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Interview: 高原美和

ブランク後の初個展で、画家・絵本画家としてスタート

 

簡単に自己紹介をお願い致します。

 
両親の出身地である新潟県生まれで、父が空港勤務のため幼児期は伊豆大島・和歌山県白浜などで過ごし、大学までは千葉県で、大学から現在まで神奈川県です。
作品は静物画が中心で、感じたままの美しさや力を、ナチュラルに表現したいと思っています。
個展での水彩作品の発表のほか、絵本画家として、絵本「めしあがれ」(視覚デザインのえほん)をはじめとして、そのシリーズや児童書の依頼された絵を描く仕事をしています。
 

大学では日本画を専攻されていたようですが、どういった経緯で水彩画を描かれるようになったのでしょうか?

 
日本画はスケッチをした後、小さい下図、実物大の下図を描き、和紙に滲み止めや下塗りを何度もして、絵に入るまでの工程でさえ大変なのですが、私の場合は最初の水彩スケッチのほうが、長期間かけて仕上げた日本画より作品的に良かった感じがしていました。
また、大学を卒業したあと、描きたい気持ちだけあっても、絵から離れていました。結婚して、下の子が幼稚園年長になったときに、時間を使うのが不器用な私でも、水彩なら始められると思ったのです。場所も取らないですので、広いアトリエも要りません。
 

絵本「めしあがれ」シリーズについて教えてください。

 
このシリーズは、お菓子の絵本「めしあがれ」から始まり、パン・おべんとう・フルーツ・おやさい、とあります。文はわずかで、おいしそうな食べ物の絵と、季節なシーンを感じさせる小物や背景が特徴です。

絵本ができるきっかけですが、わたしは水彩を始めてからすぐ、絵を仕事にしたいと思っていたので、たまたま目に飛び込んできた新聞の求人に“絵本の絵の作家”募集というのがあり、絵の写真を送って採用になりました。
ただ、なかなか私の絵に合う文章が見つからないということで二年が過ぎました。絵本のことは半ば諦めて、わたしは銀座で初めての水彩画の個展をしました。その際に、出版社所長さんがいらして、個展のいくつかの果物などの絵を見て、このシリーズを思いついたそうです。個展終了後は早いうちに絵本の絵に取り組み始めました。
モチーフは多くが細部まで決めてもらったうえで、デッサンから描いていますが、当初は大量の写真が送られてきていましたが、わたしが実物で描きたいので、幾度もケーキを作ったり、要望に近いお菓子を探しまくったりしました。
それからシリーズ化となり、“おべんとう めしあがれ”では、一品一品おかずも“作っては描く”ということを繰り返したりと、この絵本では、わたしのお菓子や料理を作るのが好きだったことなども活かすことができました。
現在も多くの書店の絵本コーナーに並んでいます。
 

 

作品を制作する上で大切にしていることはありますか?

一番美しい色を見出すために光を大切にしています。
西南の窓辺で描いているのですが、なるべく一定の光で描き続けたいので、カーテンの位置に白いシーツをクリップで留めて光を調整します。西日が差し込む時間になっても、柔らかい光で描くことができます。
 

制作に疲れた時のリフレッシュは何かしていますか?

 


ヨウムという大型インコが二羽いるので、その子たちと共にいることです。
わたしを群れの一員だと思っているようです。
ほかに、植物の世話をしています。薔薇や果樹、野菜などですが、雑草抜きに追われていることが多くても土に触れること自体がリフレッシュになります。
思えば、長時間ほっておけない鳥達とのために、家でできる仕事をしたいと思ったのが絵本の絵の仕事を始めるきっかけでもありますし、庭の植物はわたしの作品の大切なモチーフになることも多く、リフレッシュ以上のものだと思いました。
 

小さいころから絵を描くのが好きでしたか?

 
学校の授業で描くのは好きでしたが、家では描いていないです。
小学校二年生の時に、鶏の絵を、割りばしペンで墨を使って下書き、絵具で軽く色付けしたものを、先生が絶賛してくれて、初めて自分に自信ができたことを覚えています。また、小・中学校と、千葉公園の絵を描くコンテストが毎年あったのですが、外で描くのが楽しかったです。毎年入選して推賞も二度取っています。
でも、部活は中高ともブラスバンドですし、習い事もピアノを続けていました。
 

印象に残っている展覧会や出来事はありますか?

 


 
2019年に小田急百貨店新宿本店の美術画廊での、私の絵本原画と水彩の展示をしていただいたことです。絵本原画は私が全身全霊で描いた絵であり、わたしは細かい色調にこだわりがあるので、印刷物では表しきれない色を、広い会場で見ていただけて嬉しかったです。
 

画家として最もうれしかった時、最もつらかった時は?

 
つらかった時は、大学卒業後から9年間の就職・結婚・子育てという人生のメインイベントの時期です。充実しているのに、絵を描いていない自分が嫌で、画家になりたい自分としてはスタートも出来ないことがつらかったです。
うれしかったことを一つだけ選ぶことはできなくて、初めての絵本の出版や、企画展示の機会をいただいたことなどですが、今もわたしに絵を描かせてくれる、出会いのすべてがありがたく嬉しいことです。
 

今までの作品で最も「自分らしい!」と思う作品があれば教えてください。また、そう思う理由なども教えてください。

 

  陽だまり


「陽だまり」という作品です。
庭で採れたトマトなどを描いたものです。
私は絵で、目に見えるものを描くだけではなく、時間というそのモチーフの背景や出会った時の感動も描きたいと思っています。
この作品では、トマトを描きながら、カラフルなトマトのパワーだけでなく、陽だまりや、夏の日々といったものを表せた気がします。
 

最後に、今後の作品制作に向けての想いをお聞かせいただけますか?

 
作品をより多くの方に見ていただけるよう、私らしい作品を追求していきたいです。
また、同時に絵本など出版の仕事も大切にしていきたいと思います。
私は生態系の保全に関心があり、生き物への興味や昆虫観察の趣味を活かした絵本を描いてみたいですし、装丁や挿絵も手掛けたいと思っています。
 

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