていて、上野、築地、表参道などが挙がって伝説の1回目は僕もわからないなりに回りました。当時は知識ゼロながら面白くて、回りながらツッコミ入れたり掛け合いしながら進めていきました。

「楽しいな〜このツアー」と我ながら思っていたのですが、気づいたらお客さんの口数が少なくなっていたんですね。

 

-疲れてしまったのですね(笑)

そうです。休みもなく都内縦断していたので当然ですよね。

一緒に回っていた建築家の方は僕より20個くらい上だったのですがかなりタフで、僕も思いっきり楽しんでしまっていたので後半参加者がしゃべらなくなっていたことに気付かないくらい楽しんでしまっていました。

その後参加者からのメールで「楽しかったのですが後半はしんどかったです」というメールを結構いただいて、「これは良くない。ちゃんとやろう」と思って、それからは渋谷編なら渋谷、上野編なら上野と街を決めてやるようにしました。もう十数年やっているのでブラッシュアップしながらやっていますね。

遠出もしましたよ。多摩の方とか八王子の方とか、昔はそれこそみんなでバスを借りていきましょうってやっていましたけど、最近はちょっと時間が取れなくてそこまではできていないのですが。。

町工場巡りや廃墟巡りなども話としては出るのですが、僕の基本スタンスとして「アート関係以外のことはしない」というのがありまして。例えば廃墟でも廃墟好きの写真家さんと巡る廃墟ツアーとかだったらギリギリアートと言えなくはないのですがただ巡るだけでは「これはアートと言えるのか?となるので要素としてアートを入れないと僕としてはちょっと企画、参加ができないのが現状ですね。

 

-アートテラーのお仕事で辛かったことはありますか?


初期ですね(笑)正直最初はアートテラーで食べていけるなんて想像していなかったですから。元々芸人からスタートしていたので、やっぱ下積みというか苦労のようなものは絶対にあると思っていましたし、売れていなくても危機感のようなものはあまりなかったというのが本音です。

とはいえ、コネクションもなく美大を出たわけでもなく本当にど素人がアートについて語る、、、ブログで展覧会の3つ星評価を始めたのも食べログのように展覧会を紹介しても良いじゃないかということを見せたいだけなのです。
僕はアートが広がらないのはそこだと思っていて、良いと思った時は良いというのですが悪いと思った時はみんな口を噤みます。だから盛り上がらない。映画ってヒット映画がみんな面白いと言っていても、中には面白くないと言う人もいると思うのですがそれで盛り上がっていると思います。食べログも同じで、「このお店は美味しいけど高いよ」みたいにポジティブな意見にネガティブな意見があると信頼に値するのになぜかこのアートの業界はポジティブな意見しか表面化しなくて。なぜネガティブな意見が少ないかというと、ネガティブな意見を言うと「この人はセンスのない人だ」と思われたくないのではないかと考えています。

アートって感受性の部分がほとんどだから10個に3つですよ、感覚的に楽しい展覧会は。あとは知識とか話を聞くから楽しいのであってノーヒントで楽しい展覧会ってそうそうないと思っています。だからつまらなかったよとかよくわからなかったと思ったなら、そう言えば良いと思います。だってお金払っているのはお客さん側なのに、なんで自分の意見を飲み込まなきゃいけないんだと。映画と同じ感覚で「1800円払った価値なかったよ」と言っても良いと思うし、その方が美術業界は盛り上がると思うのです。
様々なメディアで展覧会の紹介をしていますが、どこもみんな褒めています。僕が初めて行った展覧会はたまたま面白かったですが、2回目に行った展覧会はつまらなかったですよ。でもそういうことを言わせてもらえない、言ってはいけないような雰囲気を感じましたよ。
僕は最初がたまたま楽しかったからそれ以外も行ってみようと思えて、結果的に他にも楽しい展覧会があったので今があると思います。

 

-映画でも大物批評家のような存在はいますからね。

そうなんですよ。でもこの業界にはいないと思います。

だから僕は「何を言っても良いんだよ」という立ち位置でいたいから、「この展覧会はよかったよ!でもこの金額でこの点数はちょっとな、、」ということもありますし、そういう本音をブログに書くようにしています。

正直昔の方が内容は辛辣でしたけどね。昔はお金がなかったので日割りすると1日1000円も使えませんでした。だから美術館の展覧会に行くということはその日ご飯を食べないくらいの気持ちで行くということでしたから。だから当時の1500円とかは死活問題だったので、展覧会に行く時は本当に真剣に行っていました。

だからこのブログを始めた時は業界からまぁ、嫌われに嫌われて。僕は良いと思った時は良いと書いていましたし、読んだ人が不快にならないように笑いを込めて書いていたのですが、「こんなブログがあって晒されているよ」なんて言われているということを風の噂で聞きました。
なので、この業界の人からは無視されるか嫌われるかのどちらかというのが2011年くらいまで続いていました。

美術界を盛り上げたいとか美術のよさを伝えたいと思い、良かれと思ってやっていたのになんでこんなに伝わらないんだとすごくもどかしい時期でした。

毎日ブログを書いて発信しているのに、「これは一体何になるのだろう?」と思いながら、、3年間海に石を投げ続けているような感覚です。もはや完全に意地で書き続けていました。

 

-美術業界からいわゆる総スカンを食らっていたのに今では美術業界で様々な方から声がかかるようになっていると思います。そのきっかけはなんですか?

あまり公に言うべきではないかもしれないのですが、、、東日本大震災の時ですね。

それまではお金があれば展覧会ってできていたと思うのですが、そのタイミングで多くの展覧会が中止になって、以降コレクションを別の見せ方をしないといけなくなってきたと思うんです。その時に「このコレクションをどうにかして面白く発信したいんだけど」という連絡を色々な方からいただいて、色々と提案をして、そこからですね。美術館がエンターテイメントを求めるようになったのは。

3.11で展覧会が軒並み中止になってしまって、それから何か別の魅せ方をしないといけないとという危機感をみんなが持ち始めて、よりエンターテイメント性を求めるようになったと思います。

もちろんそれだけではなくツイッターやインスタなどSNSが普及して口コミなどで美術に興味がある人以外にも広げていきたかったとか、年配の学芸員さんが退職されて世代交代のようなことが起こっていたのもその時期でした。
あとはある学芸員さんに言われたのが「最初はアートテラーとかいう美術をよくわかっていない人がブログで好き放題書いているって思っていたけど、アートツアーをやっているのも見ているし口だけではなく、この業界で最も展覧会に行っていると思うからその人が言うのであれば納得できると思えるようになった。」と。実は美術業界って知識が広く浅くの人って意外といないと思うのですが、この業界で誰よりも広く誰よりも浅く知っている人だと言われてそれが僕の強みだと思っています。

だから毎日展覧会には行くようにしていて、結果的に年間700~800行くのを自分に課しています。だからアートテラーという仕事はちょっと売れたとしても胡坐をかいて良い仕事ではなくて、足で稼いで色々な展覧会を見てどんな展覧会が今はやっているのかを常に学び続ける必要があると考えています。

アートテラーをやっているのも浅く広くにつながる部分があって、アートツアーで色々な展覧会に行くと「若い人が多いな」とか気づくわけです。概ね若い方に人気のある展覧会って午前が空いてて午後から混むんですよ。逆に年配の方に人気の展覧会は午前中混むんです。よく「この展覧会どうですか?」って聞いてくる方って、そういう情報を求めていると思うんですよね。グルメレポーター的な立ち位置でつたえることができるので。その立ち位置を大事にしているから美術館の展覧会を見に行くと、「最近どういう展覧会が流行っているの?」って聞かれると思うんです。

元々吉本にはお笑いがやりたくて入ったけど、吉本には履いて捨てるほど芸人はいっぱいいるので1か月に1分しか出番のないこともあります。まぁ若手なのでしょうがないのですが。そんな時に横浜美術館で1時間から1時間半くらいやらせてもらえたので、だったらこっちを極めてみたいなと思いましたね。

で、美術館で話をしてみたらご年配の方ばかりだったのですがびっくりするくらいにウケて、もうこんなに爆笑するか?というくらいにウケて。
ただ、僕の話が面白かったねでは意味がないので僕の話はあくまで前座と考えているのです。だからその後の展覧会で楽しんで帰ってほしいなといつも思っているのですが、実際僕の話のあと会場でみなさん展示作品に対してどんな反応をしているのかなと思ってこそっと覗いてみたんですね。

僕の目の前で笑っていたご夫婦が僕が紹介した絵の前に立っていたのでこそっと話している内容を聞きに行ったのです。その時に作家さんが脚フェチであることを仮定して話をしていたのですが、そのご夫婦は僕の話を引き継いで「これはすねフェチか、ももフェチか」という口論に近いやり取りをしていて、それは僕の中では非常に大きくて、もし面白おかしく伝えていなかったらこの方々はこの絵をスルーしていた可能性が高いと思うんですよね。そういうこともあってその瞬間に「アートテラーでやっていこう」と決断しました。

お笑いって好きなんですけど基本的にはその場が楽しいものであって、考えさせたりとか深いネタだったというのは僕のネタ作りの流儀としてしないんですね。
なんかジレンマはあったんですよね作り手として面白いものを作るということと、その「面白い」は聞いている側にとって他の事を何も考えずにただただ面白かった!で終わってしまう、、

一方美術展行くたびに誰かが数百年、何千年前に描いたような絵が残っていて人を感動させているわけじゃないですか?
1年間くらいは同時並行でやっていたので、「果たしてどちらが正しいのだろう・・・」と悩んでいた時期がありました。
でも面白いことをフックにして、聞いている方々の頭の中に残り続けてくれるという点でアートテラーはこの中間だなと気付きました。だから3年間「何やっているんだろう」と思い悩んでいた時期もありましたが、今思えば必要な期間だったのだと思います。

 

-とに~さんの立場で「アート業界をこうやって盛り上げたい」というお考えはありますか?


今でこそ色々なところからお仕事のご依頼を頂くようになって、例えば社長やコレクターになりそうな方をギャラリー等に紹介して作品を購入いただくこともできなくはないと思うのですが、そういったことはやろうとは思っていないです。

昔絵ってもっと身近にあったと思います。1億総コレクターとは言わないですがもっと気軽に絵画を買っていたと思うんです。みんなが買っているからいわゆる富裕層の方々は周りよりもさらに良い絵を買おうと思うはずなんです。だから美術界ではコレクターを増やしたいという声をよく聞きますが、それならまずは100人の「美術があればいいな」と思う人を増した方が良いと思うんです。100人いればその中の1人くらいはみんなと違うものが欲しいってなると思うんでが、今の美術業界ってこの”1”を求めている傾向にあると思います。
単純に最初の購入価格が1万であってもそういう方を増やして行けば、コアなコレクターはおのずとあらわれてくると思うんです。でもその100を作ることって時間もかかるし、地味だし、誰もやっていないしなかなかできないと思うんですよね。だから僕はそれをやっていこうと思っています。

最初は「アートファンを増やしたい」という気持ちでアートツアーをやっていたのですが、結局「じゃあどのくらい増えたの?」と聞かれてもわからないんですよね。当時土日はホテルの結婚式場でバイトをしていたんです。
でももっと追い込まないと人に伝わらないなと思ったので、社員候補ではあったのですがホテルのバイトを辞めさせてもらいました。正直金銭的にはきつかったですけどそれが美術ファンの人には伝わって、計算すると年間で2400人くらいは美術館に人を連れてきていることになるんです。「できるんだよ!」というのを魅せたかったという考えもありますが。

例えば美術館の内覧会には非常に多くの方が来ているんですよね。僕一人でこれだけ連れてこれるのですから、関わっている人全員が同じくらい連れてこれればものすごい人数になると思うんですよね。
地味だし結果もすぐでないですけど、でも誰かがやらないといけないんですよね。
だから僕は高いのは買えないけど美術品を買いたいなという人を増やしていきたいなと考えています。

 

-最初横浜の美術館からお仕事が入ったと伺いました。どのような経緯でお話が入ったのですか?

当時はmixiで美術のレビューと日記で時々美術のブログを書いていました。結構美術のことを勉強しながら記事を書いていると、時々僕のお話を直接聞いてみたいという方が表れるようになって、でも当時コネクションなども全くないので「できたら良いですね」くらいに返信をしていたんです。
それが1年半くらい続いてある時過去の記事を見返していたら、毎回「できたら良いですね」の繰り返し。これは人としていい加減な人間だと思われるなと思ってダメ元で美術館に交渉をしてみたんです。最初人数を聞かれたので、まぁ5人くらい来れば良いかなと思って「5人くらいだと思います」と答えたのですが実際に手を挙げてくれたのは45人くらいいて、美術館に話をしたら「ギャラリートークのようにこじんまりとやるのは良いけど、45人は話が変わってくる。ちょっと打ち合わせをしましょう」となって、それで美術館が場所を貸してくれたのが最初のアートツアーですね。
で、アートツアー当日美術館にある学芸員さんがいて、「お前が今日なんか面白いことをやるって奴か、見とくからな」なんてヤクザのような学芸員さんがいてなんだこの人はと笑
で、1時間くらいトークをして終わった後その学芸員さんに面白かったからレギュラーでやろうというご提案を頂きそこから横浜美術館とお付き合いをすることになりました。
ただ次にレギュラーでの1発目がものすごくスベりました笑そしたらびっくりするくらい怒られて、「お前お笑いをなめてるのか」と。お笑いの世界でも怒られたことないのに、お笑い論を語られてしまい。
おれの顔に泥を塗りやがってくらいに怒られたのですが、「もう1週やらせてください」とお願いをして翌週やらせて頂いてそれから定期的にちゃんとやらせてもらえるようになりました。
今後は美術館のホームページにも掲載するからちゃんと名前を決めろとなってそれで考えたのが「アートテラー」だったのですが、当時僕のパワポなどを作ってくれていた人に「アートテラー大山敦士(本名)」にすることを報告すると、「美術に興味ない人に興味を持ってもらう人でしょ?大山敦士で良いの?とに~(昔からのあだ名)と大山敦士どっちの方が足を止めると思う?」と聞かれて、確かにそれならとに~だよなと思って「アートテラーとに~」にしました。

 

-今後どのように活動を広げていきたいですか?

美術界のために、何かお役に立てれば。その一心で活動しています。
特に自分自身で、こんなことをしてみたいというような野心は無く(笑)
僕を頼って依頼してくれた仕事は、何でも全力で取り組むの精神で、日々活動しています。それゆえ、まったく想像も付かなかった仕事の依頼もチラホラあります。アートテラーは前例が無い仕事なので、むしろそうやって皆さまに新しい活動を提案を頂いている感じです。
究極は、アートを広めるという仕事があること自体がナンセンスなので(映画を広める、小説を広める、ドラマを広めるという職業は無いわけですから)、アートテラーが必要の無い世の中が来ることが健全なのではないでしょうか。


アートテラーとに~。
日本でただ一人しかいない職業。

「敷居が高い…」「難しい…」
そんな“美術”の負(?)のイメージを払拭すべく、
その魅力をわかりやすく、かつ面白くトークで伝える職業です。
よしもと芸人時代に培ったしゃべりの技術と、
笑いのセンスで独自のトークガイドをしています。
これまでに横浜美術館や森美術館など、
数々の美術館で公式トークガイドを担当。
最近は、雑誌、ラジオやテレビをはじめ、
さまざまなメディアにも進出しています。

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