日本文化を継承するアート販売Webメディア

Interview: 雨端珠生

まるで物語の始まり。思わず童心に返る現代童画の世界

 
 

“ はじまりは”祖母のクレヨンと叔父の油絵” „

 
 
天使や妖精など、見た人が思わず童心に返るような愛らしい作品が特徴の雨端さん。幼少期から絵を描くことが大好きだった彼女の、今でも印象深く残る思い出を聞かせてくれた。
 
「両親が忙しく、よく祖母の家に預けられていました。祖母宅での暮らしは素朴で丁寧で、大切なことをたくさん学ばせてもらいました。中でも思い出深いのは、常に座卓にクレヨンと画用紙などを置いていて、いつでも絵が描けるようにしてくれていたことです。今思えばそれが祖母なりの育て方だったのだと思いますが、祖母の親族は皆そのようにしてもらっていて、絵が好きになっていく子が多かったのではと思います。叔父もその影響を受けた一人だったのだと思いますが、祖母の家には叔父が使っていた油絵セットが置いてあったんです。叔父は本当に絵が上手い人で、子どもながらに”どうやったらこんな絵が描けるんだろう”と眺めていたのもあって、パレットで固まった絵の具たちや油絵の独特の匂いに触れるのが大好きでした。そういった影響で絵が好きになったのだと思います。また、油絵というものに強い憧れを抱くようになりました。」
 
絵を描くことに強い思いを持つ雨端さんの画家活動の原点ともいえる出来事が起きたのは高校生の頃でした。
 
「高校の時、文化祭に出展するために昔大切にしていた熊のぬいぐるみを描きました。そのぬいぐるみは捨てられてしまってもう実物は無いのですが、絵を描いているうちにその子が顕現してくるような感覚を覚えて。あぁ、やっぱりこの子は今でも私の魂の中心にいるんだと感じられて、とても嬉しかったのを覚えています。さらに嬉しかったのは、その絵を見た友人が『この絵を欲しい』と言ってくれたことです。絵を譲り、お礼にともらった犬の貯金箱を前に嬉しさと驚きで茫然としていました。この思い出があるから今でも絵を描き続けていられるのかもしれません。」
 
 


 
 

“ “あの頃の気持ち”で描く。絵への純粋な愛 „

 
 
絵に対する愛情は薄れることなく描き続けていた雨端さんだが、画家になりたいという夢には蓋をして、別の道を歩もうとしていたそうだ。そんな中でも大きな転機となったのは、様々な人たちとの出会いだという。
 
「私の絵をサイトで採用してくださったり、購入してくださったり、お店に置いてくださったり、画廊での展示に誘ったりしてくださった方もいました。今思えば様々な方にあたたかく応援していただいたことを本当にありがたく感じています。ずっと絵は描き続けていて、展示のために教室に通い始めたとき、その先生が『上手く描こうとしない』とおっしゃっているのを聞いた途端、なぜか涙が出てきて。それまでずっと心のどこかで大人になるにつれて、『絵というものは上手に書くことが大切で、いかなるときもうまく描かなくてはいけない』と思い込んでいました。写真の様に描かなくてはいけないのだと、描く前からガチガチになっていて、ずっと苦しかったことに気が付きました。嬉しい気持ちで筆を動かしていた、クマのぬいぐるみを描いたころの気持ちを失っていました。その言葉のおかげで肩の力がふっと抜けたというか、ところ構わず暇さえあれば描いて描いて没頭していた”あの頃の気持ち”のまま描いていいじゃないかと思えるようになりました。それを伝えて下さった先生と、その言葉の元になったその師匠の先生に出会えたことを、とても感謝しています。」
 
“描きたい”気持ちと”上手さ”との葛藤から解放された彼女は、今の自分の絵が一番好きなのだという。
 
「画風にも大きな変化がありました。それまでは本当に自分が描きたいものを人に見せることは怖くて。もし批判されたら、自分が大切にしてきた存在も一緒に否定されてしまうのではと怯えていたのかもしれません。今は、元々憧れを抱いていた油絵の技法と、昔から大好きなパステルを組み合わせたりと、自分らしい画風を模索しています。」
 
現代童画会という公募との出会いも、彼女にとっては大きな意味を持つという。
 
「現代童画会は現代童画を”純粋な心の表現”と考える公募展で、私の絵に対する気持ちをそのまま受け入れてもらえているような、温かく大切な場所です。」
 
 


 
 

“ 物語の入り口になるような絵を描きたい „

 
 
幼少期から温め続けた絵への愛情が作品の魅力となっている雨端さん。天使や妖精といったモチーフも、大切な意味があるという。
 
「私はとても静かな子どもで、母も忙しかったので絵本が友達のような存在でした。辛いことや悲しいことがあっても、絵本の中には天使や妖精、自分と同世代の子どもや優しい大人などが味方をしてくれる。その世界に行けることが嬉しくて、気づけば絵本の登場人物は自分にとってかけがえのない存在になっていました。なので、天使や妖精たちを描くことは、私にとっては昔から自然なことだったように思います。その頃の気持ちを表現したのが『本の妖精』と『妖精はそばにいる』という作品です。この作品は現代童画会で会友推挙をいただけて、絵の背景にある私の想いもあいまってとても思い入れ深い作品となっています。」
 
最後に、創作活動におけるモチベーションを聞いてみた。
 
「私の絵を見た全ての人でなくても、たった一人でも琴線に触れてくれる人がいればそれはとても幸運なことなんだと思います。辛いことや悲しいことがあっても、絵本を開けばパァッと光に包まれたようにその世界に連れて行ってくれました。数え切れないほどの幸せをくれた絵本や物語のように、誰かを温かく包み込むような作品を作れるようになって、また誰かに幸せのバトンを渡したい。そんな物語の入り口になるような、絵から始まる世界を作れたらいいな、と思いながら絵を描いています。」
 
いつまでも純粋な気持ちで絵に向き合い続ける雨端さんらしい、温かく心安らぐインタビューとなった。これからも彼女が描く新しい世界が楽しみでならない。
 
 


 
 

戻る