「福島県福島市出身で、2007年から絵本作家として活動してきました。2011年の東日本大震災を経てからは、復興の祈りを込めて人々を照らすべく、神獣画家として龍を描き始めました。現在は個展を国内外で開催するほか、絵本製作や龍絵製作、各種イベントのプロデュース、子どもむけ工作、絵画のワークショップなどを世界中で行っています」
『ちいさいいのち』をコンセプトに、かわいらしく柔らかいタッチで動物のパステル画を数多く描いてきたあきばたまみさん。震災以降は、コンセプトは一貫したまま、かわいいとは対局と思える幻想的でリアルなタッチで神獣を描き始めました。現在は画家として幅広く活動しているあきばさんですが、絵との出会いは音楽活動をしていた頃に遡ります。
「大学時代ではサークルでバンド活動を行い、卒業後はNYへ留学に行きました。教会でゴスペルを歌うなどといった音楽活動をしていましたが、さまざまな事情からホームレスに。友人たちに助けてもらいながら、2年間の滞在を経て帰国。その後、インディーズのレコード会社に入り、CDをリリースするなど歌手活動を本格化させました。ですが、音楽のストリーミング配信が始まったこともあり、CDは下火になってしまったんですよね。そんな頃に、絵と出会いました。
NYで部屋をかしてくれた画家の友人が、“絵を描いたらいいと思う”とアメリカから空輸でソフトパステルを送ってくれたんです。そこからは、その友人の絵を見よう見まねで必死に描きました。そして当時所属していた芸能プロダクションの社長の協力もあって、2007年に初の絵本『インコの手紙』を出版し、絵本作家デビュー。『インコの手紙』は累計2万部を突破し、いまもなお愛され続けている作品です。その後も全国出版を含め複数の絵本を出版してきました」
「NY生活で“生死”に直面したことによって、私のなかで「いのち」がテーマになるようになりました。いろんないのちが平等にあるなかで、虫や植物など小さないのちにもなるべく気づいていきたい。そんな人が増えたら、事情が異なる他人へも思いを馳せ、ひいては世界で起こっている戦争もなくせるかもしれません」
そうして観るものを癒す絵本作家として活動をしてきたあきばさんに転機が訪れます。2011年3月11日、東日本大震災。そしてその3日後、あきばさんが絵を始めるきっかけとなったNYの画家の友人が肺ガンで亡くなりました。「彼女から絵という使命を引き継いだ気がします」とあきばさん。故郷のために何かしたいと拠点を福島に移し、第二の故郷NYでも福島のことを伝える展示を行いました。そんななか、神獣画家としての活動をスタートさせます。
「福島の復興イベントでライブペイントを行うことになり、着物を着て、音楽に合わせながら、90センチ×10メートルの縦長の紙に、復興の祈りを込めた不死鳥を描きました。すると思っていたよりも楽しくやりがいがあった。そうしてライブペイントの活動を始め、2017年には、NYでパフォーマンスをする機会も。それまでは不死鳥を描いてきましたが、その頃の福島は、つらい経験をしたからこそ多くの人に希望を与えられる存在になっていると考えました。そこで、不死鳥ではなく、縁起の良い龍を描くことに。それ以来、国内外で龍を描いてきました」
その後、2019年お正月に福島の平和を願ってライブペイントで描いた8メートルもの大きな白龍画はご自身を鼓舞する重要な作品になりました。
「思いがけず自分が描いた作品が歴史ある小田鹿島神社の拝殿に今後何百年にも残っていくだろう神様として奉納されました。数百年後に参拝された方にも恥じなく紹介してもらえる画家でいられるよう活動していきたいと背筋が伸びる思いです」
「2012年に、故郷の福島市の百貨店で個展を開いた時のことです。ある女性が、初日に来てくれて、『ハナサキタコ』という作品をずっと観ていました。その時は何も喋らずに帰られたのですが、後日会期中に数回来てくれて、最終日には「お父さん、許してください」と手を合わせて、その絵をお買い求めいただきました。話を伺うと、その方は震災で実家と両親を失い、当時、仮設住宅で過ごしていた方で、暗い玄関に飾る絵を探していたのです。“海をイメージする絵は震災を思い出してしまうと躊躇していたけど、この絵は玄関を明るくしてくれる。今は辛い思い出しかないけれど、自分の故郷を嫌いになりたくない。このタコは、毒や墨ではなく、ハートを吐くようで、故郷を好きでいさせてくれる気がする”とお父様が残してくださったお金で私の絵を選んでくださった。この出来事はとても印象に残っていますね。
絵を売る時は、思いや気持ちの部分を大切にしています。買う側と売る側の波動が重なると、絵は自然とその方に渡っていく。だからこそ、“今日1日ちょっと頑張ろう”って人に希望を持ってもらるような高い波動を出す作品づくりをしていきたいと常々考えています」
絵本作家と神獣画家の2足の草鞋で多くの人にポジティブなパワーを与えるあきばさん。今後についてどう考えているのでしょうか。
「絵本作家としては、目下で進んでいる企業とのコラボレーションや絵本プロデュースを引き続き頑張っていきたいと思っています。また、神獣画家としては、まず直近では雑誌や少し先にはアプリでも私の神獣画を使用してもらう予定なので、多くの人に広く知ってもらえるきっかけになればいいなと。そして、海外好きで定期的に海外でも活動していますが、日本のことをもっと知ってもらうために、海外個展により一層注力していきたいと考えています」